シンデレラは夢を見ない

市之瀬 春夏

第1話 日常

 目を覚ます。いつも通りすんなりと起きた体は、寝起き特有の怠さを残すこともなく、支度を始めさせてくれる。そんな有難い作りの体に感謝の気持ちを思いながら、顔を洗い、歯を磨いて支度を済ませ、食卓へと向かった。

 食卓では私以外の家族が全員集まり、各々の準備をしている。私が一番のお寝坊さんでなんだか恥ずかしいが、きっとそんなことを気にしている家族は誰一人としていないのだろう。私が起きてくると、優しく穏やかに「おはよう」と挨拶してくれることがほとんどだった。

 朝食を済ませた後は準備を済ませ、そして学校へ。同じ高校である弟の慧琉と共に学校へと向かう。道中話すのは他愛もない話。基本私が話して、慧琉が静かで穏やかに話を聞いてくれる。友人達には話を聞く方で済ませてしまうが、元々は話すことが大好きなのだろう。普段友人に対して話さないような話を呟くように言ってしまう。そんな私の様子を慧琉はどこか楽しそうに聞いてくれるから、申し訳ないとは思いつつも遂ずっと話してしまうのだ。

 そうして学校に着けば、学年の違う私達は玄関で分かれる。また後で、なんて言いながら背を向け教室へと歩を進めた。

 昔と違って倒れることはなく、無事に教室に着く。扉を開けて入れば、まだ朝早い時間の為か、静かな時間が流れていた。

 まだ数人しかいない教室に入り、自身の席へ。その道中で友人を見つけたから声をかければ、友人はこちらを見ると嬉しそうに笑って挨拶をしてくれた。その姿に微笑ましくなり、こちらからも挨拶を返す。

 お互い好きに時間を使いながら過ごしていれば、段々教室の中に人が集まってくる。その中に現れる友人一人一人に挨拶を返しながら、本を読み進めていった。

 ある程度読み進めたところで鳴るチャイムに、一度本を閉じる。待っていれば担任の先生がやってくるから、恒例となった挨拶をクラス全員と先生とでして、今日は始まっていく。

 昔とは違って、何もかもが新鮮で、けれど何気ない一日が今日も始まる。

 昔であればきっと、毎日学校を通うことすらできなかった。家にいることもほとんどなくて、一日のほとんどを病院で過ごす。ほとんどどころかずっとかもしれない。

 そんな毎日が、昔は続いていた。

 けれど今は違う。お金があれば買いたいときに買いたいものを買えるし、お金がなければバイトを始めればいい。

 使える体力のことなど考えずにやりたいことをしながら一日を過ごせるし、逆に何をしないもできる。

 何も、私の体力や寿命のことをずっと考えずにしたいことができる。

 そんな日々は、正直夢の中だけの出来事だと思っていた。

 けれど違う。これは全て現実で、変えられることのない事実。

 そんな、きっと他の人からしてみれば些細な現実が。私にとっては嬉しくて楽しいものだから。今日も楽しく生きようと考える。

 そう考えられるから。私は生きていて幸せだな、なんて。漠然と、けれど確実にそう思える。

 こんな幸せな日々が続けばいい。そうすれば、私は夢を見ないで生きられるから。

 そんなことを願いながら、今日も生きていく。


 これは白雪絵羅という少女の日常を描くお話。

 そこに突飛な冒険譚や、熱を上げるほどに濃い恋愛物語などない。

 ただ普通や当たり前に焦がれた少女が、普通や当たり前の幸せを享受する。ただ、それだけの話だ。

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