第四話 帰省

 オルティアとヘルナイア辺境伯領を経由してアーライト領の領都アラニアにやってきた。馬車で三週間ちょいかかったかな。道中は【魔装】をクッションやベッドみたいにしてたのでセイラも元気いっぱい。さすがに途中からは少し飽きちゃったみたいだけどね。

 オルティアに寄った時にヘイルさんに挨拶に行ったら、めちゃくちゃ暇そうにしてた。平和が一番なんだけど、刺激がないのもね……。今度、こっちでも【花火】の講習会をしてみようかな。

 それにしてもアラニアに来るのは何年ぶりだろうね。五、六年になるのかな?まぁ、ずっと幽閉されてたから特に懐かしいとかはないけど。


「お兄ちゃん、美味しいね!」

「そうだね。味はオルティアのとそんなに変わんないんだなぁ」


 セイラと手を繋いで屋台の串焼きを頬張る。アラニアの街並みや料理の味付けってオルティアのものと結構似てるんだよね。もともと一つの国だったって話だし、文化も似てるんだろうな。

 そんな感じで街の中をあちこち見て回りながら墓地を目指す。ちなみに墓地の場所は串焼きの屋台のおっさんに聞いた。なんか俺の顔を見て首を捻ってたけど。なんだろね?




「ここだな。……相変わらずでかい屋敷だな」

「おっきいねー!」


 墓地は侯爵邸の西側にあった。久しぶりに見た元実家は相変わらず無駄にデカくて、なんかピリピリしてる印象。落ち着いた雰囲気の辺境伯邸とは大違いだね。辺境伯邸の方がずっと居心地が良さそう。


 ここの墓地は大きく二つのエリアに分かれていて、一番奥に侯爵家の一族が入る大きな廟が、その周囲に家臣や使用人みたいな侯爵家にかかわりの深い人や裕福な者たちの墓がある。入口に近いところは市民のためのエリアだね。

 お墓事情もハーテリアとそんなに変わらないね。


「……えーっと、リリー。ここだな」

「ここがおにーちゃんのお母さんのお墓?」

「そうだよ」


 マイン君ママのお墓は使用人たちのお墓の一角にあった。特別立派な感じではないけど、かといって粗末なものでもない。あんまり扱いが悪いようならどうしてくれようかなんて思ってたけど、まぁこれなら許してやるか。

 お墓の前に花を供えてからしゃがんで手を合わせる。この辺の作法は前世とそんなに変わんないね。

 マイン君がお母さんにこれまでの色々を報告するのを黙って聞く。いろいろあったからね。あ、【たーまやー】とかオークの件はそこまで詳しく話さなくてもいいんじゃないかな?あとシスコンなのはマイン君もだからね?俺だけがそうみたいに言うのはやめてほしい。




「……よし。お待たせ」

「もういいの?」

「うん。待っててくれてありがとね」


 マイン君がお母さんに報告する間、セイラも一緒に手を合わせてくれていた。やっぱりいい子だなぁ……。頭を撫でてやるとくすぐったそうにしてる。やっぱりこの子こそ天使だよ。サンククル?アレはジャンルが違うから。

 ちなみにセイラの両親のお墓はハーテリオンにある。正確には慰霊碑みたいなやつだけどね。遺体が発見できなかった人がたくさんいたからね。

 それにしてもようやくマイン君との約束を果たすことができたよ。ごめんね、ずいぶん待たせちゃって。これからもたまに――。


「――マインお兄さま?」

「ん?」

「???」

「「「お嬢様?」」」


 声をかけてきたのはセイラより少し年上の赤い髪の少女。護衛が数人にメイドもついてるし身なりもいい。侯爵家の御令嬢かな。つまりマイシスター。はぁ……。なんでここで会うかな。せっかく『剣聖』がいないタイミングを見計らって来たのに。


「マインお兄さまですよね!?」

「……よく分かりましたね」

「やっぱり!」

「――っ、貴様、あの無能か!何をしに来た!」

[[おぉん?]]

[[やんのかやんのか?]]

[[やれ、マイン!]]

「セイラ、大丈夫だからね?」

「うんっ!」


 俺に気付いた護衛たちが剣に手をかけると、途端に『精霊』たちが気色ばむ。まぁ、俺の後ろにはセイラがいるからね。一応セイラも【魔纏】で守ってるけど、この子たちセイラのこととなるとめちゃくちゃ沸点が低くなるから気を付けてね?まぁ、抜いたら俺も容赦しないけどさ。


「やめて!」

「……っ、しかしお嬢様」

「やめて!」

「「「……ハッ!」」」


 少女の命令で護衛たちが剣から手を放す。この子は意外とまともっぽいね。あの侯爵の娘とは思えない。


「マインお兄さま、ごめんなさい」

「「「お嬢様!?」」」

「あー、もういいから」


 少女が俺に頭を下げるのを見て慌てる護衛や使用人。まぁ、自分たちのせいで主に頭を下げさせたわけだからね。それでもこっちを睨んでいるあたり、自分が悪いとは思ってなさそうだけど。もしくは俺への敵愾心の方が強いか。いずれにせよ、こいつらは相変わらずだね。念のために釘を刺しておいた方がいいかな。


「一応名乗っとくよ。ハーテリア王国で名誉男爵位を賜っているマイン・ファイアワークスと申します。こちらは妹のセイラ・ファイアワークスです」

「「「――っ」」」

「まぁっ!名誉男爵!お兄さまは凄いんですね!あっ、申し遅れました。ブレイド・アーライトが次女レリーナ・アーライトと申します」


 こちらの身分を明かすと笑顔で丁寧な挨拶と会釈を返してくるレリーナ。少したどたどしい感じはあったけどこの辺の教育はしっかりされてるみたい。

 そんなレリーナとは対照的に愕然とする護衛と使用人。おら、この紋所紋章が目に入らぬか。

 そして俺の後ろでドヤ顔をしてるセイラ可愛い。


「セイラちゃん、初めまして。レリーナです」

「初めまして、セイラです!」

「マインお兄さまの妹ってことは、私にとっても妹ってことだからね?私とも仲良くしてね?」

「はいっ!レリーナお姉ちゃん!」

「きゃー、セイラちゃん可愛い~!」

「もぉ、くすぐったいよ~」

「[[はぁ……、てぇてぇ]]」


 セイラにも優しく接してくれてるし、ほんとにいい子だな。ホントにあのチョビ髭の娘?

 セイラとレリーナと三人でしばらくお喋りをする。護衛や使用人たちは何か言いたげだけどね。でも、お前らの都合なんぞ知ったこっちゃないから。

 現在九歳のレリーナは俺が王都に行くときに手を振り返してくれた少女だった。俺の名前は使用人に何度も尋ねて知ったんだって。だけど、よくすぐに俺だって分かったね。そんなに変わってないかな?

 それにしても『剣聖』やカインの話を振ってこないあたり、この子もいろいろと察してくれてるんだろうね。




「あ、そうだ。母のお墓を少し立派なものにしてもいいかな?」

「もちろんです。あ、誰か――」

「あぁ、大丈夫」


 人を呼びに行かせようとしたレリーナを制止して魔法でサクッと墓石を作る。周りのお墓よりもふた周りくらい大きくして、と。俺の縁者ってわかるようにファイアワークスの紋章も入れとこうか。あとはマイン君からのリクエストで、マイン君ママの名前にちなんだユリの花をちりばめておく。もちろん全力で固めるのも忘れない。馬鹿がしょうもない真似をしないようにね。まぁ、下手なことしたら国際問題にするけどさ。


「わぁ……!お兄さまは魔法がお得意なんですね?」

「そうなの!」

「私はあまり魔法を使ったことがなくて……」


 ドヤるセイラ可愛い。まぁこれでも土木系冒険者だからね。こういうのは得意分野なんだ。

 レリーナは細剣使いで属性は火なんだって。だけど家の方針で魔法の鍛錬はほとんどしてないみたい。この辺は実にアーライトらしいな。

 セイラが魔法のアドバイスをしてあげてたけど、“ギュウッとしてエイッ”じゃ伝わらないと思うよ?可愛いけどさ。




「さて、それじゃあ俺たちはそろそろ行こうかな」

「マインお兄さま、またお会いできますか?」

「……うーん、なかなかこっちに来ないからなぁ」


 そう伝えるとしょんぼりするレリーナ。俺としても残念だけどね。でも俺と会うと『剣聖』やその周りの連中がいい顔をしないだろうからなぁ。どうせ今日のこともお付きの連中から報告が上がるだろうし。あいつが勝手にキレる分には構わないけど、レリーナに矛先が向くのは避けたいからね。

 結局、レリーナとセイラで手紙をやり取りをする約束をして別れた。手紙の送り先を辺境伯のところにしたから向こうも下手な真似は出来ないでしょ。すんなよ?フリじゃないからな?




「レリーナお姉ちゃん、優しかったね」

「そうだね」

「また会いたいな~」

「手紙も出さないとね?」

「うんっ!」


 その日は宿に泊まって翌日にはアラニアを出立した。この街には中央の広場以外には観光名所するようなところはないみたいだしね。ヘルナイア辺境伯領の領都には有名な噴水があるみたいだから、その辺を見て回りながらのんびり帰ろう。




[[[あいつら帰ったぞー]]]

「こっちでも確認済み。いつもありがとね」

[[気にすんなー]]

[[マインも大変だなー]]

「まったくだよ」


 侯爵家の連中がこっそりつけてきてたけど、ちょっかいは出してこなかった。まぁ、監視だろうね。恨みを買ってる自覚があるんだろう。実際に恨みがないと言えば嘘になるしな。とはいえ、オブレイン領を戦場にするリスクを負ってまでどうこうしようとは思わない。

 ただまぁ、それはそれとして『剣聖』は一発ぶん殴るけどな。どっかでいいチャンスがないもんかねぇ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る