第八話 アラニア防衛戦

 アラニアに到着してノルドさんのいる場所に案内してもらう。街に入る時にカルナとアーライト兵の間で一悶着あったけど割愛。カルナとアーライトの相性が悪すぎる。これ婚約の話が完全に裏目に出てない?まぁ、うちハーテリアとしては揉めててもらった方がありがたいんだけどさ。


「兄貴~、戻ったぜ。こっちはどうだ?」

「お邪魔します」

「マイン殿、ご助力痛み入る。こちらは今のところ問題ない」

「あ、これお土産です」


 拉致ってきたやつらを引き渡すとノルドさんがニヤリと笑う。こういうところはガイアさんによく似てるね。どこからどう見てもその筋の人間だ。怖い。

 まぁ、あいつらはノルドさんに任せておけば大丈夫でしょう。他にも狙いがあるかもしれないから、そっちも吐かせてくれると嬉しいね。


 こっちは森林地帯に近い他の町や村にも援軍を送っているみたいで、まだまだ兵の数が足りないらしい。

 とはいえ今はゴブリンや狼といった森の浅いところにいる魔物が散発的に来ているだけで、大きな被害は出てないみたい。基本的には外壁の上から魔法を撃ちながら、ときどき騎兵や歩兵、冒険者たちが打って出て数を減らしてるんだって。

 ただ、徐々に数が増えてきているうえに上位種らしき魔物もチラホラいるそうで、油断はできないみたい。そのうちゴブリンキングとかも来るのかね?あいつらもオークキングの劣化スキルを持ってるから数が増えると厄介なんだよね。


「当初は冒険者の士気が低くてな。どうしたものかと思ったが、アンディル殿が冒険者たちと交渉してなんとか持ち直したところだ」


 アンディルというのは『剣聖』が不在の間、留守居役をしている人のことらしい。……なんかごめんね?でも俺は嘘は言ってないから。






「魔物が集結してる?」

「あぁ、前回をはるかに超える規模だそうだ」


 アラニアに到着して今日で三日目。二日目に大規模な襲撃があったけど、カルナや各領の兵士たちの奮闘もあってなんとか凌げた。俺は外壁を直しながら【バレット】を撃ってただけだけどね。そうこうしてる間に後続の援軍も続々到着して今はだいぶ余裕が出てきた、と思ってたんだけどなぁ……。

 他にもマザー・キメラがいたのかな?少なくとも俺がプレイした範囲……、うん、俺の原作知識ガバガバだったわ。他にいる可能性だって十分あるわな。


「捕らえたやつらからの情報は?」

「特にめぼしいものはなかった。こういう事態になることも考えて他の仲間の情報までは知らされていないのだろう」


 そんな戦力があるなら『剣聖』に直接突っ込ませろよ。……無理か。マザー・キメラは確かに強いけど、どっちかというと統率型のボスだからね。

 でも他にもいるとなると、こっちでのんびりやってるわけにはいかなくなったな。オルティアの方に向かってるやつもいるかもしれないし。しゃーない。ちょっと頑張ろうか。

 ミルティアが仕掛けてくるならこのタイミングだろうしね。


「規模を考えるとこちらから打って出るのは厳しいだろうな」

「あ、外壁から出ないなら外に魔法を仕掛けてきてもいいですかね?」

「魔法を?」

「えぇ、多分それでそこそこ削れると思うんですけど」

「それは助かるが……」

「ただし、起動するタイミングは任せてもらえますか?ちょっと気になることがあるんで」

「別動隊か?」

「はい。魔物の襲撃に合わせて侯爵の屋敷を襲うんじゃないかなって」

「……あり得るな」


 俺ならそうする。たぶんアラニアの戦力の大半は外壁の防衛に回るだろうからね。まぁ、空振りなら空振りでいいんだよ。何事もないのが一番だからね。




 というわけで地下からアラニアの南側の地面に魔法を二種類セットする。地上から行くと誰かに見られちゃうかもしれないからね。今回はかなり広範囲にセットしなきゃいけないから時間がかかるし。


[[たーまやー?]]

[[かーぎやー?]]

「いや、今回は地属性魔法でやるよ」

[[えー!]]

[[派手に行こうぜー!]]


 アラニアでは爆発魔法は使わないからね?今後アルテリアとハーテリアの関係がどうなるかも分かんないし。敵になるかもしれない相手に手札をすべて晒す気はない。属性はバレてるかもしれないけど、地属性に特化してると思わせておいた方が都合がいいからね。






 翌朝、ヘルナイアの騎士二人を伴って侯爵邸の近くで【魔装】状態で待機する。侯爵家の連中に見つかると面倒だからね。ちゃんと他の騎士の鎧と同じような意匠にしておいたからバレないはず。

 カルナもこっちに来たがったんだけどね。ただまぁ、前線にカルナがいないなんてあまりにも不自然――っと、【魔力探査】と【土中探査】に反応があった。四人組だな。……あれ?この魔力って。


「この辺りだと思うんだけど……」

「ジーク、こんなところにいたらまたカインに絡まれるんじゃないか?」

「ロランは心配性ね。あいつなら外壁の方にいるから大丈夫よ」

「本当にここで何か起こるんでしょうか?ジークさんのを疑うわけじゃありませんけど……」


 やっぱり主人公パーティーか。ジークのでここに来たってことは何かが起きるのは確定か。

 原作でも要所要所で主人公の勘で危機を逃れたりイベントを引き寄せたりと、事あるごとにの良さが強調されていた。まぁ、要はのことなんだけどね。複数の選択肢の中からプレイヤーが選択したイベントによって展開が変化していくわけ。で、その勘でここに来たってことは――。


『キャアアアァァァァァ!!』

『「「――ッ!?」」』


 突然、屋敷の内側から女性の悲鳴が聞こえた。は?【魔力探査】にも【土中探査】にも何の反応もなかったぞ?屋敷の周囲は全部カバーしてるはずなのに……。おっと、考えるのは後だ。


「行こうっ!」

「「「ジークっ!?」」」


『お二人はここで待機していてください』

「マイン殿は?」

『他の場所から侯爵の家族を逃がします』

「「承知しました!」」


 主人公たちが玄関から突入したので、ヘルナイアの騎士たちを残して俺は屋根に上る。そこからなら【魔力探査】でレリーナの場所が分かるはずだからね。




『はい、確保ー』

「……あの、もしかしてマインお兄さまですか?」

『あれ?よく分かったね?』

「お声が一緒なので」

『あぁ、なるほど。他の人には内緒ね?』

「はいっ!」


 【魔力感知】で二階の一室でレリーナがメイドと一緒に隠れてるのが確認できたからサクッと二人を確保して、ヘルナイア兵たちのところに帰還。廊下からはまだ怒鳴り声や戦いの音が聞こえてたから、まだ賊を制圧できていないみたい。主人公はなにやってんだか。

 ……あーそっか、ボスっぽいやつがいる可能性もあるか。なんせ主人公がここにいるんだし。




「おっと、このガキの命が惜しければ得物から手を放してもらおうか」

「レイン坊ちゃま!?」

「ダン!貴様なんのつもりだ!?」


 騎士たちに二人を任せてさっきの部屋に戻ると、階下からお決まりの台詞が聞こえてきた。

 子どもを人質に取ったやつが主人公や騎士たちに武器を捨てるように要求してるみたいだね。鎧は着てないようだから、この家に潜り込んでた執事か使用人あたりかな?こいつが賊を引き込んだんだろうね。感知できなかったってことは俺たちが来る前から屋敷の中に潜んでたんだろうね。

 いくら非常時とはいえ侯爵家の防諜がガバガバで笑うわ。……そういえば中年メイドもずっとバレなかったもんな。これ、侯爵家の人間を殺すなら毒とか使った方が早かったんじゃね?


「その子を放せ!」

「卑怯よ!」

「フンッ、何とでも言え。で、どうする?こいつを殺し――」

『【バレット】』

「「「ぐあっ!!」」」

「おい、なに――ガッ!」

「「「……えっ!?」」」


 主人公が解決するのを待つ義理もないからね。引き込み役以外の賊の背後に球状の【バレット】を生成して両手両足にぶつけてやる。変な方向に曲がってるやつもいるけど死にはしないでしょ。動揺する引き込み役には正面から顔面に。後ろからだとレイン君の上に倒れこんじゃうからね。その子、一応俺の弟なのよ。ケガさせてたらぶっ殺すからな。

 とりあえずこっちはこれで一件落着かな?だからこっちに来ないでくれるかな、主人公君?君に関わると面倒事が増えそうで嫌なんだ。


「あの――」

『怪我はない?』

「大丈夫!鎧の人、ありがとう!」

『どういたしまして。ちゃんと我慢出来て偉かったね』


 主人公を躱してレイン君に声をかける。この子、しっかりしてるよ。泣き声も上げなかったからね。ちゃんとお礼を言うこともできるし、イキり癖のあるカインよりもレイン君の方が当主向きじゃないかな?そのまままっすぐ育ってね?いや、ホントに。


「ヘルナイア家の騎士様でしょうか?この度はレイン様をお救いいただき、お礼の申し上げようもございません。私、この家の――」

『私はノルド様の命で動いただけですので。礼ならばノルド様に』

「しかし……」

『私は街の防衛に戻りますのでこれで失礼します。……それじゃあね』

「ばいばい!」

「あっ、お待ちを!」


 レイン君の頭を撫でて侯爵邸を出る。待てと言われて待つやつがいるかよ。なんせ顔や名前がバレると確実に面倒なことになるからね。ここの後始末はノルドさんに丸投げかな。レリーナにも手を振って外壁に向かう。

 さーて、大掃除の時間ですよーっと。


[[[わくわく!]]]

[[[どきどき!]]]

『……たーまやーでもかーぎやーでもないからね?』

[[[えー]]]


 いや、魔法をセットした時に君らも傍にいたでしょ?




『すみません、遅くなりました』

「問題ない。あちらは?」

『賊は制圧しました。あとは侯爵家の方で何とかするでしょう』

「分かった。早速だがこっちも頼めるか?」

『了解です』


 街の南側には大量の魔物が群がっていたけど、今のところ外壁は無事っぽい。何人か派手に魔法をぶっ放してる人がいるな。ときどき壁を飛び越えてくる魔物がいるけど、そいつらはすぐに兵士や冒険者が始末してるっぽい。


『それじゃあやりますか』


 地面に魔力を通して地下の魔法と繋げる。ところどころ欠けてるのは他の人の魔法の影響かな?結構派手にやったな。まぁ、これくらいなら問題ないか。


『【剣山】』

「「「おぉっ!!」」」

「「「ぐるああぁぁぁぁ!?」」」


[[[かーぎやー!!]]]


 街の南側一帯に大量の【土槍】が生える。まぁ、致命傷にならなかったり、【土槍】の間にいたりで生きてる魔物もいるけど、それは他の皆さんで頑張ってください。

 あと『精霊』たち、これはれっきとした地属性魔法だからね?鍵屋じゃないからね?怒られちゃうよ?


「なんと……!」

『で、お次は【整地】っと』

「「「おぉっ!」」」


 次の魔法を使うと途端に大量に生えていた【土槍】が消える。残したままだと邪魔だからね。アフターケアもばっちりですよ?


「よっしゃあ!やっと暴れられるぜ!」

「遅れるな!続け!!」

「「「うおおおおぉぉぉぉ!!!」」」


 【土槍】が消えたタイミングでカルナが突っ込む。どんだけ我慢してたんだよ。おっ、カインや他の連中も少し遅れて飛び出した。あ、主人公たちもいるね。君らも頑張ってくれ。

 前衛の動きに合わせるように魔法や弓矢の攻撃が飛んでいく。これでだいぶ押し返せそうかな。あとはマザー・キメラを潰さないとね。


『ノルドさん、俺も出ます。そのままあっちに帰るんで後のことはお任せします』

「あ、おいっ!」


 ごめんね?急いでるんだ。決して面倒なアレコレから逃げたわけじゃないんだ……!だから“こういうところはアーライトか……!”とか言うのやめてください。マジで。

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