第二話 再会
「おぉ~、こっちの学園もデカいなー」
それにしても国のシンボルがヒュドラってなんか不思議な感じだな。ゲームとか小説ではボスとして出てくるイメージだし。まぁ、原作でハーテリアが敵国だったからだろうけどさ。
校舎の増改築工事は今も着々と進められているようで、各所に「進入禁止」の札が立てられている。
「……何か用か?」
「あぁ、すみません。これを」
「――っ!?し、失礼しましたっ!少々お待ちください!」
ボーッと校舎を眺めてたら警備の人に声をかけられた。うん、めっちゃ不審者ぽかったね。辺境伯からの紹介状を手渡すと慌てて人を呼びに行ってしまった。いや、そんなに焦らなくていいからね?
「お待たせしました。ハーテリア王立学園教頭のリーザ・ドラ……えっ!?」
「……?」
「あ、あなた、もしかしてマイン・アーライト!?」
「――っ!?」
は?なんでバレたの?いや、偽名とかは使ってないからその気になれば調べられるだろうけどさ。というか、たぶん辺境伯たちも知ってて黙ってくれてると思うんだよね。だって素性が分からない人間をアルト君やリエラ嬢の傍に置くとは思えないからさ。あれ?でも俺って指名手配されてるはずだよな……?
って、今はそんなこと考えてる場合じゃない。なんでこのおばちゃんにバレたかだ。
「……どうしてそれを?」
「覚えていませんか?アルテリア王立学園の入学試験でお会いしました」
「……入学試験?」
「えぇ」
「……あぁ!筆記試験の時の。……あれ?でもなんでハーテリアに?」
「もともとこの学園の教員をしていたのですが、三年間研修に行っていたのです。教育の質ではあちらに遠く及ばないので」
「あぁ、それで」
あの時の魔力が多いおばちゃんか。めっちゃガン見してきてた。あれから結構経ってるのに、すぐに分かったのはどういうことだろう。【魔力感知】か?見た目の成長がないとか、そういうのではないと思いたい。身長は伸びてるしな。……ホントだよ?
それはさておきこのおばちゃん、ドラスティン侯爵という人物の奥さんらしくて、フェルマルって偽名を使ってアルテリア王立学園に行ってたんだって。……大貴族の夫人が三年も緊張状態の国に行くってヤバくね?と思ったら、他国の学園での勤務を数年経てそっち経由で、と結構手のかかる手順を踏んでやったらしい。
まぁ、それなら大丈夫なのかな?現に何事もなく帰ってこれてるし。……原作に出なかったのはハーテリアに戻っていたから、だよね?まさかバレて……とかじゃないよね?
でもまぁ、それくらいのリスクを負ってでも行こうと思うほど、アルテリア王立学園とこの学園の差は大きいらしい。
「まさかハーテリアでお会いするとは思いませんでした。てっきりメルニエに行ったものとばかり」
「あぁ……。なんか手配書が回ってたみたいなのでこっちに来ました」
「……手配書が、ですか?そんな話は聞いていませんが?」
「えっ?でも手配書を持った人たちが俺くらいの背格好の人間を捜してましたけど。侯爵家が出したんじゃないんですか?」
「……あっ」
さすがに身に覚えがあるとは言えないからね。
で、おばちゃんの話によると俺のことを捜してたのは学園だったらしい。目的は実技で首席だった俺を学園に入学させるため。……実技で首席?誰かと間違ってない?と思ったら、俺が試験のときに真似したやつが結構すごいやつだったらしい。えぇ……。
どうやら俺が追放された後で侯爵家の入学辞退の手続きに不備があったことが分かって、大急ぎで探してたんだって。手続きに不備とか侯爵家だっさ。
「ってことは指名手配されてなかった……?」
「……はい」
「うわぁ……、まじかー」
「ですが、その件で『剣聖』はかなり非難されたみたいですから、アルテリアに残っていたら厄介ごとに巻き込まれていたと思いますよ」
「ざまぁ」
でもそういうことならあのままメルニエに行っても良かったんじゃねーか。……いや、それだと辺境伯たちやセイラにも出会えなかったから結果オーライか。原作も壊せたしな。
「あぁ、そうでした」
「……?」
「アリア・サイレイン嬢があなたにお礼を言いたがっていましたよ?」
「えーっと……、どなた?」
「試験会場であなたが声をかけた少女ですよ。覚えていませんか?」
「……あぁー!あの時の」
「あなたのおかげで彼女は無事に午後からの試験を受けることができました。とても優秀な生徒ですよ」
「そうですか。それは何よりです」
あの子、コミュ障の俺が思わず声をかけてしまうくらい顔色がヤバかったからね。なんでも座学では学年でも上位五人に入ってるんだって。めちゃくちゃ優秀じゃん。合格できてよかったね。
「ですがハーテリアとしては幸運でした。あなたがこの国に来てくれて」
「……いえ、そんな」
……ごめんなさい。王城と神殿を爆破しました。そのせいでいろいろ起きちゃいました。
「今はオブレイン辺境伯のところにいるのですね」
「はい、辺境伯様にはいろいろお世話になってます。あ、実家のことは内密にしていただけると……」
「分かりました。そのように」
「ありがとうございます」
変に話が広まっても面倒だからね。余計なトラブルはお断りだ。
「ところで紹介状によると作業の手伝いをしてくださるそうですが?」
「はい、そのつもりで来ました」
「それは助かります」
うん、思いがけない出会いで忘れかけてたけど、今日学園に来たのは作業のお手伝いのため。用務員として働くかはまだ決めかねてるけど、作業が遅れてるってことで応援に来たわけだ。職場見学にもなるしね。これから一日おきに来る予定。
休みの日はセイラやリエラ嬢と一緒に王都の観光をしたり、サーシャさんに挨拶に行こうかなと思ってる。
サーシャさんは正式に教会を離れたみたいで、今は孤児院を運営する傍ら子どもたちに勉強や魔法を教える私塾を開いているそうだ。予定通り平民の受け入れが始まれば、サーシャさんのところから入学してくる子も出てくるだろうね。
「あちらが訓練場になります」
「広いですけど……、荒れてますね」
「えぇ、一年前の騒乱で出た大量の土砂や瓦礫を一時的にここに置いていたのです。大きなものは処分しましたが、土砂はそのままになっていまして」
「……なるほど」
案内してもらったのは壁に囲まれた広い訓練場だった。十人ほどの作業員が地面に手をついて整地作業をしている。広さは辺境伯のところの訓練場よりは少し狭いくらいかな。あちこちに土砂の山があって残念な感じになってる。
……うん、その瓦礫や土砂はきっと俺のせいです。なんかごめんね?
「あちらがここの指揮をされているショーン・フェブリス殿です」
おばちゃんが示す先にいたのは二十代半ばの青い髪の男性。おっ、こちらの視線に気づいたみたいだね。
「これは教頭先生。どうされました?」
「追加の作業員が来てくれました。マインさんです」
「マインと申します」
「ショーン・フェブリスです。ここの作業の指揮をしています」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。まずは作業の説明をしますね」
作業の内容としては大きめの石や瓦礫があれば砕くなり深くに埋めるなりしながら、平らにしていくんだって。作業自体は簡単なものだけど、広さが広さなだけになかなか大変そうだ。
「とりあえずこの辺りからやっていただけますか?」
「分かりました」
作業の前に【土中探査】で地下の様子を探ってみる。……これと同じようにやればいいわけね。
【整地】を使って十メートル四方を一分ほどかけて整地していく。やり過ぎたら仕事が増やされちゃいそうだし、手を抜きすぎると舐められる。加減が難しいね。
それにしてもボコボコだった地面が綺麗になっていくのは気持ちがいい。やっぱりドンパチよりこういう土木作業の方が性に合ってるわ。
「ほぅ、これはなかなかの腕ですね……」
「魔法の扱いがあの時以上に洗練されていますね」
「ありがとうございます」
手加減はいい感じだったっぽい。もっともおばちゃんにはバレてそうだけどね。やっぱこの人【魔力感知】持ってるわ。
「――今日はこれくらいにしましょう。マインさんのおかげでだいぶ遅れを取り戻すことができました。ありがとうございます」
「いえ、お疲れさまでした」
「えっと、次は明後日でしたか?」
「はい、その予定です」
「分かりました。次回もよろしくお願いします」
夕方まで作業を続けて今日の作業は終了。おばちゃんは途中まで作業を見て仕事に戻っていった。忙しいんだろうね。作業をしてるのはここだけじゃないし。ここは騎士科用の訓練場で、壁の向こうに同じ広さの魔法科用のものがもう一面あるらしい。それ以外にも個人やグループ用の小さめの訓練場もたくさんあるんだって。
それにしてもやっぱり土木系の仕事は楽しいね。それに少しではあるけど学園の雰囲気も味わえてワクワクする。用務員の仕事も前向きに考えてもいいかもしれない。
「それじゃあ帰るかー」
明日どこに遊びに行くか相談しないとね。
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