第2話 シンデレラ

「そういえばさ、絵羅ちゃん」

「なあに?」

「絵羅ちゃんって、童話に詳しい?」

 友人からのそんな唐突の質問に疑問符が浮かぶ。

 そんな様子がわかりやすく体に出ていたのだろう。同時に傾げた首は、友人の手によって鷲掴みされ、そのまま元の状態に戻って行った。

「突然どうしたの?」

「いやさ、最近気になってるゲームがあって。童話を題材にしているんだけどね? それでふと、そういえば絵羅ちゃんって童話知ってるのかなぁって」

「結構突飛な疑問だねぇ」

「でしょ~」

 ヘへッと笑った友人に淡く微笑む。そうしてから質問に答えようと考えを巡らせた。

「うーん、私はねぇ」

 過った思い出に、思わず笑みが零れ出る。

「シンデレラが、好きだよ」

 そう口にした瞬間、友人が大きな声で「確かに!」と口にしていた。

「”確かに”?」

「いやさ、絵羅ちゃんらしいなと思って」

「”私らしい”?」

「そう! 絵羅ちゃんの普段の好みを思い出して、好きそうだなぁ、って思った」

 また彼女特有の笑いを見せた友人はすぐにこちらを輝くような瞳で見る。

「絵羅ちゃんも、やってみない?」

「ふふ、どういうのか聞いてからね」

「!! 布教待ってましたぁ!! 何から聞く?? 沢山取り揃えてます!!」

「お手柔らかにね」

「あいあい!」

 彼女の勢いに乗せられ、そのまま授業開始のチャイムが鳴るまでの間、彼女にそのゲームの布教を聞くことになった。彼女の推しは『不思議の国のアリス』の”アリス”らしく、その子の話をしている間はとてもにこやかに、楽しそうに話していた。

 その様子が可愛らしく、引き込まれるような話だった為ずっと聞いてしまい、いつしかチャイムが鳴っていたのだ。後でライン送るね! と沢山の布教をされる約束をし、授業の為に席に戻る。

 そうして始まった授業の間。先生の話を聞きながら、ふと先程の話を開いた時に思いだした過去のことを改めて思い起こす。

 過去。正確には私が白雪絵羅として生まれた後のことではなく、飯岡結衣として死ぬ前の日々のこと。

 私が普段は前世と呼んでいる昔のことを思い起こしていた。

 そこで私は病弱で。ずっと入院していた。最早そこまで行くと病院に住んでいると言っても過言ではないのではないか、というくらいに入院していた。

 そんな日々が日常になり始めた幼少期。何歳だったっけ。詳しい年齢は正直覚えていないけれど。

 ずっと室内で過ごしていた中で見つけた、とある一冊の本。その本には、様々な童話が幼い子供でも分かりやすく読めるようにイラスト付きで書かれていた。

 その中に見つけた、青いドレスを着る少女に。いつしか憧れていた。

 後からその物語は”シンデレラ”という童話だということを知ったけれど。そのことすらわからなかった当時の私はただ、彼女の姿に憧れ。そしていつしか王子様が迎えに来てくれないかと夢想していた。

 幼い頃の、些細な妄想。結果的に叶うことはなかったし、いつしかそんな夢みたいな出来事が現実に起こることはないと思うようになっていったけれど。

 それでも、シンデレラという少女とその物語だけは好きなままだった。

 だった、というのもおかしいか。その嗜好は現在でも続いている。

 だから本屋でシンデレラに関する本があると、思わず買ってしまうし、シンデレラをモチーフにしたグッズがあると、迷わず買ってしまう。それくらいにはシンデレラと言うお話が今でも好きだ。

 そんな思い出というには最近まで続いている出来事を思い出して、そして若干友人の話していたゲームに興味を惹かれている自分に気づき、小さく笑う。帰ったら友人からのラインに書かれてある布教を見て、本格的にゲームをやってみようかな。そんなことを思いながらその後の授業を過ごしていた。


 そんな絵羅を遠くから眺める男がいる。

 その男は彼の前の席にある絵羅に、一心に視線を注いでいた。

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