第二話 王都の花火職人

『――ここに闘技大会の開催を宣言する!』


 国王の開会の挨拶が終わったのに合わせて【】を打ち上げる。ヒュ~という音とともに花火が打ち上がりパッと咲いて散ると、会場から歓声と掛け声が上がった。


「「「たーまやー!!」」」

「「「かーぎやー!!」」」


 うん、セイラやリエラ嬢にトール君も楽しそうだね。初めて【花火】を見たときはビクビクしてた彼らも今では満面の笑みで掛け声をあげている。やっぱり子どもはこうでないと。

 関係改善のために招待した各国の要人たちも最初は驚いていたけど、今は楽しんでくれてるみたいだね。


『たーーまやーーー!!!』


 うわぁ……、国王めちゃくちゃはしゃいでんじゃん。なんだあの人。ひくわー。




 昨年の闘技大会で元学園長たちを捕らえたことで名誉男爵を賜ることになった。それで家名が必要って話になったんだけど、セイラが推したのが「ターマヤー」だった。気に入ってくれたのは嬉しいんだけど、俺的には語感がしっくりこなかったんだよね。だけど俺もマイン君もセイラのおねだりには勝てる気がしなかった。

 そこで慌てて提案したのがファイアワークス花火だ。だけどこの世界に花火なんて存在しないわけで。セイラも何それ?って感じだったから、魔法で花火を打ち上げることにした。と言っても、花火の構造なんてなんとなくでしか知らないから爆発魔法でそれっぽい感じにしたものだけどね。

 でも、いきなりあの音と光がしたら大騒ぎになりそうじゃん?てことで辺境伯に相談したら、魔法の実験という名目で王城の訓練場の使用許可を取ってくれた。


 で、セイラや辺境伯一家、ベルガルドさん一家が見守る中【花火】を打ち上げたんだけど、結局大騒ぎになった。

 すわ一大事という勢いで兵士たちがとんできたり、一部の使用人たちがパニックになったり。どうやらいつぞやの大爆発を覚えてた人たちがまた爆発が起こったと勘違いしたらしい。……そういえばそんな事件もありましたね。

 まぁ、事前に大きな音がすると伝えてたから怒られはしなかったけどね。で、せっかくだからと大勢が集まった中で再度打ち上げることになった。なぜか国王まで見に来てたけど。暇なのかな?



 二発目は一回目に歪んでた部分や色味を微調整して打ち上げた。ビクッとしてた人もいたけど、ほぼすべての人がその美しさと鮮やかさに目を奪われた。

 それに合わせて“たーまやー”と“かーぎやー”を言ったら、なぜかそれが子どもたちだけじゃなく、一部の見学者にぶっ刺さったらしい。特に国王の食いつき具合が凄かった。あんたそういうキャラだったの?去年の闘技大会の時はもっとクールっぽい感じ出してたじゃん。

 で、それ以降、用務員の仕事とは別に今日みたいなイベントで花火を打ち上げる依頼を受けている。あと俺以外の花火職人の育成も。


 まぁ、そんなこんなで無事セイラの説得に成功し、俺たち兄妹はマイン・ファイアワークスとセイラ・ファイアワークスになった。ちなみにファイアワークス家の紋章にもちゃんと花火をモチーフにしたマークを入れておいた。これを見せると所属する国と爵位が相手に分かるようになってるみたい。どこぞのご隠居の印籠みたいなもんだね。




「それじゃあ次のを打ち上げてね」

「「「はいっ!」」」


 花火職人たちが打ち上げた【花火】は空高く舞い上がり、破裂音とともに戦士や武器、魔法使いなどをモチーフにした模様を作って散っていく。ちゃんとどの席からでも模様が見えるように工夫されてるね。


 珍しい属性ではあるけど、人口が多いこともあってこの国には爆発魔法を使える人がそれなりにいる。だけど実戦で使える人となるとごく僅かなんだよね。魔力が少ないとすぐにガス欠しちゃうし威力も知れてるからね。

 そういう事情もあって魔力の少ない爆発魔法使いは光や音で異常を知らせたり、魔物を追い払ったりするのが主な役目だった。だけど、それって爆発魔法使いじゃなくてもいいわけじゃん?そういうわけでせっかく爆発魔法を使えるのに、それを活かせない人たちがいたわけだ。


 そんなときに公開されたのがこの【花火】の魔法。音と光を楽しむ魔法だから威力は必要ないし命の危険もない。花火職人は一気に爆発魔法使いたちに人気の職業になった。光属性や音属性の魔法使いからも志願者がいたのには驚いたけどね。

 そんな彼らに花火の見本を見せて簡単なアドバイスをするのが俺の役目。あとは彼らが感性のままにオリジナルの花火を作っていくだけ。魔法だから絵を描いたり文字を書いたりとアイデアと工夫次第で模様も色も自由自在だ。注意しなきゃいけないのは、ギャラリーがどこから見てるかを考えて魔法を構築する必要があることだね。

 そんなこんなで何人もの花火職人が誕生して、王都以外にも徐々に花火が広まりつつあるらしい。まだ公開して一年も経ってないのにね。


 ちなみに俺と彼らの【花火】は少しだけ違う。彼らが爆発魔法をそのまま打ち上げるのに対して、俺は地属性魔法で作ったボールに爆発魔法を込めて打ち上げている。理由はあのヒュ〜という音を出すため。

 普通に打ち上げただけだとどうしてもあの音が出なかったんだよね。でも花火ってあの音があってこそじゃん?それを出すためにいろいろと試行錯誤したけど無理だった。音属性の魔法使いに頼めば早いんだけど、毎回頼むのは気が引けるしね。

 そこで仕方なくボールに笛を付けて、あの音を再現することに成功した。前世の職人さんたちはどうやってあの音を出してたんだろうね?




「いやぁ、花火っつーのは派手でいいなぁ!」

「ウォルスさんもすっかりはまっちゃいましたね」

「見て楽しむ魔法なんてほとんどなかったからな。しかも派手なのがいいぜ!かーぎやー!」


 ウォルスさんはイヤミー君たちを捕らえた功績で男爵になるって話もあったみたいだけど、“領地の運営なんてできるか!”って断っちゃったらしい。ウォルスさんらしいね。

 そうそう。おばちゃんが学園長になったことで、入学式や卒業式での来賓の挨拶がぐっと短くなった。去年の入学式のあとで旦那のドラなんとか侯爵に魔法で雷を落とした話が広まったらしい。

 ネビル氏は相変わらず寝てたけどね。セイラに“ネビルおじちゃんはいつも寝てるね?”って言われて、ちょっとへこんでたから卒業式は大丈夫のはず。たぶん。






『魔法科の優勝はなんと一年生のルミナ!!』

『並みいる上級生たちを圧倒!ニューヒロインの誕生だあああぁぁぁ!!』


 で、肝心の闘技大会。まず魔法科は大方の予想を覆してルミナが優勝した。彼女は一年生にもかかわらず卓越した技量で上級生たちを圧倒し、堂々の優勝だった。個人的にはタンクビルドじゃなくてホッとしたような残念なような……。

 誰も予想していなかった展開に会場は大盛り上がりだった。少し前までなら“平民の分際で!”みたいな人が少なからずいたけど、そういう連中は去年のクーデター未遂に絡んで失脚したり、国王に釘を刺されて大人しくしてるからね。

 そういう事情もあってルミナの優勝には好意的な反応が多かった。


 最近はアルテリアやアルミラから移住してくる人が増えてきてるみたいだしね。めんどくさい連中は軒並み消えたし平民の積極登用も始まったから、面倒な貴族に睨まれた人や成り上がるチャンスを求めた人たちがやってきているらしい。




『勝負あり!騎士科の優勝者は今年もアルト・オブレインだあああぁぁぁ!!』

『ジェイク・レドン、昨年の雪辱ならず!!』


 騎士科の優勝は今年もアルト君。アイリス嬢との婚約が決まった後も鍛錬は欠かしていない、というかむしろ鍛錬の時間が増えた気がする。学園ではネビル氏と、休みの日はフェンフィール氏とアイリス嬢を相手に鍛錬を重ねている。

 最近は辺境伯も時間に余裕が出てきたようで、ときどきアルト君と模擬戦をしている姿を見るから、遠からず領地に戻ることになるんじゃないかな。ヘイルさんも飽きてきてるみたいだしね。

 ちなみにアルト君が決勝で対戦したジェイク君というのは去年初戦で戦った斧使い君のこと。典型的なパワータイプだからアルト君とは相性が悪いんだよね。それでもしっかり対策をして善戦してたし、彼も将来有望だね。近衛騎士に内定してるみたいだし。

 なにはともあれ、今年の闘技大会は何事もなく終わってよかったよ。去年は大変だったからね。




「お兄さま、おめでとうございます!」

「アルトお兄ちゃん、おめでとう!かっこよかったよ!」

「にーたま、おめでと」

「でへへへへ」

[[[ぐぬぬ]]]


 帰宅後、セイラとリエラ嬢、トール君に祝福されてデレッデレのアルト君とぐぬぬする『精霊』たち。この光景も見慣れたね。


「にーたんのはなびもかっこよかった!」

「トール君、ありがとね」

「またみれる?」

「もちろん。夕食の後でアルト君の優勝祝いにやる予定だよ」

「「「やったー!!」」」

「「「たーまやー、かーぎやー」」」


 ふふふ、こんなこともあろうかと許可は取ってあるんだ。トール君はかなりの花火好きだからね。あ、でも国王みたいになっちゃダメだよ?

 ちなみに王都で花火を上げるときは許可を取らないといけないんだよね。大きな音と光でビックリする人がいるから。まぁ、辺境伯の話ではそのうち申請を出すだけでいいようになるみたいだけどね。王都ではすでにかなり認知されてるからって。

 近いうちにサーシャさんの孤児院でも打ち上げる予定。ルミナの優勝祝いだね。あそこの子どもたちも花火が大好きだから。もちろんトール君も一緒だよ。




「「「こんにちはー!」」」

「はーい!」


 数日後、セイラとリエラ嬢、それに奥様とトール君を伴ってサーシャさんの孤児院に遊びにきた。護衛役のフェンフィール氏も一緒。アルト君はアイリス嬢とイチャイチャ模擬戦してる。まぁ、花火なら辺境伯邸からでも見えるからね。

 トール君は近くで見たいからってこっちまでやってきた。


「みんないらっしゃい!」

「「ルミナお姉ちゃん、優勝おめでとう!」」

「るみなねーたん、おめでと!」

「おめでとうございます」

「ルミナちゃん、おめでとう」

「ありがとうございます。さぁ、みんな入って」

「「お邪魔しまーす!」」

「「「お邪魔します」」」




 花火を打ち上げる前にルミナとちょっとお喋りする。ルミナにはちょくちょく教会のことを教えてもらってるんだよね。グラディオルの時みたいに意外な名前が出てくるかもしれないし。


「ちょっと前にシルフィエッタから手紙が来てね?私が教会を抜けた少し後で、次の聖女に一番近いって言われてたオリビアって子が護衛の聖騎士様と一緒にどこかに行っちゃったみたいなのよ」

「それって行方不明ってことですか?」

「そう。まぁ、実際は駆け落ちしたみたいだけどね。そのせいでいろいろ大変だったみたい」


 オリビアって原作で聖女になったやつじゃなかったっけ?ザ・ヒロインみたいな容姿なのにくっそ性格が悪かったから覚えてるわ。あいつが駆け落ち?ないない。そんなキャラじゃないよ。てことは、何かしらの理由で死んだか行方不明になったのを隠蔽してるとか?

 ……あれ?ルミナが教会を抜けた後ってことは一年くらい前だよな?……いやまさかね?聖女候補がに行くはずがないし。


「駆け落ちなんてロマンチックよね~。あの子、すごく感じ悪くて大っ嫌いだったんだけど、こうなるとちょっと応援したくなるから不思議よね。マインさんもそう思わない?」

「あー、うん、そうですね」


 しーらね。花火の準備しよーっと。

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