第十一話 ターマヤー様

 各国の代表による会談は数日にわたって行われ、進軍ルートや戦後の領土の分配などについて話し合われた。

 結果、アルテリアとミシネラ、メルニエが北から、ハーテリアとアルミラが西から進軍するという形になった。アルミラはオークの件もあって相当やる気になってるみたい。……なんかごめんね?

 あぁ、そうそう。『剣聖』はあれ以来、めちゃくちゃイライラしてるんだって。さすがに誰かに絡んだりはしてないみたいだけどね。溜まったストレスはミルティアにぶつけたらいいんじゃないかな。


 次にミルティアの領土の扱い。後で揉めないように今の段階で決められるところは決めてしまったらしい。

 まず、比較的最近ミルティアに吸収された国で王族が生き残ってるものに関しては再興させることになった。ただ、それ以外のエリアの扱いで相当揉めたみたい。まぁ、ミルティアと隣接するハーテリアは人手不足だし、ミシネラの方もその国家形態を考えるとどの都市が治めるかで揉めそうだからね。それ以外の三国は飛び地になるから管理が面倒だし。

 結局、その地方の有力者を中心にした国をいくつか作ってミシネラ連邦に加盟させることにしたらしい。

 まぁ、問題も起こるだろうけど、その辺は各国で協力するって形になったみたい。


 そんな感じで大まかな方針が決まって、国王はハーテリオンに帰還することになった。で、俺もそれに同行することに。アルテリアとは別ルートから侵攻するから対『剣聖』の囮役はお役御免だからね。

 それにもう一つの厄介事を片付けとかないとね。




 ということでやってきたのはサーシャさんの孤児院。王都に来たシルフィエッタもちょくちょく顔を出してるらしい。まぁ、ここにはルミナもいるからね。


「こんにちはー」

「あら、マイン君、いらっしゃい。戻ってたのね」

「えぇ、一昨日戻ってきました」

「……あの子、今日来てるわよ」

「お、それはタイミングが良かったですね。ちなみにサーシャさんから見てどんな人でした?」

「そうねぇ。悪い子ではなさそうだけど……。とにかく『巫女』様と『精霊』が大好きみたい」

「へぇ……」


 苦笑いしながら言うのはなんでだろうね?まぁ、とりあえず会ってみるかな。一応『精霊』たちに魔力を視てもらいたいしね。グラディオルみたいな魔法を持ってるかもしれないし。




「はじめまして、マインです」

「……」

「……?」

「あっ、その、初めまして。シルフィエッタといいます」


 シルフィエッタは緑のロングヘアーの少女だった。俺と同い年くらいかな?見た目は普通に可愛らしいし、悪人っぽい感じもしない。まぁ、オリビアの例もあるからそれだけじゃ判断できないけどね。

 ……けど、なんでこの子、俺のことガン見してんの?


[[[光だけー]]]

「えっ……!?」

「――っ」


 この人、『精霊』の声に反応したよな?【精霊感知】持ちか?【精霊眼】なら『精霊』がもっと反応するだろうし。厄ネタの匂いがプンプンしてきましたねぇ……。


「あ、あの!初対面の方にこんなことを聞くのは失礼かなって思うんですけど」

「……なんでしょう?」

「マインさんは“ターマヤー”をご存知ですよね?」

「ん?たーまやー?もちろん知ってますけど」


 俺がたーまやーを広めた張本人だしな。でもなんでいきなりたーまやーの話になるんだ?花火好きか?


「やっぱり!それじゃあマインさんは『精霊』様のこともご存知ですよね?」

「え?『精霊』?」

「マインさんの周りから『精霊』様の気配を強く感じられるんですが」

「気配……?」

「あ、私、【精霊感知】を持ってるんです」


 んん?なんでたーまやーから『精霊』の話に繋がるの?たしかに『精霊』はたーまやーが好きだけどさ。

 というか、あっさり【精霊感知】のことバラしたな。ここまでの感じだと腹芸が得意なタイプではなさそうだけど……。


「実は私、『巫女』様のお話が大好きで――」


 子どもの頃から『巫女』の話が大好きだった彼女は、いつもおばあちゃんにその話をせがんでいたんだって。ある時、『巫女』の話を聞いているときだけ『精霊』の気配が強くなることに気付いた彼女は、『巫女』と『精霊』に何か関係があるんじゃないかと考えるようになったらしい。

 その後、聖女候補として総本山に行って伝説について詳しく調べるうちに、『巫女』に関係するいくつかの事象が『精霊』の力として知られているものと似通っていることに気付いたんだって。


 ……総本山にはそんな資料があるのか。できれば他のやつに気付かれる前に処分しておきたいな。

 それにしても『精霊』とたーまやーに何の関係があるかさっぱり見えてこないんだけど?たーまやって教会関係者にとってはなんか別の意味を持った言葉だったりすんのかな?でもルミナはそんなこと何も言ってなかったしな……。

 おっと、それよりも今はこっちだ。


「その話、他の誰かに話しましたか?」

「いいえ、ルミナさん以外には話してません。教会の上の方の人たちはみんな『巫女』様のことを布教のための道具くらいにしか思ってないみたいで……。あっ、でも、オリビアさんが――」


 オリビア?原作の聖女だよな?こっちでは爆――もとい、絶賛駆け落ち中のはずだけど。


「その方に話したんですか?」

「あ、いえ、話したわけではないんですけど……」

「……そういえばルミナさんから、そんな名前の聖女候補の方が行方不明になったって聞いたんですけど」

「……っ」

「もしかして何かご存じなんですか?」

「それは……」


 え?マジで知ってんの?まさかこの人がやったとか?そんな感じには見えないけど……。


「えーっと、怒りませんか?」

「それは聞いてみないとなんとも……」

「そうですよね。……分かりました。実は――」


 俺がヴィングル伯爵邸の離れに【地雷】を設置した後のこと。彼女は総本山にあるヴィングル領と繋がる【転移】の魔法陣の近くで『精霊』の声を聞いたらしい。といっても辛うじて聞き取れたのは“【転移】”と“ターマヤー”という謎の言葉だけ。そして彼女は【転移】した先にターマヤーと呼ばれる何かがあると考えた。だけど、いち聖女候補の彼女には自由に【転移】を使う権限はない。

 それでも諦めきれない彼女は、たびたび【転移】の魔法陣のある場所に通っていたんだって。そんな彼女の行動を怪しんだのが同じく聖女候補だったオリビア。シルフィエッタは必死に誤魔化そうとしたものの、オリビアは彼女の様子からその先に何かがあると確信した。そしてグラディオルの捜索という名目でヴィングル領に【転移】し、二度と帰ってくることはなかったらしい。




「――私は考えました。彼女が帰ってこなかったということは、ターマヤーこそが『精霊』様にとって特別な何かに繋がるものなのではないかと。そして書庫の『巫女』様や『精霊』様に関係する書籍をすべて調べ直しました。ですが、ターマヤーなんて言葉はどこにも出てきません。そこで私は確信したんです!ターマヤーこそが『精霊』様が隠そうとしている存在――つまり『愛し子』様のことだと!!」

「……は?」

「そんなときにこの国でターマヤーという言葉を広めている人物がいると聞きました。ふふっ、素晴らしいお考えです。たくさんの人が使う言葉なら、誰もそれが『愛し子』様のことだなんて思いませんからね」

「……」

「つまり、マインさん。ターマヤーを世間に普及させたあなたこそが『愛し子』様、いいえ、ターマヤー様ですね!!」

「えぇ……」


 ドヤ顔で指をさしてくるシルフィエッタ。急に早口になったな。それにしてもまさか“たーまやー”から足がつくとは思わなかった。そしてこういう答えに辿り着くとも……。さてはこいつ、ポンコツだな?


「とりあえず指をさすのはやめなさい」

「あっ、ごめんなさい」


 素直かな?


「それでシルフィエッタさんは『愛し子』を見つけてどうするんですか?」

「えっ?」

「……」

「……どうする?」

「……?」

「えーっとですね。私は『巫女』様や『精霊』様のことを知りたいから調べていただけで……。だからどうしようというのは別に……」

「誰かに教えて自分の立場を良くしたいとか――」

「ありえません!そんなことのために『精霊』様を利用するなんて許されないことです!」

「お、おぅ……」

「あ、でもできれば一度でいいのでお姿を見てみたいですね。伝承によると愛らしい小人のような姿とも厳めしい猛獣の姿だったとも伝わっていて――」


 この後延々『精霊』について語られた。……うん、この子シロだわ。ただの『精霊』ヲタクだ。まぁ、シロだったからってすぐにセイラに会わせたりはしないけどね。テンションが怖いんだもん。




 というわけで、今のところはセイラや『精霊』のことは教会にはバレていないっぽい。まぁ、彼女と同じような考えの人はいるかもしれないけど、少なくとも組織としてどうこうって感じではなさそうだから一安心かな。

 とはいえ、今回はこの子がただの『精霊』ヲタクだったから大事には至らなかったけど、『セイラ』や『愛し子』のことが教会内で共有されていたら不味かった。だけどそういう資料が存在する以上、今後もそれに気づく人間が現れる可能性が消えないんだよなぁ。……しゃーない、やるか。


「――というわけでミルティアの総本山ぶっ壊しまーす!」

[[さんせーい!!]]

[[お嬢をいじめるやつは許さん!!]]

[[たーまやー?かーぎやー?]]


 今までは躊躇してたけど、『愛し子セイラ』が狙われる可能性があるとなれば話は別。今なら連合軍のおかげでやりやすそうだしね。

 それにこのまま連合軍がミルティシアを落としたら、あそこの資料が他の勢力に渡る可能性が高いし。そうなったら『巫女』と『精霊』の関係に気付く人間が他にも現れるかもしれない。

 ただまぁ、宗教組織はいろいろと厄介そうだからね。特にミルティア教は国を作れるくらいの力があったわけで。それを利用しようとするやつが再興を企むかもしれない。あそこには【転移】の魔法陣もあるみたいだから逃げ出すやつもいるだろうし。

 だから、ただぶっ壊すんじゃなくて、もっとミルティアの根幹を揺るがすというか、信徒たちの心を折るような方法じゃなきゃね。


 そういえば『精霊』的にはミルティア教会を潰しちゃってもいいのかな?内情はともかく一応『巫女』が守った組織のはずだけど……。『巫女』以外には興味がなさそうだから大丈夫だとは思うけど……。


「作戦ターイム!」

[[いえーい!]]

[[やっちゃうぞー!]]

[[たーまやー?かーぎやー?]]


 ……うん、全っ然なさそうだね。

 というか君たち、たーまやーとかーぎやーを破壊行為みたいに言うのはやめなさい。怒られるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る