第4話 夢想

 手のひらを見る。

 二、三度手を開いて閉じてを繰り返してから、その手を胸に当てた。

 懐かしい、もう今の私には届かない景色達。

 この手で掠ることさえ叶わなくて。そのことに悲嘆すれど、昔に戻れることはない。

 それでいいと。今の私はただ、そう思っている。

 今の私には今の生活があるから。

 優しくて温かい家族と、穏やかな友人と。あの時憧れていた王子様はいないけれど。

 それでもいいと。私は心からそう叫べる。

 だから構わないな、なんてことを思いながら体を起こし、今日を過ごす準備を始めた。


 構わない。だから私は前世の頃に戻らなくていいと。心の底からそう感じている。

 ……けれど。それでも前世に思いを馳せるのだけは。

 それだけは、許してほしいな、なんて誰に許しを乞うでもなくそう思った。

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