第7話

「紀子さんから聞いたよ。色々。」

「そうか…じゃああのこと知ってるんやな。」

「うん。」


あのことってのが何を指すのか。そんなことは言わなくても分かる。


 カレンと初めて会った時、私のことを見てカレンはなにか懐かしむような顔をしていた。それが何かはそのときは分からなかったが、今ならわかる。


 私のことを、そのおばあさんみたいに思っていたのだ。困っていたら助けてくれる。そんな存在だと思っていたのだ。そのことが分かった瞬間に嬉しくなった。同時に悲しくなった。


 カレンはきっと、私の奥にそのおばあさんを見ていて、私のことなんか依り代みたいな感じにしか思っていないんだろう。


「その夢、私が手伝ってあげようか?」

「え?」


だから決めたんだ。絶対にカレンを振り向かせると。私を私として見させると。


 そのためだったら何でもする。幸い、私には夢という夢がない。だから何にだってなれるし、どこにだって進める。


 私はカレンの進む道を選択した。それだけだ。


「料理が出来なくてシェアハウスの管理人になる?言葉は喋れても家事が出来なかったら、人も寄ってこーへんわ。」

「それは分かってる。だから音羽ちゃんから習ってるんやん。」

「私がここまでできるようになるまで何年かかったと思ってるん?」


少しだけ口調が荒くなる。


「ごめん。」


そうとだけ謝って、私は話を続けた。


「私って小2の頃からずっと家事全般をやってたんだ。お母さんが帰ってこないことなんてざらだったから。」

「そうやったんや。」

「別に何不自由ない生活をしてたからそれはいいんやけど、それのお陰で1人で生活出来るくらいの力は身についた。だから、」


私はカレンの方を向く。


「私ならカレンのことを支えれる。カレンの力になれる。だから、カレンの夢を叶える。その手伝いをさせて。」


自分で言っときながら、絶対順序が逆だなって恥ずかしくなる。けど、今さら退くことなんて出来ない。カレンの人生の一部を私に乗っけてもらうんだ。不確定要素だらけの未来に私という不純物が混じって、それがどんな反応を起こすのやら。


「じゃあ、お願い。自分だけじゃ力不足やから。」


カレンは少し笑って、私にそう言う。その笑顔はとても優しくて、そして嬉しそうだった。私はそんなカレンの笑顔をまだ見た事がない。だから、少し嬉しくなった。


「それで、なんで自分にそこまでしてくれるん?」


カレンはそんな疑問を私に投げかけてくる。でも、その答えはずっと前から決まっている。


「カレンが好きだから。」

「へ?」


カレンの顔は少し赤くなる。私の頬も熱を帯びているのを感じる。


「だったらどうする?」

「おい。やめい。心臓止まるか思うたわ。」


カレンは少しほっとしたような顔になって、ソファーにもたれた。


「で、ほんまは?」

「今はまだ知らなくていいよ。」


今はまだそういうことにしておこう。

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