第十二話 グッバイ原作

「――とまぁ、そんな感じになりました」

「「……」」

「……」

「……あー、何がどうなってそうなったのかさっぱり分からないんだが?」

「俺も分からないです」

「「……」」


 王都でなんやかんやあった三日後、俺は辺境伯と合流していた。本当はすぐに合流するつもりだったんだけど、魔力の使い過ぎで丸一日ダウンして辺境伯邸で休ませてもらっていた。

 サーシャさんや捕まってた人たちは、前辺境伯の文を受け取った『テルディー一家』がちゃんと保護してくれていた。これでしばらくは潰されないね。これからも頑張ってね。


 で、辺境伯とフェンフィール氏に合流して事の成り行きを説明したらこの反応だった。まぁ、辺境伯には「ムカついたんで主戦派とミルティアに嫌がらせしてきます」としか言ってなかったからね。

 まさか穏健派と中立派が蜂起して王城と神殿を制圧した上にアクトス公爵が自害。さらには国王と複数の王子にその側近たち、司教ら教会幹部の処刑も控えてるなんて訳が分からないだろう。俺だって分からない。前辺境伯から話を聞いてびっくりしたわ。

 てか、なんで中立派のベルガルド侯爵が一番キレてんの?


「心配なのは周辺国の動きだな」

「えぇ、今回の件を口実に侵攻する国があるかもしれません」

「あー、そのことですけど、ヘイル様がその可能性は低いんじゃないかって」

「む、父上が?なぜだ?」

「なんか他の国でもミルティアの連中が悪さをしてたみたいです。それに現地の貴族や商業ギルドが協力してたらしくて、そっちの対応で手一杯なんじゃないかって」


 やっぱミルティアってクソだわ。他の国でも似たようなことやってたらしい。それを示す証拠が俺たちの持ちだした書類の中にあったもんだから、さあ大変。まぁ、それがあったから穏健派も中立派もあんなに大々的に動けたんだろうけどね。それを各国に送りつけてやればこっちに構ってる余裕なんてなくなるしな。

 それにしてもミルティアと商業ギルドがここまでズブズブだったのは完全に想定外だった。にもかかわらず、原作では逃げ切ってるんだよなぁ。何をどうやったんだか。まぁ、ここで考えても答えは出ないか。いずれにしても今回の件でどちらも動きにくくなるはずだから、しばらくは大人しくしていてほしい。というか、そのまま消えてくれ。



「まぁ、なにはともあれマインが無事でよかった」

「心配してたんだぞ」

「すみません」

「……で?その子はどうしたんだ?」

「マイン、誘拐は感心しないよ?」

「ちょっ、違いますよ。……なんか懐かれたみたいで」


 俺の背中にいるのは【精霊眼】の少女ことセイラちゃん四歳。ここに来るときにスラムに寄ってサーシャさんと情報交換してたら、いつの間にか俺の服の裾を握りしめていた。何とか説得してサーシャさんに預かってもらおうとしたんだけど、問題が起きた。


[お?うちのお嬢になんか不満があんのか?]

[[[お?やんのか?やんのか?]]]


 こいつら『精霊』である。彼らは自分の意思で相手に自分の姿と言葉を知覚させることができるらしい。そんな彼らに説得脅迫されて、セイラ嬢を同行させることになったわけだ。まぁ、【精霊眼】持ちなんて教会じゃなくても欲しがるだろうから、彼女を守る人間が欲しいのは分かるけどさ。これ、ステータスが見れたら称号欄になんかついてそうだな。


 あ、そうそう、なんとかっていう枢機卿が思ったより弱かったり、地下を吹き飛ばした時の爆発が妙にデカかったのは『精霊』こいつらのせ……、もといおかげだった。『愛し子』にちょっかい出されてキレてるところに、俺が暴れ回ってたから便乗したんだって。特に爆発魔法の方は「多少派手にやっても大丈夫」とか「デカい花火を打ち上げてやるぜ」ってセリフを聞かれてたらしくて張り切ったらしい。……俺、口に出してたっけ?

 ちなみに『精霊』たちは他人の魔法の強化や弱体化はできても、魔法の行使そのものはらしい。おそらく神とか精霊王みたいな上位存在がいるんだろうけど、そのせいで原作で『精霊』たちがセイラ嬢を守れなかったと思うと、なんだかなぁ……って感じ。


 まぁ、そんな未来は防げたからとりあえずは良しとしよう。それにセイラ嬢も素直ないい子なので引き取ってもいいかなーとは思ってる。意外なことにマイン君も結構前向きっぽいしね。たぶん人に頼られるのが初めてだからだろうね。

 ただ、俺としてはもっとちゃんとした人に育ててもらった方がいいんじゃね?とも思うんだよね。だって王城と神殿を爆破するようなやつだよ?冷静に考え……なくてもやべーやつじゃん?

 今後の俺の扱いもどうなるか分かんないしな。枢機卿のこととかは隠したけど辺境伯や前辺境伯にはいろいろバレちゃったしな。できればこれからも土木系冒険者でいたいんだけどな。まぁ、辺境伯たちのことだからそう悪いことにはならないとは思うけどさ。そう思うくらいには信用している。


「はじめまして!リエラです!お名前は?」

「せいら、です」

「セイラちゃん!よろしくね!」

「よ、よろしく」

「セイラちゃんはいくつ?」

「四歳、です」

「じゃあ私がお姉ちゃんだね!」

「おねえちゃん?」

「うんっ!」

[[「はぁ……。てぇてぇ」]]


 気が合うじゃないか、『精霊』諸君。こういうの微笑ましくていいよね。ほっこりする。ここ数日はクソみたいな光景ばっかり見てたから余計に。


「さて、そろそろ王都に向かいましょうか」

「そうだな。マインは護衛を続けてくれるんだろう?」

「えぇ、もちろんです」

「ねぇねぇ、セイラちゃん。一緒の馬車に乗ろう?」

「いいの?」

「いいよね?お母様?」

「えぇ、もちろんよ」


 セイラ嬢は女性陣とトール君の馬車に乗せてもらえるらしい。二人が仲良くなれたようで一安心だ。まぁ、二人ともいい子だからそんなに心配はしてなかったけどね。


「あ、じゃあ俺は――」

「マインはこっちだ」

「いろいろと聞きたいことがあるからね」

「ですよねー」


 こっちはお話の時間らしい。逃げていいですかね?あ、ダメ?さいですか。




 いろいろやらかした感はあるけど、ハーテリオンの地下で改造されるという原作マイン君ルートは完全になくなったと考えていいだろう。ハーテリアも国王が変わるし、貴族の勢力図も大きく変わった。少なくとも原作のような形でハーテリアがアルテリアに攻め込むことはなくなったんじゃないかな。図らずもアーライトの弟妹たちを助けることもできた。

 まさかハーテリアで生きていくことになるとは思わなかったけど、まぁこれはこれで悪くない。辺境伯一家にフェンフィール氏にサーシャさんにセイラ嬢。あと、ちょっとめんどくさいけど愉快な『精霊』たち。出会う人に恵まれたのが大きかった。普通に……かどうかは微妙なところだけど、ここなら俺もマイン君も楽しく生きていけそうだ。




「……父上、この関所ボロボロになってますね」

「ふむ、何かが暴れたか?」

「マイン、何か聞いてないかい?」

「……イエ、マッタク」


 そこの大人二人はニヤニヤしながらこっち見るのやめてもらっていいですかねぇ?不思議そうに首をかしげているアルト君。君はそのままでいてね?

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