第4話

 下に降りると、テーブルの上に広がっていたのは、私たちの今まででは考えられないほどの豪華な料理だった。


「すごっ」

「だろ。うちのmadreは料理がうめぇんだ。」

「そんなこと言ったってカレンの取り分は増えないわよ。」


笑いながら私のところであろうところの椅子を引いて、「どうぞ」と言ってくる。軽くお辞儀して私はそこに座った。


「いただきます。」

「いただきます!」

「はいどーぞ。」


 今晩の献立はブリの塩焼きと味噌汁、小松菜のおひたし、冷奴、そして五目おこわだ。おこわなんてここ2年食べてないから、懐かしくも思える。


「うま。」

「喜んでくれて嬉しいわ。じゃあ私もいただこうかしら。」


紀子さんは私の前に座って、晩ご飯を食べ始めた。


「ん〜!今日も美味し!やっぱり私天才かも。」

「そうじゃなきゃあのpadreの胃袋掴めてへんから。」

「それはそうかもね。」


そんなことを話しながらも、箸が止まらない。私もこんな料理を掴めるようになったらカレンの胃袋を掴めるのだろうか。


「そういや、上でなにか話していたみたいだけど、家の事?」

「ええ、まぁ…」

「次の家見つけへんとあかんもんな。」


カレンはもう食べ終わっていて、コップの中のお茶を飲みながらふんずりかえっている。いつも見ている光景だ。


「そうだね。じゃあ私もちょっとは手伝お。なにか聞きたいことあったらいつでも相談してね。」

「…はい!」


聞きたいことなんか山ほどある。だけど聞けることはほんのわずかしかない。


 私も食べ終わってお茶を飲みながら話していた。


「それで、学校でのカレンってどんな感じなの?一人暮らし始めてからまったく分からないから。」

「まぁ、普通ですよ。テストは…特に悪いわけでもなく。」

「その間、なにかあるのね?」

「私が教えているんで。」

「それは言わんでええやろ。」


カレンは少し不機嫌そうな顔をして、冷蔵庫から炭酸水を取ってくる。


「ん?いるか?」

「いらんよ。そのまま飲むんやなって。」

「この味が好きやから。あと、割ったらなんか炭酸のシュワシュワが弱くなる気するし。」

「何やねんそれ。」


場所は変わってもいつも通りの感じ。そしていつも通りの会話だ。そんな姿を紀子さんは微笑んで見ている。


「うん。2人が仲良いのはいいことだけど、お風呂できたから。私はもうちょっと音羽ちゃんと話したいし、カレン入ってきて。」

「ん。」


カレンは炭酸水の蓋を閉めて、風呂の方に歩いていく。リビングのドアが閉まったのを確認して、私は紀子さんの方を見た。


「んで、話って何かな?」

「気づいてたんですか。私が話したそうにしてるの。」

「まぁね。伊達にあの子育ててないから。」

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