第五話 魔法のお披露目
「【土壁】」
「え?」
「「……ほう」」
「わぁ……!すごいすごい!」
まず最初に披露したのは【土壁】。基礎中の基礎だからね。強度はそこそこにしてあるけど、発動が思ったよりも速かったようで男性陣が驚いてる。もうちょっと遅くした方が良かったかな?前に見た領兵の魔法使いの人と同じくらいにしたつもりなんだけどな。「年の割にやるなぁ……」くらいの評価に落ち着いてくれるといいんだけど。
そんなことを思いつつ男性陣の横ではしゃぐ幼女を見てほっこりする。天使かな?
「マイン、これ斬ってみてもいいかい?」
「……どうぞ」
座ってろ、フェンフィール氏。まぁ、一介の冒険者がお貴族様の要望を断れるわけがないんだが。
「それじゃ若様、やってみて」
「は、はい!」
「おにーさま、がんばって!」
お前がやるんじゃないんかい。いいけどさ。俺もどうなるかちょっと気になるし。いい線行くんじゃないかな。
「スゥ……」
【土壁】の前に立って集中するアルト君が少しずつ魔力を全身に漲らせていく。魔力のコントロールはまだまだ粗さがあるけど、年齢を考えるとなかなかのものだと思う。少なくともそこらの冒険者よりもよほどいい。剣に魔力を纏わせるのは要鍛錬ってところだけどね。
「――ハァッ!!」
アルト君が振り下ろした刃は【土壁】を半分ほどまで切り裂いて止まった。力んだせいか振り下ろす途中で魔力がだいぶ逃げていってた。あれがなければ全部斬れてたと思う。惜しい。けど、かなり将来有望なんじゃなかろうか。
「ぐっ…… 硬い」
「おにーさま、おしい!」
「「……」」
はしゃぐ幼女と黙り込むイケオジ二人。……俺?はしゃぐ幼女を見てほっこりしてる。
「若様、どうでした?」
「予想よりずっと硬かったです」
「力んだせいで切っ先がブレてましたね。そのせいで魔力が逃げたんでしょう。鍛錬を続ければいずれ斬れるようになりますよ」
「なるほど。フェンフィールさん、ありがとうございます!」
「いえいえ。ところでマイン、僕も試していいかな?」
「……どうぞ」
だから断れるわけないんだって。それにしても意外と、と言っては失礼だけどアドバイスがちゃんとしてるな。普段から指導してるんだろうね。
「――ふっ!」
「……お見事」
「凄い!」
「すごーい!」
フェンフィール氏はあっさり【土壁】を真っ二つにする。【身体強化】がめちゃくちゃスムーズだった。剣にもしっかり魔力を纏わせていたし、やっぱこの人も強いなぁ。
「ウェイン、どうだ?」
「あの発動速度であの硬さ、うちの魔法使いたちと同じような力量と見ました」
「同感だ。年齢を考えると末恐ろしいな。ディルが欲しがるぞ」
「そうですね」
苦笑いする二人。ディルって誰よ?
「マイン、他の魔法も見せてくれるかい?」
「はい、【整地】、【ハウス】」
「「おぉ……!」」
「……家?」
「わー、おうちだ!」
【整地】と【ハウス】。どちらもこっちに来て作った魔法。地面を平らにする【整地】と家を建てる【ハウス】。広さはワンルーム分で中にはベッドしかない。野営用に作った魔法だな。広さと形状は固定で強度は込める魔力の量次第。今回は五分ほどかけて完成させ、強度もさっきの【土壁】と同じくらいにしてある。
ちなみに魔法名が日本語と英語なのは整地を表す英単語が分からなかったから。俺の英語力なんてそんなもんだ。だったらハウスも家にしろよと言われそうだけど、語感がしっくりこなかった。
「このおうち、はいれる?」
「……どうぞ」
「わー、ありがとう!」
「あ、リエラ待って」
ご要望にお応えして玄関部分を開くとアルト君とリエラ嬢は一緒に中の見学に行った。さすがに蝶番までは再現してないから、出入りのたびに魔法を使わなきゃいけないのがちょっと面倒。
「これは野営にもってこいだな」
「【建築魔法】は兵士向けに使う分にはいいですけど、貴族が使うものとしては見栄えが悪いですからね」
【建築魔法】ってのは
じゃあ【建築魔法】を改造すればいいじゃんと思ったけど、大きくて複雑なものを建てるとなると相応の魔力と時間がかかるってことで断念したらしい。まぁ、そこに労力使うくらいなら強い魔法の研究するわな。そういうわけで貴族の行軍中はベッドが付いた大型の馬車が使われるらしい。キャンピングカーみたいな感じかな?とはいえ、馬車の数も増えるし馬もそれだけ必要になるからコスパが悪いんだってさ。
「攻撃魔法も頼めるかな?」
「……はい、【バレット】」
「わぁ……!」
「凄い……!」
「ほう、この距離で当てるのか。なかなかの精度だな」
「威力も悪くないですね」
攻撃魔法もご所望なので、五十メートルほど離れたところから、さっきの【土壁】の残骸に向かって手加減した【バレット】を撃ち込む。貫通はしていないけど【土壁】に埋まる程度の威力はあったようだ。久しぶりに手加減具合がちょうどよかった気がする。入学試験以来かな?
「やはり魔法の腕はなかなかのものですね。やはり彼が適任では?」
「うむ、そうだな」
「……?」
「マイン、これから息子たちに魔法の指導をしてやってほしいんだ。もちろん、強制するつもりはないし、断ったとしても君に不利益がないことは約束しよう」
「……指導、ですか?」
「あぁ、アルトは剣の才はあるが魔法が伸び悩んでいてね。まぁ、私も魔法は不得手だから気にする必要はないと言っているんだけど、本人がどうしても魔法も使えるようになりたいと言ってね。君なら歳も近いから適任だと思ったわけさ。リエラも魔法に興味があるようだし、頼めないかな?」
「……あー、即答はできかねます」
「ふむ…… それもそうだな。すまないね、気が急いてしまって。返答はいつでもいいから考えてくれるかな?」
「はい」
そのあとはいくつか魔法を披露したり、冒険者の話をアルト君とリエラ嬢にした後で夕飯をご馳走になった。食事もおいしかったけど、奥方様がめちゃくちゃ美人でビビった。薄茶色の髪でスタイルも抜群。ぶっちゃけ容姿だけなら今まで出会った女性の中で一番好みかもしれない。ちなみに現在妊娠中だそうだ。爆発しろ。
ちなみに辺境伯の奥さんは一人だけらしい。どこぞの色ボケ侯爵とは大違いですわ。
「魔法の指導かぁ……」
家に帰って一息つきながら辺境伯からの依頼について考える。多分、指導云々はついでで俺をアルト君とリエラ嬢のそばに置いときたいんだろうな。護衛兼相談役みたいな感じで。辺境伯にとってのフェンフィール氏的な立ち位置。まぁ、そこがネックなんだけどね。貴族に仕えるとなると面倒も多そうだし。
まぁ、将来的に仕えるかどうかはさておき、指導の体で辺境伯一家の近くにいられるのは俺にとっても悪い話じゃない。いずれガルガインやその仲間がちょっかい出してくるのは分かってるんだから。連中の企みを潰すことができればあとはどうとでもなるしな。辺境伯に仕えるも良し、冒険者を続けるも良し、アルミラに行くも良し。
「それに辺境伯家の人たち、みんないい人だったしな」
冒険者の俺に対しても高圧的な態度をとることは一切なかったし、むしろかなり気を遣ってくれていたように思う。アルト君もリエラ嬢も素直ないい子たちみたいだしな。チョロいかな?とも思うけど、この辺はマイン君も同意見。
「となると断る理由はないな」
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