第九話 ハローアルミラ

 「ハロー、アルミラ公国」


 ……アルミラで合ってたっけ?まぁ、なんでもいいか。

 公国の動きが活発になってるという国境へとやってきた。なんか国境近くにある公国の砦の人や物の出入りが急増してるんだって。着々と侵攻の準備が進められてるみたいだね。

 ハーテリアも国境付近の貴族を集結させてるみたいだけど、一部に不審な動きをする連中がいるらしい。たぶん裏で通じてるんだろうなぁ。

 ちなみに設営作業はすっぽかして来た。ごめんね、ウォルスさん。まぁ、舞台の設置は終わってるから大丈夫でしょ。おばちゃんの許可ももらったしね。もしイヤミー君にイジメられたら教えてね?あとでやり返しとくから。


「まずは偵察かな」


 策は考えてきたけどいきなり仕掛けるわけにはいかないからね。地下からこそっと行って向こうの様子を確認するところから。ぶっちゃけ侵攻を阻止するだけならあの砦を吹き飛ばせばいいんだけどね。バレちゃうとこっちの先制攻撃になっちゃうからマズいんだって。戦争にも作法というものがあるらしい。あほくさ。

 あとまぁ、あんまり弱体化させすぎるとメルニエ王国が動く可能性もあるからね。公国に滅びられてもめんどくさい。というわけで、今回の目的はあくまでも。なお死者が出ないとは言っていない。




 砦の中では兵が慌ただしく動き回っているけど、聞いてたほどの兵はいないっぽい。いや、多いのは多いんだけどね。


「思ったほど数はいないな。物資は大量にあるけど」


 相当な数の軍勢になるんじゃないかって話だったんだけどね。少なくとも現時点では砦の中にも周辺にもそんな大軍はいないみたいだ。侵攻の準備が整うまではもうしばらく猶予がありそう。ということで、さっさと嫌がらせして帰ろう。




 辺境伯の話では近くに魔物が生息する森があるってことだったので、まずはそこを目指す。


『おっ、あれで三つ目か。これならいけるかな?』


 やってきたのは森のやや深いところにあるオークの巣。そう、異世界モノ定番のオークさんだ。見た目は二足歩行の豚で強さも大したことはないけど、繁殖力がめちゃくちゃ強いらしい。そのうえキングやエンペラーといった上位種になると戦闘力が増すうえに、いくつもの群れを支配下に置いて小さな国のような集団を形成するようになる。おそらくこの巣もそういう個体が率いてるんじゃなかろうか。小さな小屋がたくさんあるから数百から千はいそうだしね。

 これなら本命の作戦でいけそうだな。


「さっそくやっちゃうか」


 王都を出て三日も経ってるからね。サクサク行くよ。


「それでは、早速をお連れしましょうかね」




『お邪魔しますよーっと』

「「「ブモッ、ブモモ!?」」」

『え、ちょっ、いきなり?』

「「「ブモオオォォ!」」」


 巣に近づいただけでオークたちが襲い掛かってきた。こっそり潜入はできないっぽい。せっかく【魔装】の鎧をオークっぽい造形に変えてきたのにな。


『【キャノン】……【ファイヤー】』

「「「ブモッ!?」」」

「「「ブモオオオオオォォォォ!!??」」」


 殴りかかってくるオークを処理して、一番デカい小屋に【キャノン】をぶち込む。威力を落として音をでかくしたやつね。今回の目的は討伐じゃないから。というか死なれたら困る。

 まぁ、雑魚には用がないからそいつらには【ショット】を乱射して間引いておく。群れて近隣の町や村を襲ったら寝覚めが悪いからね。全部は無理でもある程度は減らしとかないと。


『おっ、大きいのが出てきた。できれば大物は全部引っ張っていきたいな』


 これくらいの集落ならキング以外にもジェネラルやリーダーといった上位種もたくさんいるだろうし、運が良ければエンペラーもいるかもしれない。それが三つ分だ。

 そう、今からやろうとしてるのは人工スタンピードMPK。公国の連中にこいつらオークの精鋭部隊をぶつけてやる。人がやるのがダメなら魔物にやらせればいいじゃない。どうせうちに侵攻しようとしてるやつらだしな。

 ちょうど砦に人も物資もたくさん準備してあるみたいだしね。頑張ってね?




「「「ブモオオオォォォォ!!!」」」

『いや、これ結構しんどいな』


 数時間走ってようやく森の出口が見えてきた。ついてきてるのはキングとジェネラル、リーダーといった大物を中心とした二百体ってところかな?はぐれそうなやつに都度【ショット】を撃って誘導するのがめんどくさかったけど、何とかここまで来れた。後はこいつらを砦にぶつけるだけ。

 てか、こいつら結構強いんだよな。なんかキングたちは連携し始めてるし。エンペラーがいなくてよかったよ。




『はいはーい、こっちこっちー』

「「「ブモオオオォォォ!!」」」


 砦が近付いてきたので少しだけスピードを上げる。砦の方もこちらに気付いたようで慌ただしく動き出したからね。この勢いのまま砦の門をぶち破る。あとはオークが暴れるのを見届けて逃げるだけ。


『どーーーーん!』

「「「うわああああぁぁぁぁぁ!!」」」

「「「て、敵襲!!!」」」

「「オークだああぁぁぁ」」

『はーい、とうちゃーく』

「「「ブモオオオォォォォォ!!!!」」」


 メイスを思いっきり叩きつけて扉を吹き飛ばして、怒れるオークたちとともに砦に突入する。途端に内部は大パニックに陥った。あちこちで戦闘が始まり、剣戟の音と怒声に悲鳴、さらには豚の声がひっきりなしに聞こえてくる。ぶひぶひ。


『どっちも頑張れー』


 戦争どころじゃなくなるくらい盛大にやりあってほしい。





 ハーテリア王国とアルミラ公国の国境付近で両国の緊張が高まる中、を身に着けたオークエンペラーと思われる個体に率いられたオークの軍勢がアルミラ公国のモルディオ砦を急襲する。オークたちは門を破り砦内に侵入、不意を突かれた公国軍を圧倒し砦を占拠した。

 この戦いで砦の守将であったジガルド伯爵を含め二十六名の貴族が討ち取られ、数千の兵が死傷する大きな被害を受ける。






 オークたちを砦にぶつけてからしばらく様子を見てたんだけど、オークたちが砦を占拠しちゃったからさっさと帰ってきた。てっきりボス争いが始まるかと思ったんだけどね。まぁ、トレインしてるときもキング三体で連携を取ってたから、仲間意識みたいなのが芽生えたのかもしれない。


「正直、オークがあんなに強いとは思いませんでした」

「オークキングは周囲のオークを鼓舞するスキルを持っているからね。それが三体となると……」

「あー、なるほど。そういうことか」


 うん、原作でもそんなスキルがあったね。たしか【オークの王】とかそんな感じの名前だったか。あのスキルの効果って重複するんだな。加算か乗算か知らないけど、どっちにしてもえらいことになってそう。ゲームではキングが複数出てくることなんてなかったしな。そりゃ強いわけだわ。マジでエンペラーがいなくてよかったよ。


「マインにはまた助けられた。ありがとう」

「いえ、戦争なんて御免なんで。闘技大会も無事に開催されそうで良かったです」

「あぁ。これはまだ限られた者しか知らないことだが、水面下で公国から接触があった。公国は砦のオークと睨みあいを続けていて、もはや侵攻どころではないだろう。そうなればミルティアも引くはずだ。単独での侵攻はまず不可能だからね」

「おぉ、それは良かったです」

「公国とは侵攻策を主導していた軍務卿たちと彼らを唆したグラディオルの首あたりで手打ちになるだろうね」


 まぁ、ハーテリアも余裕があるわけじゃないからね。あんまり追い詰めて暴発されても困るからそのあたりが落としどころになるんじゃないかって。一応、侵攻前で止まったしね。

 だけど公国は大忙しだろうね。あの砦をほっとくわけにはいかないだろうし。……ガチでヤバそうなら駆除しに行った方がいいのかな?国境にオークの王国ができても困るし。まぁ、そうなったらその時に考えよう。

 それはさておき、公国の方が落ち着くならとりあえずは一安心して大丈夫かな?教国もハーテリアと何とか連邦の二国を同時に相手取るのは無理だろうし。公国はちゃんとグラディオル捕まえろよな。

 これで学園へのちょっかいも落ち着いてくれるといいんだけどね。みんな闘技大会を楽しみにしてるんだからさ。





 一週間後、周辺の部隊を集結させたアルミラ公国はモルディオ砦奪還作戦を敢行する。多くの犠牲を払いながらもオークキング三体を含むオークの上位種二百三十四体を討伐し砦の奪還に成功する。しかし、オークエンペラーの姿は確認されず、引き続き周辺の警戒を余儀なくされる。

 一連の戦闘で多くの指揮官と兵員、物資を失ったアルミラ公国はこれ以上の戦闘活動は不可能と判断。ハーテリア王国に関係改善のための特使を派遣する。ハーテリア王国は開戦を主導していた者たちのを条件に和解案を受け入れ、二国間の緊張状態は解消に向かうことになる。

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