第七話 周回前提のボス
「ヘイル様、ただいま戻りましたー」
「早いな!?」
はい、戻ってまいりました。オルティアに。
あれからスタンピード対策を考えてみたんだ。一番手っ取り早いのは森の入り口に【地雷】を設置すること。だけどあんまり派手にやり過ぎてオルティアに来る数が増えても困るし、手札もできるだけ晒したくない。俺としてもただ助けてやるのは癪だしな。俺は根に持つタイプなんだ。
てかさ、ぶっちゃけレリーナたちを連れて街を出るのが一番楽なんだよね。本人は絶対に承知しないだろうけど。となるとやっぱりそれなりに頑張るしかないわけで。そうなると結局オルティアへの影響が気になる。とまぁ、そんな感じで堂々巡りになってたんだけど閃いた。
こっちから行けばいいじゃん。別にレリーナが無事ならあっちの被害が多少デカくなったって知ったこっちゃないわけで。どうせ悪いのはミルティアだからね。途中でスタンピードを仕掛けたやつを見つけられればなお良し。
「そういうわけで森林地帯を突っ切っていくことにしました」
「……なるほど。分からん」
「途中で魔物を間引いておくんで、その分セイラの守りを厚くしてもらえればなーって」
「うむ、それは約束しよう」
あと気になったのはセイラのこと。主人公を見かけたときにふと思ったんだ。ミルティアがただスタンピードを起こして終わりなのかなって。あいつらのことだからスタンピードとは別に何かを企んでてもおかしくない。まぁ、何かやるならアラニアでだと思うけど、セイラ絡みのフラグが残ってそうだから念のため。
「それじゃあ行ってきます」
「うむ、気をつけてな」
これでこっちでの用事は済んだからアラニアを目指す。森に入ったら方角が分かんなくなるだろうけど、まぁ魔物がたくさんいる方に行けば大丈夫でしょ。
『ん?なんかでかいのがいるな』
森に入って二日目。【バレット】や【ショット】で魔物を間引きつつ、魔物の密度や森の荒れ方を頼りに走っていると【魔力探査】にここまでにはなかった反応が現れた。
大型バスくらいのサイズはありそうな魔獣。頭が六つに大きな翼が三対もある。なんでもかんでもくっつければいいってもんでもないだろうに。周囲には二回りほど小さいやつが二体と武装した人間もいる。こいつらが魔物を誘導してるんだろうな。で、問題はこの魔獣の特徴に心当たりがあること。
『いきなりマザー・キメラに当たるかぁ……』
原作の序盤でスタンピードに遭遇した主人公たちが
まぁ、そりゃそうだよな。学生の主人公たちに倒せるレベルの敵がスタンピードなんて起こせるわけがない。連戦になった主人公たちはこいつに圧倒されてあわや全滅、というところで領軍や冒険者たちが間に合って難を逃れる。一周目だと実質負けイベントだね。カインと違って。
勝てるのは二周目以降なんだけど、一周目をギリギリでクリアしたくらいのレベルだとこっちのメンバーが揃っていないこともあって普通に負ける。俺は負けた。六つの頭からそれぞれ別の属性のブレスを吐くから対策が難しいんだよね。
『【レイン・バレット】』
関係者の捕縛は諦めて敵の頭上から大量の【バレット】を降らす。今まで身体の近くから撃ちだしていた【バレット】を、離れた場所から撃ちだすようにしたのが新型の【バレット】。そして【レイン・バレット】はそれを雨のように降らせるわけだ。その分、魔力のコントロールが難しいし、魔力の消費量も多いのが欠点。とはいえ雑魚を減らすのにはちょうどいい。
「「「ぐあっ!?」」」
「「ギエエエェェェ!!」」
「キエエエェェェェェ!!」
『うるさっ』
武装した連中やキメラは殺れたけど、さすがにマザーはダメだったか。だけど頭がいくつかと翼がズタズタになったからこれでもう飛べないだろう。ブレス以外でこいつが厄介な理由のひとつが飛行能力だからね。そしてもう一つが……。
「キエエエエエェェェェェェ!!!」
『『『キエエェェェ!!』』』
マザー・キメラの鳴き声に合わせて、遠くから複数のキメラの鳴き声が聞こえてくる。これがこいつのもっとも厄介なところ。マザーの名を冠するだけあって下位のキメラを統率することができる。たぶん素体となった魔物の特性なんだろうね。原作でもこいつとの戦闘中に横からキメラが突っ込んできてめちゃくちゃ面倒だったんだよなぁ。
まぁ、今回はキメラを探す手間が省けて助かるけど。
『【土槍】』
「ギエエエェェェェ!?」
腹の下から生やした【土槍】がマザー・キメラを貫く。あとは刺さった【土槍】から新たに【土槍】を生やせばおしまい。
『【土槍】』
「ギギエエエエェェェェェ!!」
……我ながらめちゃくちゃエグいことやってるな。人には極力使わないようにしよう。さて、あとはこっちに向かってくるキメラを処理すればおしまい。
「なんだ、てめぇは!!」
『カルナさん、俺です。マインです!』
「あぁん?だったら顔を見せろ!」
『今は無理です』
「じゃあ偽者だな。ぶっ飛ばす!」
キメラを数体倒したところで、なぜかキメラと一緒にカルナまで来た。多分戦ってたんだろうなぁ……。で、逃げるキメラを追った先にいたのが【魔装】状態の俺。うん、めちゃくちゃ怪しいね。そして今は【魔装】を解除することができない。確実に吐くからね。
「おらぁ!!」
『ちょっ、あぶな!』
「てめぇ、避けんな!」
『避けるわ!無茶言うな!』
ダメだ。この人、問答無用で殴ってくる。……仕方ないか。
『分かりました!顔を見せますから!』
「チッ!だったら最初からそうしろよな」
一瞬だけ頭部の【魔装】を解除して再度発動する。
「短けーよ!なんで目瞑ってんだよ!」
『グロが無理だからです』
「こんだけ魔物をぶっ殺しててなんでグロいのがダメなんだよ!?おかしいだろ!」
『そんなことこっちが聞きたいですよ』
俺だってずっとおかしいと思ってるよ。明らかに変だもんね。で、思いついた仮説がひとつ。もともとグロも殺人も同じようにダメだったところに、後付けで殺人耐性(仮称)が付いたのが今の状態なんじゃないかなって。
相手が人か魔物かを問わず、殺す必要に迫られる可能性があるのがこの世界。しかも俺の転生先はマイン君。原作での立ち位置を考えれば、まず間違いなくそういう場面にぶち当たるだろう。だけど現代日本で生きていた俺が咄嗟に殺す決断ができるはずもない。
せっかく転生させたやつがあっさり死んだらもったいない、面白くない、という心理が俺を転生させたやつに働いたんじゃないかな。そいつが『神』なのか別の存在なのかは知らないけどね。
そんなわけで殺人耐性をつけてマイン君の身体に放り込まれたのが今の俺なんじゃないかなって。たぶんグロまでは意識が向かなかったんだろうね。もしくは後付けできる数に制限があったとかそういう感じじゃないかな。
もちろん全部俺の想像だけど、そう外れてはいないと思う。なんでマイン君なのか、なんで俺なのか、何をさせたいのかは皆目見当がつかないけどさ。
「で、ここで何してたんだ?」
『どこかにスタンピードを起こしたやつがいないかと思って探してたら、こいつらがいたんで倒してました』
「……お前結構強いんだな」
『これでも一応名誉男爵なんで』
「あぁ、たしかに弱くちゃ手柄も上げられねーか」
『そういうことです』
まぁ、あのお祭り好きの国王なら【花火】だけで爵位くれそうだけどね。おっと、それよりも……。
『どこかにこいつらの拠点があるはずなんで、そこを襲撃しませんか?』
「おっ、いいねぇ!」
『あそこですね』
「思ったより人数がいるな」
防壁に囲まれた小屋が数棟とその周りに武装した人間が十数人。それにキメラとは別種の魔物が二頭。こっちのはたぶん護衛用の魔獣だろうな。ここが拠点で間違いなさそうなんだけど、なんだか慌ただしいな。
「おいっ、奴らはまだ戻ってこないのか!」
「マザーの部隊も含めてまだ誰も戻ってきません」
「くそっ、何をやっているんだ!」
「……まさかやられたってことは?」
「あるはずがないだろ!あれはホレムズ枢機卿が遺した切り札だぞ!」
誰だよ、ホレムズって。まぁ、こいつらを捕まえてノルドさんに丸投げすればいいか。
「あたしは人間の方をやるぜ」
『あ、ちょ』
それだけ言って突っ込むカルナ。自由だなぁ……なんて思ってる間に三人を殴り倒す。やっぱ強いなぁ。
――カルナ・ヘルナイア。【身体強化】の魔力効率が全キャラ中トップを誇る物理特化の脳筋ヒロイン。原作でも素手で魔物をボコったり、カインの剣を素手で受け止めたりと存分にそのフィジカルモンスターぶりを発揮していた。
けど、素手で暴れまわる女の子って実際に見るとインパクトがあるな。しかもアルト君やアイリス嬢と互角かそれよりも強そうな感じ。そりゃ今のカインじゃ到底勝てねぇわ。
おっと、俺も魔獣の方を倒さないとね。
サクッと雑魚を蹴散らして小屋の中を確認すると連中のリーダーっぽいのがいたからそのまま拉致する。原作で動いていたのは『ミルティアの使徒』だったけど、こいつはどうなんだろうな。法衣っぽいのを着てるし魔力も多めだから司教とかかな?とりあえずこいつと外の連中のリーダーがいればお土産には十分かな。
『とりあえず黒幕っぽいやつは確保したんで一旦ノルドさんと合流しませんか?』
「そうだな。ずっと暴れてたからさすがに疲れたぜ」
……この人、いつから森にいたんだろうね?
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