第8話

「あら、2人とも何してるの?」

「物件探しです!」


紀子さんが帰ってきたので、くっついていた私たちもさすがに離れる。親の目の前でイチャつくような度胸は私たちにはない。


 結局そのまま2人で物件を探し続けて、何かいいものがあったら呼んで、体を寄せあって、密かに手を繋いだ。


「(紀子さんには言わなくていいの?)」

「(あの様子じゃあ気づいてるだろうよ。言ってこーへんだけで。)」

「(それ1番タチ悪いやつちゃうん?)」

「(Madreそんなとこあるからな。)」


物件の相談をしている風にそんなことを話しながら、スマホをスクロールしていく。


「やっぱさっきのやつが1番か。」

「あの部屋いい感じやったよな。」


さっきブックマークした部屋を見る。広さも何もかも申し分ない。ただひとつ問題は…


「これってさ、あの2人と同じ感じなるよな。」

「たしかに。」


思い浮かぶのはある2人の顔。家が燃えたのどうのこうので一緒に住むようになった2人の顔だ。あの2人みたいになるって、絶対めんどくさいことなるよな。周りにどう説明するかとか。


「どうやって説明すんの?」

「そのまんまでええんちゃう?」


 それにしても問題になるのが日用品系だ。今は全部燃えちゃって、この家のを使わせてもらっているが。


「日用品は明日買いに行くとして、あとはこの家だな。」

「明日?」

「もちろんついてくるだろ。いつまでもmadreの服って訳にもいかんやろうし。」

「そうやけど。」


今の私の持ち合わせはあって数千円程度。幸い銀行のキャッシュカードは持っていて、アプリもあるからどうにかなるけど。それでも数十万円程度だ。これまで節約しておいてよかった。


「じゃあ明日はそれで決まりな。Madre!明日よろしく!」

「2人のためならどこだって行くわよ。」


紀子さんはめちゃくちゃ乗り気で、私たちのことを優しく見ている。


「それでもう決まり?」

「まあ、はい。」

「じゃあもう寝ちゃったら?今日は色々あったから疲れてるでしょ?」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」


私は洗面所に移動する。歯ブラシは旅行先から持って帰ってきたビニール袋に入ってるやつを使わせてくれるようだ。


「んで、なんでカレンはついてきてんの?」

「自分ももうちょっとで寝ようかなって。」


そう言ってカレンは欠伸をする。カレンも私と同じで疲れているのだろう。普段はこの時間ならまだ2人とも絶好調なのに。


「なぁ、今から音羽ちゃんの部屋で過ごしていい?」

「ええよ。私もあの部屋に1人だけって、ちょっと広すぎるから。」

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