第5話
「私の話、聞いてくれますか?」
「うん。何でも言って。言えることだけは答えるから。」
私は大きく息を吸って、そして吐き出した。
「カレンがあそこまで一人暮らしにこだわる理由ってなんですか?ここなら別に最寄り駅が違うようになるとかじゃないし、少なくとも今よりは十分な生活ができるでしょう?それなのに、あそこまで一人暮らししたい理由はなんですか?」
目の前の紀子さんは少し驚いたような顔をして、そして納得した。
「そこまでちゃんと考えてくれてるんだね。じゃあ私も応えないと。これはカレンの目標の話になるんだけどね。」
そして紀子さんは懐かしそうに話し始めた。
「カレンが3歳だった頃、私たち一家はこっちに引っ越してきたの。お父さんの仕事の都合でね。それで、何も知らない、言語も違う世界に放り出されたカレンは誰にも助けを求められずに1人でなんとか生きていた。けど、それにも限界がきてね、髪の色とか瞳の色が違うからっていじめられて、そして不登校になったのよ。」
「カレンが…そんな話はなかったです。」
「カレンがこの話をすすんでするはずないもの。当たり前よ。」
カレンの昔話とか、私から振ることもなかったし、そんな話をしようともしていなかった。私はカレンの1部しかまだ知らなかったんだ。
「そのときに助けられたのが近所のおばあさん。今はもういらっしゃらないけど、本当に優しい方だった。その方の影響でね、大学生になったら外国人向けのシェアハウスを作るって、カレンは決めたのよ。」
「つまり、カレンが一人暮らしをするのは自分の夢のためと。」
「そうゆうこと!」
カレンにそんな目的があったなんて。だから私から料理を習うのも積極的やったんや。
たしかに少し変だなとも思っていた。カレンの家にはいろんな言語の本があって、いろんな国の本があった。ただのイタリア人がそんなことをするかなって思っていた。まさかここで繋がるとは。
「紀子さん、私…ずっと間違えていたみたいです。何度も料理しなくてもいいのにって言ってしまってました。カレンの夢のことも知らずに。」
「まぁ、私も心配だけどね。料理なんてからっきしのカレンがシェアハウスを作るってのは。でも、音羽ちゃんがいるなら安心ね。」
「それ、どういうことですか?」
「そのままの意味よ。」
紀子さんはからかうように笑う。その笑みには色んな意味を感じた。
「まず、カレンとちゃんと話して、カレンとちゃんと分かりあって、それからね。」
「はい!」
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