第十一話 【たーまやー】
『うわー、出るわ出るわ』
「まさかこんなにも……」
枢機卿を討ち取った後、近くの部屋でここでの活動に関する資料を大量に見つけた。ご丁寧なことに王や王子の署名が入った書類や出資者のリスト、抹殺予定の貴族やその関係者のリストなんかも置いてあった。ここに攻め込まれる可能性とか考えてなかったんだろうか?でもなんか原作でもこんな感じだったような気がするな。
それにしても予想外だったのは商業ギルドの関与を示す証拠まで出てきたこと。原作だとあいつらこっち側についてたのに。証拠が吹き飛んでなくて良かった。
「持ち出せるのはこれくらいかしら?」
『そうですね。後は彼らを避難させてここを爆破しましょう』
実験のデータみたいな悪用されたらマズそうなものはここで葬ることにした。残る魔力の大半を使って地下のあちこちに爆発魔法をセットする。これでも土木系魔法使いだからな。発破は得意だ。どうせ上は王城だし多少派手にやってしまっても大丈夫だろう。デカい花火を打ち上げてやるぜ。
帰り道の確保はサーシャさんと捕まっていた貴族や冒険者たちが引き受けてくれるらしい。証拠品の運搬も他の人たちが手伝ってくれるみたいだからちゃっちゃと脱出しちゃおう。
「――という段取りでいいですか?」
「あぁ、穏健派は任せてほしい」
「ギルドは俺たちが動かそう」
アルディナ商会の用心棒や『闇夜の翼』の連中を蹴散らして脱出した後、サーシャさんや捕まっていた貴族の男や冒険者たちと相談して、証拠を王都の有力貴族と冒険者ギルドにばら撒いてから地下を吹き飛ばすことにした。先に騒ぎが起きるとちゃんと証拠が届くか不安だからね。地下通路の【土壁】はまだ突破されてないから今のうちに。たぶん爆発する床に手間取ってるんだろうね。
貴族の男は穏健派の子爵家の当主のようで、証拠を持って寄親のブローム伯爵のもとに走った。被害者のリストには他にもブローム伯爵の寄子の名前があったから、確実に動いてくれるだろうとのこと。じゃないとメンツが立たないからね。ブローム伯爵から穏健派の貴族に情報を回してくれるらしい。
一方、商業ギルドは冒険者ギルドが抑えてくれることになった。冒険者たちの話では、商業ギルドを介した依頼中に冒険者や護衛対象が行方不明になるケースが増えていたそうで、彼らの一人がその調査にあたっていたらしい。この辺も原作では出てこなかった情報だな。
「――ということで、この証拠を穏健派と中立派の貴族にばら撒いてほしいのですが」
「あい分かった。トーレス、これを大至急ゼルフィンとベルガルドのところに送れ。あぁ、うちの者どもの武装も忘れんようにな。戦になるぞ」
「承知いたしました」
「……戦になるんですか?」
「ほぼ確実に、な。ゼルフィンの現当主は血の気が多い男だ。穏健派を集めて王城や神殿に攻め込むことも十分に考えられる」
「穏健とは……」
「フンッ、ワシらは無茶な領土拡大に反対しておるだけで、相手が仕掛けてくるなら容赦はせん。貴族は舐められたら終わりだからな。そして今回、連中は舐め腐った真似をしてくれたわけだ。となれば、やることは一つ」
「……思いっきりやり返す」
「そういうことだ。まぁ、今は王都にいる貴族も多い。そう長くはかからんだろう」
俺は辺境伯からの書簡を届けるついでに、報告と証拠のばら撒きを丸投げするために王都の辺境伯邸に来ていた。深夜の訪問にもかかわらず、すぐにヘイル・オブレイン前辺境伯との面会がセッティングされた。ヘイルさんはデカくてゴツくて顔も怖かった。イケメン細マッチョの辺境伯とは全然違うタイプ。目元とか髪の色なんかはよく似てるけどね。
で、ヘイルさんが言うにはどうやら戦になるらしい。せいぜいちょっとした小競り合いになる程度だと思ってたんだけどな。お貴族様怖い。
ちなみにゼルフィン公爵というのが穏健派のトップで、ベルガルド侯爵が中立派のトップらしい。今は王立学園の入学試験が近いこともあって、主だった貴族の多くは王都にいたり近くまで来てるんだって。
「保護した者たちだが、すまんがすぐにどうこうはしてやれん。戦になればここらも騒ぎになるだろうからな。配下を送る余裕がない」
「分かりました。あっちは――」
「いや待て。スラムと言ったな。となると奴らが使えるか?」
「……奴ら?」
「以前スラムを纏めておった連中だ。今では闇の何とかなどという連中に押されておるようだが、奴らには貸しがあるからな。文を届けさせよう。それで動かんかったらもう使い物にはならんな。潰すか」
サーシャさんが救出した人たちを一時的にスラムで保護してくれていることを伝えたら護衛役を紹介してくれた。『闇夜の翼』が台頭する前にスラムの顔役をしていた組織なんだって。今は弱体化してるみたいだけど、これで動かなかったら潰されるらしい。やっぱりお貴族様怖い。
「トーレスが戻ってきた。連中はいつでも動けるそうだ。いつやる?」
「いつでも行けます」
「ふむ、せっかくだ。ワシも庭で――」
「あら?私は仲間外れかしら?」
「おぉ、ダリア。起きてきたか。どうだお前も一緒に。城から火が噴くなどそうそうお目にかかれるものじゃないぞ!」
「あら!それは楽しみね!」
「いや、火は噴か――」
「せっかくだ、皆も起こすか!」
「そうね、そうしましょう」
「えぇ……」
一通りの打ち合わせを済ませたところに現れた薄緑色の髪のご婦人。ヘイルさんの奥さんかな。この夫婦、くっそ楽しそうなんですが?しかもギャラリーを増やすらしい。あの……、たぶん火は噴かないと思うんですが。
庭に手をついて地下に仕掛けた爆発魔法まで魔力をつなげる。地下通路までそんなに距離がなくてよかった。これで準備完了。あとは発動句を告げて魔力を流すだけだ。
「それじゃーやりますよー?」
「えぇ!」
「うむ!派手にな!」
「揺れにご注意を」
屋敷の屋根にいる前辺境伯夫妻に声をかける。はしゃぎ過ぎだろ。似た者夫婦かよ。兵士や使用人の皆さんは庭から見るらしい。てか人数多いな。お祭り好きか?まぁいいや。やっちゃおう。
「……うっし、【たーまやー】!!」
「なんだ、その発ど――うおおおおぉぉぉ!?」
「キャッ!?」
「「「うわあああぁぁぁぁ!?」」」
「え、ちょっ、そんなに!?」
その日の未明、突如として大きな揺れが王都ハーテリオンを襲い、王城と神殿から黒煙とともに炎が噴き出した。突然の変事に王都は悲鳴と怒号に包まれ多くの者がパニックに陥る。
そんな中いち早く動き出した者たちがいた。
まず、穏健派と呼ばれる貴族たち。彼らはどこからか情報を得て、穏健派トップのゼルフィン公爵のもとに集結。王家と主戦派貴族、そしてミルティア教会による非道の数々を糾弾する声明を出し、王城を包囲。国王や複数の王子を含む関係者の首とミルティア教国との絶縁を要求する。そして、それが受け入れられない場合には武力の行使も辞さないと宣言した。
穏健派と呼ばれる彼らだが、やられたらやり返すという貴族としての本能は失っていない。攻撃に晒されていることが分かった今、彼らは敵に対して牙を剥いた。
そんな彼らとほぼ同時に動いたのが中立派の貴族たちだった。特に彼らを率いるベルガルド侯爵の動きは早く、中立派の集結を待つことなく自ら手勢を率いて神殿に突入。司教を含む複数の教会幹部を拘束する。遅れて到着した中立派貴族たちも穏健派の支援にまわり主戦派貴族を牽制する。
一方、市街地では冒険者ギルドが動いていた。爆発の直後に王都にいるすべての冒険者に招集をかけて民衆の鎮静化に動く。同時に高ランクの冒険者を使い商業ギルドを包囲。商業ギルドが依頼と称して冒険者や依頼人である商人たちをミルティア教会に売り渡していたとして、これを厳しく糾弾する。商業ギルドのギルドマスターが否定するも、次々と出てくる証拠に膝を折ることになる。
出遅れたのが主戦派の貴族たちであった。一度は派閥を率いるアクトス公爵の屋敷に集結するものの、穏健派の声明によって大きく動揺する。事情を知らなかった貴族たちがアクトス公爵に真偽を質すも明快な返答は得られなかった。結果、彼らの多くが公爵邸を離脱し、穏健派や中立派に合流もしくは自邸に籠ることになる。
最後に王家とミルティア教会。いずれも地下の異変に気付き戦力を投入したが、爆発する床と封鎖された通路に足止めされる。何とか突破しようと奮闘するところにさらなる大爆発が起こり、現場を指揮していた幹部らが死亡。大混乱に陥ってしまう。
神殿は混乱のさなかにベルガルド侯爵の急襲を受けて交戦するも、司教ら幹部が捕らえられ降伏する。
穏健派に包囲された王城では国王フィント・ソル・ハーテリアらが強硬に籠城戦を主張するが、穏健派や中立派出身の騎士や兵士らによって身柄を拘束され開城。機密保持のために主戦派出身者を地下に送っていたことが裏目に出た形である。
神殿の降伏と国王捕縛の報を聞いたアクトス公爵は自身の首を差し出すことを条件に、この件に関与していない主戦派貴族の助命と地位保全を嘆願。これをゼルフィン公爵とベルガルド侯爵が了承したことで、この騒乱は僅か一日で終結を迎えることとなった。
「……なんかめちゃくちゃ大事になってるんだが?……え?これ、俺のせいなん?」
誰か違うと言ってほしい。
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