第七話 グッバイガルガイン

「放てっ!!!」


 合図の声とともに、数十名の魔法使いによる攻撃が石のバリケードとその奥にある石の家、そして見張りの兵たちを襲う。魔法はバリケードと家を砕き、その背後の山肌までも抉り取る。さらに魔法同士が干渉しあったのか大きなが起こった。


「まだだっ!魔力が尽きるまで撃ち続けろ!」


 土煙が舞う中でなおも続く攻撃は闇夜を明るく照らす。その光景をある者は緊張したような表情で、ある者は無表情で、ある者は口の端をつり上げて眺める。


「フハハハハッ!!これだけの魔法を食らえばいかに『オルティアの守護者』といえど、ただでは済むまい。この機――」

『見つけたあああぁぁぁっ!』

「――なっ!?」

『死ねええぇぇ!!』

「ギャアッ!」

『はー、やーっと殺せたわ。グッバイガルガイン』


 指揮を執っていたガルガイン、いやレムニス子爵の胸を【バレット】で撃ち抜くと上半身が爆散した。……うん、首から上は残ってるからセーフ。

 辺境伯から顔の特徴を聞いてすぐに分かった。こいつがガルガインだって。さっきなんてゲームの時とまったく同じ笑い方してて吹き出しそうになったわ。あの声優さん、クセが強すぎるんよ。

 それにしてもあっさり過ぎて拍子抜けだわ。だいたい、いくらがいるからって戦いの最中に高笑いしてちゃダメでしょ。まぁ、原作でもいろんな工作を仕掛けてきてさんざん苦労させられた割に、直接対決ではあっさり倒せたしな。実戦経験が乏しいんだろうな。

 死んだやつの話さておき、辺境伯の二つ名『オルティアの守護者』だって。国境を守ってるからなんだろうけどそのまんま過ぎない?辺境伯らしい二つ名だなとは思うけどさ。ちなみに辺境伯の得物は大刀っていうの?関羽が持ってるようなやつ。あれのでかいのをぶん回すからめちゃくちゃ迫力があるんだ。さぁ、そんな辺境伯がやってくるよ。


「し、子爵様っ!?」

「な、なにがっ……!?」

「今だ!賊を討ち取れ!!」

「「「うおおおおぉぉぉぉ!!!」」」

「しゅ、『守護者』!?」

「な、なんで後ろに!?」

「「「うわあああぁぁぁ!!!」」」


 指揮官が死んだことで動揺した子爵一党の、辺境伯率いるオブレインの兵たちが襲い掛かる。途端に子爵軍はパニック状態に陥った。まぁ、三百を超える兵と冒険者で完全に包囲してさんざんに魔法を撃ち込んだはずの辺境伯たちが無傷で背後に現れて襲ってきたんだ。訳が分からないだろう。中には必死に立て直そうとしてるやつもいるけど、ほとんどは逃げ惑うばかりで次々にオブレインの兵に討ち取られていく。




「まず崖を背後にして野営するフリをします。地下にトンネルをつくるので、そこに奥方様と若様たちを隠して、それ以外のメンバーで襲撃者を背後から襲いましょう。あ、鎧を着せた土人形を使ってちゃんと人がいる感じを出しときますね」


 辺境伯たちにした提案はこんな感じのものだった。いろいろと事情を説明するのは大変だったけど最終的には提案に乗ってくれた。そして、案の定のこのこやってきた子爵とその一党間抜けどもは無人の野営地に向かって、必死に魔法を撃ち込んでいたってわけ。

 ちなみに馬と馬車は全体をガッチガチに固めた馬小屋みたいなのを造って、そこに入れてある。できれば馬も地下に入れてあげたかったけど、野営地に何の気配もなかったら隠れたのがバレそうだったから仕方なく。見たところ壁は表面しか壊れてないから攻撃による被害はなさそうだ。この馬小屋が見えちゃうとマズいから目くらましも兼ねて爆発魔法を使って派手な爆発を演出しておいた。何気に初の実戦投入だけど、子爵様には高笑いするほど気に入ってもらえたようで何よりだ。


 あとは敵の指揮官を討ち取って相手が浮足立ったタイミングでトンネルから出た辺境伯たちが残党を始末すればおしまい。そんな策がうまくはまり、辺境伯とフェンフィール氏が腕の立つ者から排除していった結果、敵は潰走状態だった。

 ――ある一団を除いて。


の部隊か」

「しかも『ミルティアの使徒』が三人もいますよ。閣下は教皇様にも嫌われてるようで」


 その一団を率いていたのは『ミルティアの使徒』と呼ばれる三人の男。こいつらが教国が送り込んできた助っ人たちだね。


「……レムニスの野郎しくじりやがって。使えねぇヤツだ」

「だから言ったじゃろ。ワシらがやった方が早いとな」

「仕方ないですよー。ボクらはがしくじ――」

『はいどーん!』

「ぐぁ!?」

「――なっ!?」

「ブレア!?」


 一番バカそうな『ミルティアの使徒教国の犬』がなんか喋ってたので背後からメイスを薙いで撃破。ちゃんと首から上は残しとかないとね。俺は学習できるんだ。それにこういう手合いは話が長いし、話をしたところで分かり合えるはずもないからサクッと殺るに限る。無駄話してて逃げられました、なんて御免だからね。話を聞くだけ拷問するならひとり生かしとけばいいし。俺、お前らミルティア教国宗教狂いも嫌いなんだ。ガルガインと同じくらい。

 てかこっち見てていいの?死ぬよ?


「――よそ見とはずいぶん余裕じゃないか」

「ぬぅっ――しまっ」

「じゃあな、爺さん」


 おー、さすがフェンフィール氏。初撃は弾かれたけど、それで爺さんの体勢崩して首刎ねちゃった。この爺さんの声には聞き覚えがあるな。たしか原作でもそこそこの強キャラだったと思う。まぁ、今日の作戦に投入されるくらいだしな。不意打ちの初撃もギリギリとはいえ弾いてるし。不意を突かなかったら苦労したんじゃなかろうか。

 ……あれ?辺境伯、何か言いたげですね?


「……お前たち、一人は残すんじゃなかったのか?」

「ん?そいつが残ってるじゃありませんか。なぁ、マイン」

『はい、残してます』

「……私が手加減が苦手なのを知ってるだろう?」

「早い者勝ちですよ」

『頑張ってください』

「やれやれ。……そういうわけで『使徒』君、大人しく投降してくれると嬉しいんだが?」

「ハッ、するわけ――」

「じゃあいいよ」

「ぎゃあああぁぁぁ!!」


 投降を拒否した瞬間、大男の両腕が宙を舞った。手加減が苦手とは何だったのか。この人もヤバいなぁ。とはいえ、この大男もさっきの爺さんも普通に戦えば相当強いし、兵士や冒険者にも手練れがいたから受けに回ってたらマズかったと思う。実際、原作の世界線では家族を庇いながら……って感じだったんだろうし。


 とりあえず辺境伯殺害を阻止して、れ、れに、れり?……ガルガインも殺ったから、だいぶ原作から離れられたんじゃなかろうか。主戦派の重鎮で穏健派追い落としを進めたやつが消えたわけだから、あの国王バカも迂闊には開戦しようとはしないはず。……しないよな?なんかあいつなら教国と結託してやりそうな気もするんだが?

 とはいえ、ここで国王を消しに行く気はない。王都には近衛とか貴族の私兵とかがたくさんいるしな。そんなん相手にしてられるか。原作関係なく死ぬわ。俺もマイン君も普通に暮らしたいだけ。アホな王様は辺境伯とか穏健派のお貴族様たちで何とかしてくれ。役目でしょ?


 ってことで、【魔装】解除して寝よ。さすがに疲れたわ。


「――っ!?ぅおえええええぇぇぇぇ……」


 視界のあちこちに死体が転がってた。この後めちゃくちゃ吐いた。

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