第六話 王都ハーテリオンへ
「若様、良い感じですよ。ここからゆっくり魔力を変換していきましょう」
「……はい!」
「お嬢様は魔力が乱れてます。集中を切らさないように」
「はいっ、にーさま!」
「ぐぬぬ」
アルト君たちの指導役を引き受けてからおよそ一年。あれから週に二、三度のペースでアルト君とリエラ嬢に魔法の指導をしている。そしてなぜかリエラ嬢に“にーさま”呼びされてる。指導の合間に魔法で人形や小物を作ってたら懐かれた。アルト君的にはあまり面白くないようだけどね。シスコンぽいからなぁ。
そんな二人だが、どちらも素直なうえにめちゃくちゃセンスが良くてどんどん実力を伸ばしている。
まず、アルト君。彼は聞いていた通り魔法が苦手だったけど、魔法の基礎鍛錬を積んだことで魔力をスムーズに身体や剣に流せるようになった。今ではあの時の【土壁】をスパスパ斬ってる。今は剣に流した魔力を属性に変換する【属性付与】を練習中。アルト君の魔法適性は風だから切れ味を増したり、斬撃を飛ばせるようになりたいらしい。兵士とも互角に戦えているし、さすが原作のボス枠って感じの伸び方だな。
そんなアルト君とは別のベクトルで凄いのがリエラ嬢。まず第一にマイン君並みに魔法のセンスがある。教えれば教えただけ上達するのよ。
そして、それ以上にヤバいのが彼女の魔法適性。マイン君の二属性というのも相当レアなのに、この子は水氷光の三つ。三属性持ちなんて原作でも二人しかいなかったのに。容姿も含めて、この子絶対ヒロイン枠だろってくらい属性マシマシなんですが?今は基礎鍛錬をしている段階だけどこのまま順調に育ったら
そんな二人に今日の指導を終えていつものように夕食をいただいた後で、辺境伯から話があると応接室に招かれた。
「――王都ですか?」
「あぁ、アルトの王立学園の入学試験が二か月先に迫っていてね。せっかくだから家族みんなでハーテリオンに行こうと思うんだ。王都にいる私やアイナの両親にもトールの顔を見せたいしね」
「なるほど」
「そこでマインにも同行してもらいたいんだ。うちの子たちはみんな君に懐いているからね」
「恐れ入ります」
ハーテリアにも王立学園があるらしい。まぁ、そりゃそうだよな。優秀な人材の発掘と育成はどの国もやってることだし。こっちの学園は平民は入学できないようだけどね。
それにしてもアルテリア王国とハーテリア王国、王都アルテリオンと王都ハーテリオン。原作でハーテリアが主張してたようにもともと一つの国だったのか、どっちかが寄せただけなのか知らないけどややこしいな。
ちなみにアイナさんというのは辺境伯の奥さんのことで、トール君というのは半年ほど前に産まれたアルト君たちの弟。今回は彼を祖父母にお披露目するのも王都行きの目的の一つらしい。
「出立は一週間後。マインが受けてくれるなら、ギルドに指名依頼を出しておくがどうかな?」
「お受けします。よろしくお願いします」
「ありがとう。助かるよ」
アルト君とリエラ嬢への指導もギルドを通しての指名依頼だから、この辺はいつも通りの流れ。ちなみに半年ほど前に辺境伯からの護衛依頼を受けてCランクに昇格している。護衛と言ってもほとんど馬車の中でアルト君とおしゃべりしてただけなんだけどね。いや、アルト君がリエラ嬢について熱く語っていた、というのが正しいか。立派なシスコンだね。
それはさておき、俺としては今回の王都行きがターニングポイントじゃないかなと思ってる。というのも俺が辺境伯家に出入りするようになってから、辺境伯家の人たちが一家揃って遠出するのって今回が初めてなのよ。奥方様が妊娠中だったこともあって、これまでは誰かしら留守番してたから。
辺境伯を狙う誰かさんにとって今度の王都行きはまたとないチャンスだろう。できればちょっかいを出してくる前になんとかしたかったんだけどなぁ。
でも、ここで辺境伯一家を守り切れれば原作への流れを大きく変えることができる。何よりこの家の人たちにはお世話になってるからね。ここで見捨てるのは俺にもマイン君にもできない。まぁ、そのための準備はしてきたつもりだしな。いつかのように舐めてかかったりはしない。
……これで来なかったらめちゃくちゃ恥ずかしいな。いや、何もないに越したことはないけどさ。
「あいつらまた代官の屋敷か。やっぱここの領主はクロだな」
オルティアを出発してから十日が経った。五台の馬車と三十四人の護衛とともにここまでいくつかの貴族の領地を通り、今はレムニス子爵領の最南の街ラムナンにいる。この街を出れば王家の直轄領が目と鼻の先だ。
旅自体は順調だけどオルティアからずっとついてきてるやつらがいる。なりは冒険者で人数は三パーティー十四人。二か月ほど前に前後してオルティアに来たやつらだな。俺も何度か話し掛けられたから記憶に残ってる。たぶん辺境伯家のことを探りに来たんだろう。コミュ障にその手の探りは悪手だぞ。見ず知らずの人間には警戒心と嫌悪感しかないからな。しかもあいつらしつこかったから、初対面の時点で敵認定は完了している。
まぁそれはさておき、やつらはこの領に入ってからは貴族用の門を使って街に出入りして、領主や代官の屋敷にも行ってる。飼い主さまに報告に走ってるんだろうね。
ということで、近いうちに仕掛けてくるんじゃないかな。この領にいるうちに来るのか王家の直轄領に入ってからなのかは分かんないけど。ぶっちゃけ王家もグルだろうしな。やっぱこの国いっぺん滅びたほうがいいんじゃねーの?どうせアルテリアに負けるんだしさ。
「……通行止め?」
「えぇ、この先で土砂崩れが発生しているそうです」
「つけてきている連中といい、ここで仕掛けてくるな」
「でしょうね。閣下はよほど陛下に嫌われておられるようで」
「まさかここまで直接的な手段で来るとは思わなかったがな。やれるか?」
「レムニスと冒険者だけならなんとかなるでしょうけど、向こうは入念に準備してるでしょうからね」
「隠し玉がある、か?」
「おそらく」
「子どもたちやマインは逃がしてやりたいが……」
「難しいでしょうね。むしろ一緒にいた方が生き残る可能性は高いかと。若様もだいぶ腕を上げましたし、マインもそう簡単にはやられないでしょう」
やっぱ辺境伯もフェンフィール氏も気付いてたか。というかやっぱ国王の差し金かよ。あいつを消すのが一番手っ取り早い気がしてきたな。まぁ、その前に消しとく奴がいるけど。
連中もいろいろ準備してたんだろうけど、それはこっちもだからな。
「――ってことで、提案があるんですが?」
「「――ッ!?」」
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