第十話 ちょっと強いだけのモブ
『王城がある方向は分かりますか?』
「ちょっと待ってね。えっと……」
「あっち」
『ん?』
「え?」
「つうろ、あっちとあっちにある」
「……ホントだわ。どうしてわかったの?」
「おしえてくれたの」
「だれが?」
「せいれいさん」
「『――ッ!?』」
通路の方向を教えてくれたのは銀髪の女の子。リエラ嬢より年下っぽいのにこの子魔力多いなー、なんて考えてたらとんでもないワードが出てきた。
『精霊』。意思を持った魔力の集合体でありとあらゆる場所に存在するもの、として原作に登場していた。自然そのものともいわれる彼らは、俺の【魔力探査】や【魔力感知】でも一切感知できない。今のサーシャさんの反応からして【魔眼】でも見えないんだろうな。
そんな彼らを知覚できるのは【精霊眼】か【精霊感知】を持つ者に限られる。特に【精霊眼】は【魔眼】と同じく【神眼】のひとつで、これを持って生まれた者は『精霊の愛し子』と呼ばれ、『精霊』との意思の疎通が可能なんだとか。ってことはこの子【精霊眼】持ちか。
たしか原作では……って絶対これもサーシャさんと同じパターンだろ。だってあの
『もーやだ、なにこの国』
とはいえ、サーシャさんの眼のことも考えると、むしろいいタイミングだったのかもしれない。今なら
『王城への通路はあそこみたいですね』
「まさかこんなに兵士と神殿騎士がいるなんて……」
保護した人たちを隠して二つ目の通路も完全に塞いだので、あとは王城と神殿に繋がる二か所。まずは王城の方から。と思ったんだけど、結構厳重に守られてるな。まぁ、王城の真下だしな。
『よし、やるか』
「え?大丈夫なの?」
『問題ありません。討ち漏らしはお願いします。【ショット】』
「「「ぐあっ!?」」」
「な、なにごとだっ!?」
「【光槍】!!」
「「うわぁっ!?」」
今回は【バレット】より数を重視した【ショット】を採用した。精度と威力は落ちるけど、このくらいの相手なら乱射しとけば問題ない。うん、サーシャさんもちゃんとトドメを刺してくれてる。ちょっと心配だったんだよね。今さら躊躇されても困るしさ。
『おっと、【地雷】【土壁】』
通路を五重の【土壁】で塞ぐ前に、王宮側の床に【地雷】を仕掛けておく。【地雷】は踏んだらドカンな元ネタそのままの魔法だ。原作マイン君が『剣聖』を殺した魔法だね。
【地雷】をセットした後は通路を全力の【土壁】で封鎖する。【バレット】でも少し傷がつくだけのガッチガチのやつ。ただし一番外の【土壁】は少し強度を落として、二つ目の【土壁】との間に爆発魔法を仕込んでおく。無理やり破ったら爆発するわけだ。破れる奴は相当な手練れだろうからね。これで死ぬか負傷するかして戦線離脱してくれると嬉しい。
『じゃ、急いで次行きましょうか』
「えぇ」
『ちょっと失礼』
「きゃっ」
今回はさすがにこっそりとはいかなかったから周りが騒がしくなってきた。ここからはサクサク行くよ。ってことでサーシャさんを担いで走る。
『――見えたっ』
「止まれ、賊どもが!ここは――」
「あ、あれはドルネロ司祭!?」
『【バレット】【ショット】』
「――っ!?まさか、サー――ゴフッ」
「「「ギャァッ!」」」
敵の一団の中に偉そうなおっさんがいたけど、気にせず【バレット】と【ショット】を撃ち込む。首から上を残さなくていいのは楽だね。サーシャさんの知り合いだったみたいだけど、ここにいる時点で敵なんだから容赦はしない。事前にサーシャさんにもここで出会った相手は問答無用で撃つと伝えているしね。敵地でのんびりおしゃべりする気はない。他にもサーシャさんの知り合いがいるかもしれないけど、これはサーシャさんも了承済み。遠慮はしないよ。
「なっ!?貴様っ、よくもドルネロ様を!」
「――っ、『使徒』!?」
『【バレット】』
「甘いっ!その程度で『【土槍】』――しまっ『【バレット】』」
さっきので死ななかったやつがいたと思ったら『
『ここも塞ぎますね。警戒お願いします』
「え、えぇ……」
『【地雷】【土壁】……終わりました。あとは中に残った連中を始末して、保護した人たちを逃がすだけですね』
「このあたりにはもう誰もいないわ。中央の部屋に集まって――待って!かなり強い魔力を持った人が現れたわ」
『……現れた?』
「さっきまではいなかったはずよ、どうして!?」
『……【転移】でしょうね。このタイミングで魔力の隠蔽をやめる意味はないですし』
「……となるとたぶん魔法陣ね。床から強い魔力を感じるわ」
『急ぎましょう。再使用されると面倒です』
「行くの!?」
『できれば消しときたいんで。無理なら逃げますけど』
一か所に集まるってことは指揮を執ってる奴がいるんだろうな。そして、サーシャさんが【魔眼】で視た大物っぽいやつ。枢機卿クラスだとかなりキツいと思うけど、とりあえず一当てして勝てそうなら倒しておきたい。出し惜しみはなしだな。それで死んだら意味がないし。
「……ねぇ。ここで退くという選択肢は?」
『……ないですが、なぜ?』
「あの部屋にいるのは教会の中でもかなりの実力者よ。それに準備万端で待ち構えてる。捕ま――」
『なるほど。たしかに相手が待ち構えてるところへ正面からノコノコ行く必要はないですね』
「えぇ、だから――」
『先に減らしときましょう』
「えっ?」
うん、普通に正面突破する気満々だった。頭に血が上っていたのかもしれない。無理はしないがモットーなのにな。危ない危ない。せっかく長距離から攻撃できる手段があるんだ。だったらやることは一つだよなぁ?
『【キャノン】』
ってことで、中央の部屋にまっすぐ続く通路の端に立ち、床から大砲を三門生やす。これも初披露の魔法だな。まぁ、【バレット】のでかいやつを大砲から発射するだけ。発射時に内部で爆発を起こして加速させるから速度と威力は【バレット】の比じゃないけどね。その分精度が少し落ちるのがネックかな。
設置が済めばあとは発動句を告げるだけ。あ、発動句ってのは待機状態の【バレット】を発射するときに言ってるやつね。
方向良し。角度もたぶん良し。ってことでやりますか。
『【ファイヤー】!』
「キャッ」
「「「うわああぁぁぁ!!??」」」
「な、なにが!?」
『【ファイヤー】!』
「「「ぎゃああああぁぁぁぁぁ……!!!!」」」
発動句を告げると轟音とともに一射目が放たれる。扉は一発で吹き飛び、部屋の中から悲鳴が聞こえる。扉を開けたら襲い掛かろうとしてたやつらだね。残念でした。扉が吹き飛んだのを確認して、二射目と三射目も発射する。四射目以降にはおまけもつけてあげよう。
『ちょちょっと弄って、と……。【ファイヤー】!』
「「「ぐあああぁぁぁ……!!??」」」
弾頭に爆発魔法を仕込んで着弾と同時に爆発するようにする。これで被害の出る範囲が増えるはずだ。爆発のたびに歪む【キャノン】を修復しながらどんどん撃ち込む。勝てばよかろうなのだ。
『こんなもんかな?』
とりあえず数十発撃ち込んでみた。最初は悲鳴がしてたけど今は砲撃と爆発の音がするだけ。これで終わってると楽なんだけどね。
『中はどうですか?』
「……重傷一人と軽傷一人。軽傷の方はさっき現れた方ね。あ、魔法陣も効果を失ってるみたい」
うへぇ、二人も生き残りがいるのか。しかも一人は軽傷。やっぱ大物がいたんだな。まぁ、【キャノン】は直撃すると強いけど、あのサイズに仕込める爆発の威力は大したことないからな。こればっかり仕方ない。それに魔法陣を潰せたから援軍や逃走を心配する必要がなくなったのは助かる。
【バレット】の乱射で牽制しながら【魔力探査】の範囲に奴らが入るまで近寄ってみる。
「重傷だった方は斃れたわ。あとは一人ね」
『おっ、入った。……氷の壁か?だいぶ硬そうだな』
「どうするの?」
『……そうですね。この距離の【バレット】じゃ意味がなさそうなので、とりあえず近づいてみます。新手が来ないか警戒しててください』
「えぇ、わかったわ」
この距離の【バレット】は氷の壁に防がれているみたいだから近づいて撃ってみるかな。それでダメなら殴ってみよう。サーシャさんを警戒役に残して一気に距離を詰める。
「貴様か!好き勝『【バレット】』――なっ、話のと『【バレット】』――えぇい、はな『【バレット】』――き、貴様ぁ……!」
『うーん、もうちょいで抜けそうなんだけどな』
「ふんっ、なかなかや『どーん!』――なっ!?」
『おっ、殴ればいけるじゃん』
「き、貴様ぁ、この私を誰だ――」
『知るか。死ね』
至近距離から【バレット】を連射したけど撃ち抜けないから、メイスでぶん殴ってみたらあっさり砕けた。これでもアルト君相手にメイスでの戦いも練習してたから多少は上達してるんだ。まぁ、【身体強化】ガン積みでゴリ押ししてるだけだけどさ。
それにしてもこいつ、口調からして偉いやつなんだろうけど声に聞き覚えはないな。ってことは原作開始前に死んだか失脚したんだろうな。つまりちょっと強いだけのモブだ。どこぞの『剣聖』と似たような枠だな。
「わ、私はミル『【バレット】』――チィッ、【氷壁】【氷そ『はいどーん!』――くっ!?なぜ魔ほ【バレット】――むぅっ!」
『うーん。攻めきれないなぁ……』
角度を変えながら【バレット】を撃ってみたけど、氷の壁を作るスピードが速くて本体までなかなか攻撃が届かない。けどまぁ、これくらいの強さなら何とかなりそうだな。
「ふんっ、今の私でも貴様【バレット】――えぇい、無駄だと【バレット】――鬱陶しいっ!」
『バレット』
「フンッ、馬鹿のひとつ――なっ!?ぐぅっ!?……ひ、卑怯な」
「バレット」と唱えながら床から【土槍】を生やす。ギリギリで気付いて避けようとするけど、足元の地面を操作して法衣の裾を捕まえてやる。さっきのやつには避けられたからね。俺だって学習するんだ。直後、土の槍が左の脇腹を深々と突き刺した。悪いね。騎士道精神なんて持ち合わせてないのよ。ってことでグッバイ。
「や、やめ――」
『【バレット】』
『サーシャさん、こっち終わりました』
「新手はまだ来てないみたいよ。壁の向こうはだいぶ慌ただしくなってるけど」
『そうですか。じゃあ近くの部屋を漁ってさっさと逃げましょう』
「えぇ、そうね。……え?こ、この紋章ってホレムズ枢機卿の!?こんな大物まで関わっていたなんて……」
『この規模の施設ですから王家ぐるみ、教会ぐるみなんじゃないですか?』
「そんな……」
それにしてもこいつ枢機卿だったのか。まぁ、魔力は凄かったもんな。その割にはそんなに強くなかったのが不思議だ。なんか魔法の発動がぎこちなかったし、魔力の感じと実際に戦った印象が違い過ぎる。最悪逃げることも考えてたんだけどな。まぁ、勝てたからいいんだけどさ。
『まぁ今はいっか。まだまだやることあるしな』
証拠の確保、捕まってた人の脱出、証拠のばら撒き、ここの破壊。……あぁ、辺境伯の書簡も届けなきゃ。うーん、忙しい。
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