第八話 【魔眼】

ハーテリア王家クソ王家ミルティア教クソ邪教も滅びればいいのに』


 俺は一人、【魔装】全開でハーテリオン目指して街道を爆走していた。途中にあった関所らしきところもノンストップで。柵とかが壊れてたような気がするけど知らん。今はそれどころじゃないんだ。




 襲撃から一夜明けた昨日の朝、捕らえた『ミルティアの使徒邪教の尖兵』を辺境伯たちが取り調べ拷問していろいろと吐かせたらしい。よっぽどエグい取り調べ拷問をしたのか単に口が軽かったのか知らないけど、いろいろと自白してゲロってくれたわけだ。「神を裏切ることは〜」とか言って自害したりするかと思ったんだけどな。信仰心の薄いタイプなんだろう。ありがたいことだ。

 まぁ、『ミルティアの使徒邪教の犬』は教会が裏で動くときの実働部隊だから、重視されるのは信仰心じゃなくて強さみたいだからな。中には狂信者みたいなのもいるけど、殺しが好きだからっていう理由で加わっている者も少なくないらしい。こいつもその一人なんだろうな。


 で、こいつから得られた情報としてはミルティアとズブズブな貴族の名前とかハーテリア内にいる他の『ミルティアの使徒カルトの犬』のこととか王家との関係とか他にもいろいろ。

 まぁ、俺的にはその辺は割とどうでもいいんだけど、一つ見過ごせない情報があった。辺境伯を討ち取ったら生き残った家族は王都の地下にある実験施設に運ぶ予定だったってところ。それを聞いて「あれっ?」と思った。そして原作を必死で思い返してやっと繋がった。なぜ今の今まで気づかなかったのか。


「まさかリエラ嬢ってあの子か……?」


 原作戦乱編でハーテリア王都まで侵攻した主人公たち反攻軍は、地下にある実験施設を探して走り回る。そのときに出会うのが実験施設から逃げてきたボロボロの少女だった。反攻軍の侵攻により王都中が混乱する中で、見張りの隙をついて脱出した彼女は主人公たちに地下への入口を教えて息絶える。

 その少女こそがおそらくリエラ嬢。なんとなく面影がある。原作ではボロボロだったし、時系列的にはこれから六、七年後で容姿も変わってるし、ってのは言い訳だな。


 原作アルト君が親の仇のはずのガルガインに従っていた理由もこれで分かった。おそらくリエラ嬢を人質に取られてたんだろうな。だから最期まであいつの駒として戦い続けた。

 状況から考えて原作アルト君が改造されたのも王都の地下だろう。そう、マイン君が改造されたのと同じ場所。となると、もうこれぶっ壊すしかないのでは?正直クッソめんどくさいし、俺がやる必要ある?と思わなくもないんだけどさ。

 でもムカつくんだ。原作がどうとかそういうのは置いといて、とにかくムカつく。辺境伯一家もフェンフィール氏も俺とマイン君の中ではもう身内判定なわけ。その人たちをあんな目に合わせようとしたんだ。お前ら覚悟できてんだろうな?



 ってことで、辺境伯に別行動のお許しを貰って王都を目指してひた走ってるわけだ。フェンフィール氏はついてこようとしてたけど丁重にお断りした。ちょちょっと潜入して爆破するだけだしね。どさくさ紛れに原作の敵キャラを二、三人殺れたらなーとは思うけど、無理はしない。殺れたら殺る。

 それに辺境伯は予定通り王都に向かうらしいから、フェンフィール氏には残党や別動隊に備えてもらいたい。


 そうそう、出掛けに辺境伯から辺境伯の父親前辺境伯宛の書簡と名誉騎士の証なるものを預かった。この証は辺境伯家の紋章入りのもので、貴族と同等の身分を辺境伯が保証することを示すものらしい。これがあれば貴族用の門を利用できたり、王都の貴族街や辺境伯の屋敷にも出入りできるんだって。あと衛兵とかに見せるとある程度融通をきかせてくれるんだとか。

 ……関所を突破したのは融通の範囲に入りますかね?




「入口どこだっけ。スラムにあったのは確かなんだけど」


 はい、迷子です。王都ハーテリオンの城壁の外にあるスラムに到着したまでは良かったんだけど地下への入口が分からない。スラムと王城、神殿から地下通路で繋がってるのは間違いないけど原作のマップなんて覚えてないしな。だからガチ勢を転生させろとあれほど。


「やっぱ記憶頼りじゃ無理か。【土中探査】」


 通常の【魔力探査】はに自分の魔力を広げる。だから地下までは届かないし、他の人の【魔力探査】と反応しあうから隠密行動や奇襲には不向きなんだよな。ガルガインたちも襲撃の時は使ってなかったし。ってことで作ったのが【土中探査】。地中に魔力を浸透させて地下の様子を探ったり、地面にかかる重さから周囲の人や魔物の位置や数を把握できる。壁の修復の時にやる方法を応用して作った。飛んでる相手には効果がないけど、相手の【魔力探査】には引っかからないし、『賢者』相手にも使えるのは大きい。……あの人浮いたりしてないよね?


「とりあえずこの辺から順に――」

「あら坊や、こんなところに一人でいたら危ないわよ?」

「坊や……」


 声をかけてきたのは綺麗なシスターさん。二十代後半かな?この人も魔力が多いな。『ミルティアの使徒カルトシンパ』と似たような意匠がついた修道服を着てるから、ミルティア教の関係者だろうな。

 てか坊やって。ああ、たしかにちっさいさ。ずっと栄養不良だったからな。だけどこれでも伸びたんだ。これからも伸びるんだ。


「どうしたの?迷ったの?」

「……一応、成人してるんですが」

「……ホントに?」


 ねぇ、なんで信じてくれないの?いや、迷ってたのは事実だけどさ。マジであの侯爵家許さんからな。いつか訓練場ボッコボコのガッチガチにしてやる。覚えとけよ。


「ごめんなさい!」

「……いえ」

「それでどうしてこんなところにいるの?」

「……友達が行方不明になって」

「行方不明……」

「……何か知りませんか?」

「それを知ってどうするの?」

「潰します。すぐに」

「……ちょっとこっち来て」


 うーん、持っててよかったギルド証。一発で信じてくれた。

 で、適当にうろついてた理由をでっちあげたんだけど、このシスターさん、なんか心当たりがあるらしい。ここでは話せないような話みたいなので大人しくついていく。

 この人が敵か味方か分かんないけど、とりあえず情報が欲しいしな。【土中探査】があるとはいえ、この広いスラムを片っ端から探すの面倒だし。騙されて地下に連れてかれるならそれはそれで都合がいい。潜入する手間が省けるからな。




「――というわけなの」

「……なるほど」

「というわけで手を貸してくれるかしら?」

「……ん?」

「なぁに?」


 サーシャと名乗ったシスターさんはスラムで孤児院を運営していた。長い間、このスラムにいる彼女はこの件について思った以上に詳しかった。行方不明者自体はスラムを中心に数年前から徐々に増えていたらしい。それがこの一年ほどで急増しているんだって。でも衛兵も教会も全く取り合ってくれないんだとか。まぁ、そいつらのトップが黒幕だしね。

 さらにサーシャさんによると『闇夜の翼』とかいう組織がどこかに連れ去っているという噂もあるらしい。もともと弱小だったその組織は行方不明者が出始めたのと前後して急速に勢力を伸ばしているんだとか。……うん、なんか原作でそんなダサい名前の連中がいたわ。ボスや幹部は雑魚だったけど腕利きの用心棒が何人かいた気がする。

 で、サーシャさんはそいつらが怪しいと睨んで、ひそかに仲間を募っているんだとか。


「……なんで俺に?」

「だってあなた強いでしょ?」

「……どうしてそう思うんですか?」

「私、魔力が見えるの。あ、これ内緒ね?」

「うわぁ……、そうきたかー」


 本来は見ることができない魔力を視ることができる能力がある。それが【魔眼】。俺が習得している【魔力探査】や【魔力感知】の上位スキルだ。その二つとの違いは神が先天的に与えたと言われる【神眼】のひとつであること。スキルとしては最上位にあたる。俺は『賢者』もこれを持ってるんじゃないかと勝手に思ってる。俺も欲しい。


「……最初に言ってくれれば」

「普段はないのよ。だって疲れるんだもの。それにあなたが信用できる人かも分からなかったしね」


 ここまで俺が信用できる要素あったか?と思ったけど、話してるときの魔力の動きで嘘をついたら分かるらしい。魔力がピクッてするんだって。ははーん、この人感覚派だな。

 そういうわけで友達が行方不明って話が嘘なのはバレてた。けど、本気で潰す気なのは分かったから協力できると判断したんだとか。


 ちなみにそんな便利な魔眼だけど、属性ごとに魔力の色が違うせいで【魔眼】発動中は世界がとんでもなくカラフルに見えるんだとか。なので普段はようにしているらしい。たしかにいくら便利でもそれはちょっとキツイな。

 そういえば同じ【魔眼】持ちの司教もそんなこと言ってた気……がする……んだけど……。今めちゃくちゃ嫌な想像が頭をよぎったんだが?だって【魔眼】持ちがそうゴロゴロいるか?いないよ。いてたまるか。


「うわぁ、ないわー。マジでないわー」


 やっぱミルティア教カルトってクソだわ。

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