第3話

「最近は便利なっててな、スマホ1つで内見っぽいことは出来んねん。」

「へぇ〜。」


知ってる。何年日本人やってると思ってるんだ?もちろん元のあの部屋もそうやって決めたし、何なら4月に入ってから初めて入ったのだ。そうじゃなきゃあそこにも住んでないし、カレンにも出会えてなかった。


「場所どこがいいとかある?」

「特にないな。駅から歩ける距離がいいかも。」

「間取りは?」

「そこら辺考えたことないねんな。でも、2、3人は住めるとこにして欲しいな。」

「バス?ユニットバス?」

「どっちでも。」


そんな感じで、カレンからの質問に答える感じで入力していく。そして数分後、全ての項目が入力し終わった。


「とりあえず出たから一緒に見よや。」


カレンは何ともなさげに私が座っているクッションに乗ってきて、私に体を寄せてきた。近い。近すぎる。


「こことかどう?萱島やから定期の区間短なるから定期代浮くで。」

「ちょっと駅から遠いかな?徒歩20分はキツいかも。」


ずっとその状態でカレンはスマホを見ている。


「どこがいいかな〜?あっ、これとかどう?」


次に見せてきたのは駅は古川橋で同じ、今までの家よりは少し遠くなるが、周りに色んなものがあるところ。少し広めの部屋で新しめのところだ。


「いいやん。じゃあこのパノラマ見よーや。」


カレンはパノラマのところをタップする。すると部屋の写真のパノラマ画像が出てきた。画質もそこそこいいから、部屋の感じが何となくわかる。


「キッチンはそこそこ広めやな。」

「リビングもいい感じ。」

「部屋も広いし、綺麗。」


必要なところをチェックしていく。その間もずっと距離は近い。


 急にどうしたんだろ。カレン、今までこんな感じやなかったのに。一緒に食べているときも、勉強してるときも、ずっと一定の距離があった。


 なのに今さらどうして…


「でもこれだけ見ても分からんよな。あんまり。」

「やっぱり実際に行ってみーひんと。」

「じゃあ行く?」

「行こか。自分もこの部屋の隣空いてるか知りたいし。」

「またお隣さんになる気なん?」

「まあまあしゃーないやん。」


こいつはいつまで経っても自分で生活しようとしないらしい。私がこれまで何食作ってきたんだろう。あんな料理スキルでよく一人暮らししようと思うわ。


「そういえば、そこまでして一人暮らししたい理由って何なん?」


ふと思って聞いてみることにした。


「それは…」

「2人とも、ご飯できたよ。」


カレンが何か言いかけると、下から紀子さんの声がした。


「行こっか。」

「やな。」


私の心には僅かな疑問が残ったままだ。

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