第九話 反ミルティア連合

「まったく……。新手かと思って楽しみにしておったのに……」

「すみません」


 あのあと速攻で潰したマザー・キメラとミルティアの工作員をカルナに引き渡して全速力でオルティアに戻ってきた。幸いにもこっちではスタンピードは起きなかったみたい。たぶんハーテリアが仕掛けたことにしようとしたんだろうね。まぁ、工作員が捕まったから完全に目論見は崩れてるけど。

 とはいえ、スタンピードにならなかっただけで魔物の群れはそれなりに来ていたらしい。で、その対処をしている最中に、森の奥から高速で何かが近付いてくるという報告が入った。もちろん俺のことだ。なんか前にも似たようなことがあったような気がするな……。

 今回はさすがに地下を通ってやり過ごすのは気が引けたから、大人しくヘイルさんのところに向かうと、デカいハルバードを構えたウッキウキのヘイルさんとその背後にずらっと並ぶ辺境伯軍がいた。ちょっとビビった。

 そしてあのときのことがバレた……。ヘイルさんは爆笑してたけど。


「その節はご迷惑をおかけしました……」

「もうよい。それより早くセイラに顔を見せてやれ」

「はい。ありがとうございます」




「ただいまー」

[[[お嬢、ただいまー!!]]]

「お兄ちゃん、お帰り!」

「あら、マイン君。お帰りなさい」

「大奥様、ただいま戻りました。こっちは大丈夫だった?」

「うん!あのね、ダリアさんにいろいろ教えてもらったの!」

「すみません。セイラを見ていただいて」

「いいのよ。セイラちゃんは私にとっても孫みたいなものだから。ねー、セイラちゃん?」

「ねー!」

「ありがとうございます」


 うん、セイラに何事もなくてよかったよ。セイラはリエラ嬢と一緒に魔法の訓練の一環として【花火】の練習をしてて、お互いの【花火】を見せ合いっこする約束をしてるんだって。それでダリアさんにデザインのアドバイスをもらっていたみたい。


「セイラちゃん、完成したら私にも見せてね?」

「うんっ!」

「[[楽しみだなー]]」






 王都に戻って一カ月ほど経った頃、ヘルナイアのガイアさんとアーライト家から手紙が届いた。

 まずガイアさんからの手紙。こっちにはアラニアの近況などが綴ってあった。あの後は何事もなくスタンピードは終結したみたい。

 他領の援軍や冒険者たちへの報酬の分配も済んで、ヘルナイア組は既に帰還したみたい。冒険者の中でも特に活躍した人たちは騎士や兵士としてスカウトされたらしいよ。あとは貴族間での縁談も進んでるんだって。こういう戦いは出会いや出世の場にもなっているみたい。

 ヘルナイアとしてもアーライトにデカい貸しを作れたから、なんとかカルナとカインとの婚約解消に持ち込めないか動いてみるつもりみたい。

 うまいこと婚約を解消出来たらネビル氏と引き合わせてみようかな。あの二人の相性、悪くないと思うんだよね。二人とも戦うのが好きだし。カルナの性格的に恋仲になるかは微妙だけど、喧嘩友達にはなれそう。

 だから俺と戦おうとするのはやめてね?


「あちゃー、バレちゃったか……」


 一方で困ったことがひとつ。俺の素性が広まってしまったらしい。追放されたいきさつやヘライナの冒険者ギルドでのことも含めて。さすがに派手に魔法を使ったことまではバレてないみたいだけどね。たまたまアーライトの連中が話していたのを聞いた人が言いふらしちゃったんだって。

 そのせいでカインの評価が下がっちゃったらしい。まぁ、あれだけ調子ぶっこいてたやつが追放されたに一撃でぶっ飛ばされたってなったら、“こいつで大丈夫か?”ってなるわな。アーライトの無茶がある程度目溢しされてたのは、それ以上の武功を期待されてのことなわけで。

 まぁ、防衛戦ではキメラを倒したりとそれなりには活躍したみたいだから、これからの頑張り次第で取り戻せるんじゃないかな。まだ学生だしね。あ、リベンジとかはやめてね?




「セイラ、レリーナから手紙が届いたよ」

「本当!?」

「はい、これ」

「やったー!!」

「あとで返事を書こうね?」

「うんっ!」


 レリーナから手紙をもらって大はしゃぎするセイラかわいい。手紙なんてときどきベルガルド侯爵夫妻とやり取りするくらいだもんね。同世代のお友達からの手紙は今回が初めてじゃないかな。

 まぁ、今後はリエラ嬢とも手紙のやり取りをするみたいだけどね。結局リエラ嬢は半月ほど前にオルティアに戻った。その裏では辺境伯とアルト君による激しい綱引きがあったとかなかったとか。辺境伯がニッコニコで教えてくれた。

 ただ、当の辺境伯が領地に戻るのが少し先になったんだけどね。近々ミルティア絡みで何か進展があるみたいだから、それまでは王都にいるんだって。なので先に奥様とリエラ嬢、トール君がオルティアに向かったってわけ。なので【花火】の見せ合いっこは次の機会に持ち越し。ちょっと残念。


 話はそれたけど、アーライトからの手紙は他に俺宛てのものが三通。レリーナとレイン君、それに留守居役のフレッド・アンディルって人からだね。

 レリーナとレイン君のはお礼の手紙で、それによるとレイン君はレリーナと同い年なんだって。二人とも側室の子で同い年ということもあって仲がいいみたい。もう一人の妹――セリーナというらしい、は正妻の子で今は王立学園の受験に備えて王都にいるんだってさ。

 二人とも魔法に興味を持ったみたいだから、今度こっそりできる練習法を教えてあげよう。『剣聖』は魔法使いを下に見てるからバレないようにしないとね。

 残るアンディル氏からの手紙もお礼の手紙。こっちは堅苦しい文章で中身も当たり障りのない感じ。うん、それでいいよ。上から来られたらムカつくし、かといって変にすり寄ってこられても気色悪いしね。




 とまぁ、そんな感じでアラニア絡みのアレコレがひと段落して、今は用務員生活に戻っているわけだ。


「あっ、マインさん、ちょっといいかしら?」

「ルミナさん、どうかしましたか?」

「ちょっと話したいことがあるんだけど、あとで時間を作ってもらえないかしら?」

「分かりました。放課後に訓練場の前でいいですか?」

「えぇ、よろしくね」


 魔法の授業の後でルミナに声をかけられた。なんの話だろうね?というか、一部の男子生徒にめっちゃ睨まれてるんだけど?まぁ、ルミナはルックスも実力もずば抜けてるから、彼女を狙う男子生徒は大勢いるんだろうね。けど、俺はそういうのじゃないからね?

 だからウォルスさん、こっちを見ながらニヤニヤするのはやめろ。


「おいおい、お前も隅に置けねぇなぁ?」

「いや、そういうのじゃないんで」

「……お前、ちょっとは照れるとかしろよ。つまんねぇなぁ」

「あれだけ詠唱した後なのに元気ですね……?」

「ばっかお前、だからだろうが。心が潤いを欲してるんだよ」

「だったら他にもカップルがいるじゃないですか」

「分かってねぇなぁ。知らねぇやつの色恋なんて面白くも何ともねぇだろ」


 たしかに。




 というわけで放課後ルミナと合流する。


「前に話したシルフィエッタが教会をやめたらしいの。近々こっちにくるみたい」

「シルフィエッタって『巫女』が好きだっていう?」

「えぇ、そう。ミルティアがミシネラに攻め込んだでしょ?それで教会をやめたんですって。あの子ミシネラの出身だから」


 シルフィエッタって例の原作キャラっぽいやつだよな?なんでこっちに来るんだよ……。

 それに教会をやめたって言われてもいまいち信用できないんだよなぁ。グラディオルのこともあるし、今回の侵攻が失敗した場合に備えて人材や資金を分散させてるだけかもしれない。本当にシロだったら申し訳ないけど、セイラの安全には代えられないからね。


「マインさんは『巫女』の話に興味があるんでしょ?だったら直接話してみたらどうかと思って。いろいろと詳しい話も聞かせてもらえると思うわよ」

「なるほど……」


 彼女はミシネラが落ち着くまではこっちにいるつもりみたい。彼女が到着したら一度会う必要がありそうだな。少なくとも放置する選択肢はないからね。シルフィエッタとセイラが会う前に彼女が敵かどうかはっきりさせたいところ。






 二週間後、ミルティア絡みで動きがあったとのことで、辺境伯からの呼び出しを受けた。


「各国が合同でミルティアを攻めることになった。主力はハーテリアとアルテリアでアルミラやメルニエも少数ながら軍を派遣する。ハーテリアの主力はうちとゼルフィン公爵家になる」

「なんか大事になりましたね?」

「あぁ、アルテリアでのスタンピードがきっかけだな。もあって、そんな連中を野放しには出来んという話になってな」

「……アルミラのオークって」

「あぁ、マインがやったアレだな。陛下がうまい事ミルティアのせいにしてしまったそうだ」


 マジかよ。あの国王、有能風のポンコツに見せかけた有能だったんだな。お礼に次の花火大会で国王の名前が入った花火を打ち上げてあげよう。

 辺境伯の話では、ミシネラの南部にあるメリンという町で各国の代表が顔合わせをするらしい。ハーテリアからは代表として国王と辺境伯が出席するんだって。そこで大まかに侵攻ルートの調整をしてそれぞれ進軍という形になるみたい。国王は顔合わせが済んだら帰るみたいだけどね。


「それで陛下がマインにも同行してほしいと仰っていてな。どうする?」

「……俺が行くとたぶん揉めますよ?」

「『剣聖』か?」

「えぇ」

「いいか、マイン。向こうから手を出させれば何の問題もない」

「えぇ……」


 ちょっとなに言ってるか分からない。


「まぁ、半分冗談だが、マインがいてもいなくても必ず揉め事は起こる。はそういう類の人間だからな。言葉は悪いがマインがいてくれた方が『剣聖』の動きをコントロールしやすいんだ」

「あぁ……。なるほど」

「その流れなら多少反撃したところで大きな問題にはならないはずだ。自衛のためだと言い張れるからな」


 囮役デコイみたいなもんか。他の人たちからしたら無用なトラブルを避けられるし、俺としてもあのチョビ髭にやり返すチャンスがもらえる。お互いに好都合ってわけね。まぁ、国王や辺境伯には何かと気を遣ってもらってるし、たまには役に立っておかないとね。

 その間、セイラにはオルティアで待機していてもらおう。そろそろシルフィエッタが王都に来る頃だろうしな。俺がいない間に二人が出会ってしまうのは避けたい。たびたび移動させちゃってセイラには申し訳ないけど。




「わーい!!」

[[[わーい!!]]]


 セイラを背負って街道を疾走する。もちろん今回も【魔纏】でカバーしてるので安全対策はバッチリ。

 オルティアに戻る代わりにセイラが出してきた条件がこれ。ヘイルさんから俺が森の中を爆走した話を聞いて、一回体験してみたかったみたい。とはいえ森の中は何があるか分からないから街道で我慢してもらった。

 楽しんでくれてるみたいで良かったよ。すれ違う馬車の御者には引かれてるけど、セイラの笑顔に勝るものはないからね。




 オルティアに到着したあと、リエラ嬢とトール君にもせがまれて走っていたらヘイルさんに怒られた。


「それはワシの役目だ!!」


 ですって。あなた【魔纏】使えないでしょうに……。

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