異世界で働く熱血系不動産業者について

チャーハン

異世界不動産業者の日常

 不動産業者という仕事は非常に複雑であるといえる。

 不動産営業、 賃貸管理、不動産コンサルティング、etc。


 例を挙げるだけでも多種多様な業種が存在し、建物に密接なかかわりを持っている。それは、この異世界でも同じだ。


 異世界不動産会社、ホームミー。

 あなたの家に携わるというコンセプトを持った普通過ぎる中小企業。

 主な彼らの仕事は、住宅用地の内見サポートである。


 そして今日、一人のお客さんがホームミーに訪れていた。

 彼の名前は、レックス。緑色に輝く鱗を持ったリザードマンである。

 リザードマンとして人生を歩み二十五年。学をある程度つみ、営業をこなしながら生活していた彼は、最近一人の女性とお付き合いすることとなった。


 女性は、レックスと同じ種族であるリザードマンである。

 結婚という言葉を聞けば、誰しもがおめでたいというだろう。


 しかし、リザードマンには問題があった。

 住宅購入が円滑に出来ないのだ。


 それはコミュニケーションの問題ではなくリザードマンという種族としての問題だった。学を積んだバイリンガルリザードマンであれば、社会に溶け込み生活することが可能である。しかし、レックスのようなリザードマンは一部でしかない。

 

 社会的にリザードマンは社会的能力が低く、他種族との生活が難しい問題があったのだ。何より、住宅で問題を起こされ問題物件にされてしまえば不動産の価値が下がり売買に支障が出てしまう。


 それ故に、彼は住宅を内見する事すらできなかったのである。

 種族ゆえの障害が彼の人生に支障をきたしていた。


 最早彼には、プライドなどなかった。

 鋭い頭を地面につけながら、彼は言う。


「もう、ここしかないんです! 彼女と一緒に生活したいんです!! だから、だから! お願いします!!」

「……頭を上げてくださいや」

「……えっ?」


 レックスが頭を上げ、目の前に座る男の姿を見た。

 八二分けの眼鏡をかけたスーツ姿の男だ。


「わしゃ、お前さんの過去を知らん。だが、熱意だけは馬鹿みたいに伝わったぜ! お前さんの人生に合った住宅を紹介してやるよぉ!!」


 見た目にそぐわない粗雑な話し方をする男は一枚の紙を見せた。

 

「1LDK、リビング・ダイニング、キッチン、寝室、浴室・洗面室、トイレ、収納も付いたお手頃価格の物件だ。あんたさんの職場から少し距離はあるが、リザードマンの体なら屁でもないな!! どうだ、買うか!?」

「……コミュニケーションとかのトラブルとかは?」

「そういうのも問題ない! それに良ければ今から内見出来るぞ!」

「ほ、本当ですか! じゃあぜひ、是非お願いします!!」

「相受け割った! それじゃあいくぞぉ!!」


 メガネの男は大声を張り上げながらホームミーを後にした。

 町を歩きながらレックスはメガネの男に質問する。


「あの……なんでこんなに良くしてくれるんですか?」

「……まぁ、俺も昔会社に救われたからな。その恩義を返すために、顧客に対して真摯に働いているだけだよ」

「そうですか。かっこいいですね」

「だろぉ!? かっこいいだろぉ!?」

「……ちょろいな」


 レックスがそう思っていると、メガネの男が足を止めて指をさした。


「あの建物だ」

「見た目は少し古めですね」

「中は意外ときれいだからな。安心しろ」


 メガネの男がガチャリと扉を開く。ぎぃと音を鳴らしながら部屋に足を踏み入れると、そこに広がっていたのは汚れ一つないきれいな内装だ。


「きれいな部屋ですね!! ここなら住み心地よさそうです!」

「おぅ、それなら良かった! 俺もうれしいぜ!!」


 男はレックスが楽しそうに部屋を見ている姿を見つめながら口角を釣り上げていた。男にとって、この住宅は絶対売りたかった場所だからだ。


 なぜならこの場所は、一般人が住めば簡単に食い殺されるオオカミが出ると噂されていたのである。オオカミが死んだことは確認していたが、「まだ生きている」というありもしない噂が広まったことで売りつけることが出来ていなかったのだ。


 そんな建物を、リザードマンが買ってくれるのだ。

 これほどありがたいことはないというものである。


「顧客が嬉しい、だけじゃねぇ。こちらも嬉しい、ってのが一流不動産業者だぜ」


 男はメガネをくいっとしながらかっこつけていたのだった。

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