第9話

「それで、何するん?」


今は2階の臨時の私の部屋。布団を2枚敷いて、その上に座っている。


「そんなん簡単やん。ただただ喋るだけやで。」


カレンは簡単そうにそう言う。けど、こういう状況。思春期真っ只中の私たちなら、想像してしまうのだ。


 結局電気はつけたまんまで私たちは眠くなるまで話すことにした。


「んで、カレンはこれからどうすんの?」

「まぁ、あの家に住むのは確定として、そっからはな…色々やらなあかんな。料理もちょっとずつでも出来るようならなあかんし、語学もやな。しゃべれんかったらあかんし。」

「それ、私もやんな?」


私が同じようにシェアハウスに住むんだったら、私も多少なりとも喋れないといけない。今喋れるのは英語がほんのちょろっとのレベルだ。


「音羽ちゃんも一緒に住んでくれるん?」

「あれ?私はそういうつもりだったけど。」


自分で何を言ってるかは分かってるし、それが遠回しなプロポーズみたいなことだってのも分かってる。けど、言葉は意外とポロッと出てしまうようだ。


「それでいいん?」

「私はいいよ。こういうのがいい…やっぱり2人で過ごすのが1番いい。カレンは嫌?」


私はこの落ち着く時間が好きだ。お互いに何も喋っていなくて、時計の秒針の音が聞こえるような時間も、逆に喋って笑い転げている時間も、全部好きだ。カレンといる時間、それが私の中の宝物だ。


「自分は…音羽ちゃんといる時間が、1番落ち着く。気遣わんでいいし、唯一自分を全部見せれるから。疲れん。」

「それはよかった。」


顔が熱くなってきている。もうこれ以上耐えられそうにない。


 けど、もうちょっと話したい。カレンと話すのは楽しいから。


「そういえば、そのおばあさんってどんな人やったん?」

「その話か。長くなるけどええか?」


こうしてカレンと思う存分話して、夜が更けていった。







〇〇〇〇〇


―10年後


「カレン、起きろ。遅れんぞ。」

「ん?えぇ〜っ、もうそんな時間か?」


時間は朝5時半。今日はカレンと私が朝食の当番の日だ。昨日はシていたから私もカレンも一糸まとわぬ姿。


 私たちは高校卒業を機に付き合うことになった。もう9年前のことになる。あの頃は裸眼だった私も、今やこの家では眼鏡をかけている。カレンに貰った細い丸いヤツだ。


「本当に起きんとみんなに怒られるよ。いや、違うな。囃し立てられるよ。」

「分かってるって、音羽。あと5分だけ。」

「はぁ…」


私は下着をつけて、部屋着を着る。その間に起きるだろうと思ったから。


 けど、カレンは起きない。いつものことだ。こういうときはいつもこうする。


「起きないと虐めるけどいいかな?」


カレンの耳にこう囁くのだ。まぁ、セリフはいつも違う。そうしないと効果が薄まってしまう…と思うから。実際、カレンは耳が弱いんだけど。あと、これがポイントで、いつもよりも少し猫なで声でやると、さらに効果がいいのだ。こんなふうに。


「もう、その起こし方やめてぇや。」


上半身だけ体を起こしたカレンは、後頭部を掻きながらそう言う。これでしっかりと起きたようだ。


「おはよ、カレン。」

「おはよ、音羽。もう着替えたんか。」

「いつまでもあのまんまやったら風邪ひくやろ。シャワー浴びてくるから、着替えとくんやで。」


私はそう言って部屋を出た。


 カレンは、私と付き合い始めたのを機に『音羽』呼びになった。そして、自分のことを『俺』と言うようになった。理由を聞いたら、「今はまだ知らなくていい」って、どこかで聞いたセリフだな。


 そして、大学入学と同時にこのシェアハウスを作った。というか、半分オフィスみたいになっている。それは、


「Миша, ты опять поздно стримил?(ミーシャ、また遅くまで配信やってたの?)」

「Извините извините.(ごめんごめん。)я чувствую себя лучше.(調子よくなって。)」


ここはゲーム実況者のオフィス兼シェアハウスになったのだ。カレンが高校卒業後に小遣い稼ぎで始めたゲーム実況の動画で、このシェアハウスのことを言ってしまったらしく、入居者が殺到した。お陰で紀子さんに貸してもらったお金は全部返せて、今は悠々自適に過ごせているけど。


 だから、このシェアハウスは外国人留学生のためのシェアハウス兼外国人実況者のオフィスになっているのだ。


「まったく、カレンのやつ。シェアハウスさらに面倒なことにしやがって。」


でも、こういうのがいい…やっぱ2人で…

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ずっとふたりで(陰キャifストーリー) 136君 @136kunn

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