第四章 ミルティア戦争編

第一話 原作ヒロイン

「こんにちはー」

「「こんにちはー!!」」

「は~い、ちょっとお待ちくださーい!」

「……あれ?」

「おにーちゃん、どうしたの?」

「にいさま?」


 グラディオルをサクッとやっつけてからおよそ二カ月。今日はあの時のお礼とお詫び、そしてお祝いのためにサーシャさんの孤児院にやってきた。あっちでごたついたせいで私塾の子たちの入学試験に間に合わなかったからね。幸いあの時受験した子たちは全員無事に合格できたようなので、そのお祝いも兼ねて王都で有名な店のスイーツをたくさん買い込んできた。

 もちろんセイラとリエラ嬢も一緒。二人はサーシャさんから魔法の指導を受けてるからね。


 本当はもっと早く来たかったんだけど、用務員の仕事が忙しくてなかなか時間が取れなかったんだよね。新たに学園長に就任したおばちゃんの要望で学園の各所に手を入れることになっちゃって。イヤミー君たちがいなくなったこともあってなかなか大変だったけど、なんとか乗り切ることができた。

 ってことでようやく来れたんだけども、なんか違和感が……。


「いや、今の声、サーシャさんの声とは違ったような?というか、なんか聞き覚えがあるような?」

「「ルミナお姉ちゃんだよ?」」

「へぇ……、ルミナさんって人が……ルミナ!?」

「「???」」


 それってまさか原作ヒロインの?いや、まだ同名の別人という可能性も……。あれ?だけどあの声、人気声優のあの人に似てたような?……え?本物?なんでここにいんの!?


「……もしかしてその人って髪が薄ピンクで口元にほくろがあったりする?」

「そうだよ!」

「おにーちゃん、知ってるの?」


 やっぱりそうかー。本物かぁ……。原作ファンのみんな、俺はこれからルミナに会うぞ。


「あら、リエラちゃんにセイラちゃんじゃない。いらっしゃい」

「「お邪魔しまーす!」」

「おぉ……」


 おぉ、本物のルミナだ。原作ヒロインのルミナだ。超人気声優が声を当ててるルミナだ。人気投票二位のルミナだ。まじかー、ここで会うかー。

 あ、ちょっとマイン君、引かないでくれるかな?


「えーっと、こちらの人は?」

「にいさまです!」

「おにーちゃん!」

「あら、じゃああなたがマインさん?サーシャさんから話は聞いてるわ」

「あ、初めまして。マインです」


 おぉ、ルミナが俺の名前を呼んでる。ルミナを推してたみんな、すまんな。俺は名前を覚えてもらったぞ。

 いや、だからマイン君、引かないでって。原作ファンならほぼほぼガッツポーズするくらいのビッグイベントだからね?




「――ってことで今はここにお世話になってるってわけ」

「なるほど」

「「なるほどー」」

「[[はぁ……、かわいい]]」

「もー、二人ともかわいいわねー!」

「「えへへ」」

「[[てぇてぇ]]」


 俺の真似をしてうんうん頷くふたりがかわいい。ルミナに抱き締められてニッコニコのふたりが尊い。

 ルミナは入学試験の二カ月ほど前にこっちに戻ってきていたんだって。セイラとリエラ嬢は何度かルミナと挨拶したことがあるらしい。学園の試験が近かったこともあってちゃんと話す機会はあんまりなかったみたいだけどね。

 それにしても全然知らなかった。たしかに今思い返すと、サーシャさんとここに戻ってきたときに子どもたちが言ってた受験メンバーの中にルミナの名前もあったんだよね。まさかここにいるなんて思ってなかったから完全に聞き流してたよ。


 彼女は物心つく前にこの孤児院に預けられたみたいで、当時ここの院長だった老人とサーシャさんに育てられたんだって。つまり原作で彼女が探してた恩人がサーシャさんだったってことになる。……これ、ルミナルートに入ると【魔眼】を奪った司教戦で特殊会話とかがあったりしたんだろうなぁ。

 となると、だ。サーシャさんと似たような状況にあったセイラにも何かしらのイベントがあったんだろうなぁ……。わざわざ『精霊』が俺を『』にするくらいだし。

 どうにかして攻略サイトを見る方法はないだろうか。先回りして関係者をぶっ殺しときたいんだけど。




「だけど教会ってほんっとうに酷いところなのよ!あんな子たちが聖女候補だなんて!」


 情報収集も兼ねてルミナに軽く教会の話題を振ったら、ものすごい勢いで教会への不満をぶちまけ始めた。どうやら相当ストレスが溜まっていたみたい。まぁ、やっと愚痴れる相手を見つけられたわけだからね。さすがに子どもたちにする話じゃないし。


 六年ほど前に光属性に高い適性があることが判明した彼女は、聖女候補の一人として総本山ミルティシアで修行していたんだって。だけど聖女は教皇と並んで教会の象徴ともいえる存在。その座を狙う聖女候補とその支援者たちが裏で壮絶な足の引っ張り合いを繰り広げてるそうだ。そんな暗闘に嫌気が差していたときにサーシャさんが教会を離れたことを知って、完全に愛想が尽きたんだって。

 それにしても教会への悪口がどんどん出てくる。こっちが思っている以上に内側は酷いんだろうな。


「ちょっとルミナ、マイン君が困ってるわよ?」

「だって、あんな人たちが聖女になるなんておかしいわよ!」


 途中でサーシャさんが助け舟を出してくれたけど、それでもルミナの愚痴は止まらない。


「それにしてもよく教会をやめられましたね?」

「許可自体はすんなりと出たわね。他の子たちやその支援者たちもライバルが減って都合が良かったんだと思うわ」


 とはいえ、各国での布教活動の予定が組んであったみたいで、それをこなしてからやめることになったんだって。でもそれ、入信した側からしたら微妙な感じだよね。自分が入信する切っ掛けになった人がそのあとすぐにやめちゃうんだよ?まぁ、俺が心配することじゃないけどさ。




「もちろん信仰は捨てていないわよ?私もサーシャさんも元聖女候補だしね。だけど今の教会はかつて『巫女』様たちが守ったものとは全くの別物よ」

「『巫女』様?」

「あら?マインさんは聞いたことないの?」

「ないですね」

「……そういえばリエラちゃんやセイラちゃんにも『巫女』様の話をしたことはなかったわね」

「あ、それじゃあ私が話してあげるわ!私、あのお話が大好きなの。他の子たちも喜んでくれるはずよ」


 どうやら『巫女』なる人物はミルティア教にとって重要な人物らしい。……ちょいちょい知らない要素ぶち込んでくるのやめろ。俺がプレイしてないルートで出てきたのかもしれないけどさ。それにしたってこういうのが多すぎる。あのゲーム、いくつルートがあったんだよ。

 というかサーシャさんも聖女候補だったのか。まぁ、【魔眼】持ちだし司教とか枢機卿のことも知ってたもんな。そりゃそれなりの立場にいたって考える方が自然か。なぜ気付かなかったのか……。




「それじゃあ『巫女』様のお話を始めるわね」

「「「は~い!!」」」


 子どもたちを前に『巫女』の話を始めるルミナ。この子、原作ではもっと大人しい感じだったけど、実際に会うとだいぶ印象が違うな。他のファンはどうか知らないけど、俺はこっちの方が好きだよ。

 たぶん原作ではサーシャさんのことがあったからああいう感じだったんだろうね。やっぱ鬱展開とかそういうのはいらないんだよ。


 で、肝心の『巫女』の話。『巫女』というのは千年ほど前の聖女のことらしい。彼女はある時、大国の王子に求婚される。だけど神に仕える身の彼女はそれを拒否。それをきっかけに起こったのがミルティア教への大迫害だったんだって。

 彼女は信徒たちを守りながら東へ東へと逃げ続け、遂に今のミルティシアがある地に追い詰められた。当時は小さな田舎町に過ぎなかったその地は迫害者たちに完全に包囲される。

 そんな状況でも彼女は信徒たちを鼓舞し続け『最後の聖戦』に挑む。信徒たちと迫害者が今まさに衝突しようかというその瞬間――。


「空から天使様が舞い降りるの!」

「「「わぁ〜!」」」


 ルミナの話を聞いていた子どもたちから歓声が上がる。子ども受けしそうな話だもんね。セイラとリエラ嬢もこの話を気に入ったみたい。

 伝説のクライマックス。神に遣わされた戦天使サンククルは圧倒的な力で聖女の敵を殲滅する。サンククルに救われた彼女たちはその地をミルティシアと名付け、聖なる地として守り続けることを誓う。そして彼女は聖女の中でも特に神との繋がりが深い存在、即ち『巫女』と呼ばれるようになったのでした。おしまい。


「『巫女』様、ディーネ様は今も空の上からみんなを見守ってくれているの。だからみんな、いい子にしてなきゃだめよ?」

「「「はーい!!」」」


[[[懐かしいなー!]]]

[[[いい子だった!]]]

[[[お嬢によく似てた!]]]

「……っ」


 うわぁ……。これ、絶対にセイラに関係あるやつだわ。『精霊』が覚えてるってことはたぶん『巫女』も『愛し子』だったんだろうな。というか、それ以外の人はほとんど覚えてないだろうし。うん、完全に厄ネタだ。




 子どもたちが遊びに戻った後で、ルミナにもう少し詳しいことを聞いてみた。どこにヒントが眠ってるか分かんないからね。


「『巫女』様ってなんでそんな奇跡を起こせたんですかね?」

「うーん、私もそこまで詳しくは知らないのよね。資料もあんまり残ってないし。なんせ千年も前のことだもの」

「あー、それもそうか」

「あ、でもいくつか有名な説はあるわよ?まぁ、『巫女』様が特別な属性の魔法を使うことができたとか、『巫女』様が『ミルティア神』様の娘だとか。どれもふんわりしたのばかりだけどね」

「へぇ~」

「あ、そうそう。私の友達の子、あ、この子も聖女候補なんだけどね?その子は『巫女』様が『精霊』と関わりがあったんじゃないかって言ってたわね」

「……っ」

「シルフィエッタって子なんだけどね?『巫女』様の伝説が大好きでね?総本山の書庫に何日も籠って調べ物をするような子なの。しばらく会ってないけど、あの子元気にしてるかしら……」


 なにその“私、『精霊』に関係あります!”みたいな名前は……。露骨過ぎない?だけど俺の記憶にはそんなキャラいないんだよなぁ。てことは、特定のルートにしか登場しないキャラクターの可能性が高いか。てことはどこかでセイラにも関わってくる可能性がある。今の段階では敵か味方かは分かんないないけどね。


 はぁ……。厄ネタこっち来んなよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る