第三章 ハーテリア王立学園編
第一話 一年後
「――ハァッ!」
「まだ魔力の集束が甘いですね。途中で魔力が逃げていってます」
「くっ……」
「まずは時間がかかっても魔力をしっかり収束させることを意識しましょう」
「……はい」
「ちゃんと上達してますから焦っちゃだめですよ。一つ一つクリアしていきましょう」
「はいっ!」
あれから一年。俺はアルト君とリエラ嬢の指導を続けながらオルティアで土木系冒険者をやってる。まぁ、半分辺境伯家の専属みたいな感じになってる気がするけどね。家も辺境伯邸の近くに引っ越したし。
アルト君は襲撃された時に戦う側に入れなかったのが相当悔しかったようで、領地に戻ってからは必死に剣の鍛錬に励んでいる。上達速度もかなりのものでフェンフィール氏も絶賛してた。ただ、やはり魔力の扱いが苦手なようで【属性付与】の練度はまだまだ。斬撃も飛ばせるようにはなったけど威力が物足りないんだよね。年齢を考えれば十分すぎると思うけどさ。
一方のリエラ嬢はと言うと。
「セイラちゃん、いいよ!」
「うんっ!【ライト】!……リエラおねえちゃん、できないよ?」
「えっとね、えっとね、魔力をギュッとしてパッってやるの!」
「……ぎゅっとしてぱっ!【ライト】!……わぁ、できた!」
「わぁ!セイラちゃん、すごいすごい!」
「[[えぇ……]]」
リエラ嬢は休憩の時間を使ってセイラに魔法の指導をしてくれている。んだけど、なんでそれでできるんですかねぇ?二人とも天才か?『精霊』たちまで引いてるじゃないか。もちろん俺やマイン君もだ。
「おにーちゃん、できたよ!」
「見てたよ。凄いなぁ……」
「あ、にーさま、私も!」
「はいはい、リエラちゃんもありがとね」
「[[ぐぬぬ]]」
抱き着いてきたセイラとリエラ嬢の頭を撫でてあげる。アルト君も『精霊』たちもこっちを睨むのは止めるんだ。ちなみにリエラ嬢はお嬢様呼びがお気に召さなかったようで、ちょっと前からちゃん付けで呼ぶようにしている。
リエラ嬢の魔法の鍛錬も順調に進んでいて、今は各属性の初歩的な魔法を練習しているところ。三つも属性を持ってると属性ごとの感覚の違いを掴むのが大変だからね。
で、復習も兼ねてセイラの指導をしてもらったんだけど、リエラ嬢とセイラが感覚派だということがよく分かった。これだから天才は……。
そしてセイラ。結局、マイン君と『精霊』たちの後押しもあって俺が引き取ることにした。今は魔法の基礎鍛錬をしているところ。まぁ、さっきので分かるようにこの子も凄かった。魔法適性は氷と光の特殊属性二つ。まぁ、『精霊の愛し子』だからこれくらいはね?セイラの属性が二つともリエラ嬢と被っていたことで、ますますリエラ嬢と仲良くなった。リエラ嬢からしたら妹みたいな感覚なんだろうね。
「マイン殿!今日こそ【たーまやー】の秘密を教えてもらいますぞ!」
「げぇっ、ヘンリックさん!?」
「「たーまやーってなぁに?」」
突然やってきたのは茶髪の中年魔法使い。領軍の魔法使いを束ねるディル・ヘンリック男爵。一年前は留守居役として領都に留まっていた彼だけど、
あの時はいい発動句がまったく思い浮かばなかった。そんな時になんとなく頭に浮かんだのが【たーまやー】だった。締まらないなぁとは思ったけど、俺の語彙力なんてそんなもんだ。期待すんな。ってことで発動句にしてしまった。
「――って何度も説明したじゃないですか」
「いいや、私の目は誤魔化せませんぞ!ヘイル様が屋根から転げ落ちそうになるほどの大爆発。きっと魔法の効果を増幅するような秘密があるに違いないのです!」
「そんなのないですから!」
「「たーまやー、たーまやー」」
[[[たーまやー]]]
[[[きゃはははは]]]
それ『精霊』のせいですから。お前ら笑ってんじゃねーぞ。お前らのせいでめんどくさくなってんだからな。とはいえ、『精霊』のことを伝えるわけにはいかない。こればっかりは辺境伯たちにも話してないし、今後も話すつもりはない。少し後ろめたい気はするけど、セイラが穏やかに生きていくためなんだ。許して欲しい。
そしてはしゃぐ幼女たちかわいい。天使かな?
「あぁそうそう、閣下がマイン殿にお話があるそうですぞ」
「ちょ、それ先に言ってくださいよ」
「ハッハッハッ、失礼失礼」
ヘンリックさんっていい人なんだけど、魔法オタクなせいか妙に鋭かったり変なところに興味を持ったりするからちょっと苦手なんだよなぁ。その分、俺の魔法の強化にも役立ってるんだけどさ。
「それじゃあちょっと行ってくるね」
「はい」
「「はーい、いってらっしゃーい!!」」
[[[いってらー]]]
「マイン、久しぶりだね」
「ご無沙汰しています。辺境伯様もお元気そうで」
「あぁ。アルトやリエラも変わりなくて安心したよ」
「そうですね。お二人ともだいぶ腕を上げられましたよ」
この一年でハーテリア王国は大きく変わった。新国王が即位したり、あの件に関わっていた貴族たちが処刑や
処分を受けた貴族は八十七家に上ったそうだ。比較的関与の薄い貴族たちは目溢しされたらしいけどね。それでもこの数かぁ……。文官や武官、各地の代官なんかにもミルティアの息がかかったやつがいたらしいから、とにかく影響が大きかったらしい。
その関係で辺境伯は領地をヘイルさんに任せて、フェンフィール氏とあちこち飛び回っていた。ちょっと前にも処分に不満を持った
まぁ、そんなこんなで大量に空きができた領地やポストをどうにかして埋める必要が出てきた。実家を継げない貴族の次男三男たちを叙爵したり、実績のある下位貴族を陞爵したり。その関係でフェンフィール氏もヘンリックさんも騎士爵から男爵に陞爵した。二人とも領地は奥さんと息子さんに任せて、今まで通り辺境伯の近くに仕えるみたいだけどね。
ちなみにヘイルさん経由で俺にも叙爵の話が来た。最大の功労者だからって。いや、たしかに事の発端は俺だけど肝心な部分は丸投げしちゃってるからね?ってことで
けどまぁ、それくらい人材が足りてないらしい。
「――そこで陛下の提案で、アルテリアに倣って国中から優秀な人材を集めようという話になってね。休校になっていた学園を再開することになったんだ」
「アルテリアに倣うってことは学園に平民を受け入れるってことですか?」
「そうなる」
「へぇ~、それはまた思い切ったことを考えましたね」
「あぁ、議論は紛糾したがやむなしという意見が多かったよ。それだけどこも人手が足りないんだ。結局、平民出身者は卒業後に数年間実務経験を積ませて、優秀な者を叙爵するという形に落ち着いたよ」
「なるほど」
そのために騒乱の影響で休校になっていた学園の再開を急いでいるらしい。で、まずは試験が中止になったせいで受験できなかった世代の子たちを今年の受験生と一緒に受験させて、一学年の数を増やすことになったんだって。将来的には学生の数を今の倍近くまで増やす予定だそうだ。
「それじゃあ平民の入学は再来年からですか?」
「そうなるね。とはいえ、あまり学生の質を落とすわけにもいかないから、最初のうちは平民出身者は少ないだろう」
まぁ、平民は読み書きができない人も多いしね。商家とか比較的裕福な家とかは別だけど、学園のレベルについていける人はごく少数だろうね。
で、今は再開に向けて校舎の改築と追加の教員や職員の選定が急ピッチで進められているそうだ。で、わざわざこんな話をするってことは……。
「マインにはアルトと一緒に学園に行ってもらえないかと思ってね」
「えーっと、行くというのは?」
「学園で腕のいい地属性魔法の使い手を探していてね。私たち家族はしばらく王都に行くことになったから、マインとセイラも一緒にどうかと思ったんだ。拠点として王都の屋敷の離れを提供しよう」
「それは助かりますけど……。地属性ってことは施設のメンテナンスとかの仕事ですか?」
「そうなるね。私としてもアルトやリエラの近くにマインがいてくれると安心だから引き受けてくれると嬉しい。もちろん強制する気はないから安心してほしい。……あぁ、もしマインが教員をやりたいのならそっちにねじ込むことができるが?」
「ムリです。勘弁してください」
大勢の前で授業するなんてムリムリ。まず見た目で舐められる。少しは伸びたけどアルト君との差は開く一方だ。この世界はなんて不条理なんだろう。
で、辺境伯は当面の間、王都を拠点にするらしい。落ち着いてきたとはいえ、まだ裏でコソコソやってる連中がいるんだとか。懲りないやつらだね。辺境伯は中央からそういう
そういうわけでしばらく領地をヘイルさんとヘンリックさんに任せて、一家で王都に移るんだって。トール君もかわいい盛りだから離れるのが嫌ってのもありそう。
個人的には辺境伯を中央に置いてて大丈夫なの?とは思うけど、前辺境伯のヘイルさんがまだまだ元気だからってのもあるんだろうね。同世代の人たちはまだ現役なのに、のんびりしたいとか言って強引に隠居したみたいだし。
「分かりました。セイラと相談してみます」
「あぁ、よろしく頼むよ」
まぁ、セイラも王都に行くって言うと思うけどね。リエラ嬢とは姉妹みたいに仲良しだし、奥様にもよく懐いてるから。
ただ、学園にはそんなに興味がないんだよなぁ。アルテリアの学園との違いはちょっと気になるけど、生意気な貴族のガキが多そうなイメージもあるしなぁ。
ダメもとで辺境伯に職場見学とかできないかきいてみようかな。
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