第2話

「いらっしゃい。カレンから話は聞いてるわ。2人とも大変なことになったね。」

「よろしくお願いします。」

「そんなにかしこまらなくていいのよ。上がって。」


紀子さんは鼻歌を歌いながら奥にあるリビングに歩いていく。


「お邪魔します。」


家に上がったのはこれが2回目。前は1年の文化祭の準備のときだ。少し懐かしくも思えるその部屋には、ブルーノさんはいなかった。


「お父さんなら今は仕事でいないわよ。今回は関東の方行ってるはずだから。」

「そうですか。」

「あっ、そうだ。部屋は、2階の空き部屋が1つあるからそこ使って。着替えは…私のでいけそうね。」

「あっ、はい!ありがとうございます。」


私と紀子さんは身長が同じくらい。体型もよく似ているから服は紀子さんのを借りることになった。


「ちょうど明日日曜日やし、服見に行こっか。そんで必要なものも全部揃えて…」

「私お金そんなにないですよ。」

「それは私に任せて。それくらいは持ってあげるわ。」


久しぶりの『母親』の感じに泣きそうになる。それをぐっと堪えて、使わせていただく部屋に入った。


 部屋は本当に普通の空き部屋だった。椅子もベッドも何も無い殺風景な部屋。壁は1面真っ白で、窓は小さく、白いカーテンがかかっている。


「ふぅ…」


ずっと持っていたカバンを下ろして、フローリングに寝転んだ。


「これからどうしよっかな。」


 まずやらないといけないのが、生活用品を買うこと。次はバイト。そして最後に部屋を探すこと。いや、最後の2つは逆でもいいか。お母さんに連絡したら次の部屋も最初だけはお金出してくれるみたいだから。バイトを増やすかはまた今度考えよう。


 紀子さんに貸してもらった部屋着に着替える。ダボッとした紫色のパーカーに黒のスウェット。脱ぎ捨てた制服は綺麗に畳んで、隅に置いておく。


 そのとき、部屋のドアがノックされた。


「音羽ちゃん、入るで。」

「どーぞー。」


いつものようにカレンは私の部屋に入ってきた。場所が違うから、なんか違和感があるけど。


「使わんくなったローテーブルとクッション。あとはブランケット。自分の部屋にあるのはこれくらいしかなかったからこれで勘弁して。」

「わざわざありがとね。でも、ほんまに使わんやつなん?これなんかめっちゃ綺麗やで。」


受け取ったクッションを見て私は言う。黄緑色のそのクッションは低反発のやつで、椅子にもなるタイプのやつだ。


「自分の部屋これもう1個あるから。いっつもそっち使ってるし。これはあんま使ってないな。」

「そ、そう。」


部屋の真ん中にローテーブルを置いてその横にクッションを置く。そして、ブランケットをかけた。


「そんでや。いきなりやねんけどさ、部屋探そ。」

「え?」

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