第三話 ランクアップ
「――ってことだ。行ってくれるな?」
「……嫌です」
「なんでだよ!?行けよ!」
「ずぇっっったいに嫌です!」
防壁の依頼を無事に終えてしばらく経ったこの日、久々にギルドにやってきた。そして来たことを猛烈に後悔していた。
ギルドの受付主任とかいうおっさんに討伐依頼の受注を強制されているのである。事の発端はフェンフィール氏からギルド宛ての書簡。
曰く、「あの歳であれだけ魔法を使いこなせるものはそうそういない。くれ」
曰く、「彼は間違いなく伸びる。うちで囲い込みたい。くれ」
うん、気持ちは非常に嬉しい。嬉しいけど気持ちは気持ちのままにしておいてほしかった。領軍に入る気もないしな。だけど、その書簡がきっかけでギルドの上の方の人が俺の依頼の受注歴を確認したらしい。
そしたら土木系依頼が三十四、採集依頼が十一、討伐依頼ゼロというあまりに偏った結果だった。で、さっさと討伐依頼を受けさせてDランクにランクアップさせろという話になったらしい。
まぁ、最近は受付に行くたびに昇格の話をされてたからな。そろそろかなとは思ってた。
「ったく、何が不満なんだ?殺しに抵抗があるのか?相手は魔物だぞ?」
「……グロいのが嫌です」
「……は?」
「解体とか絶対に無理です」
「えぇ……」
無理なものは無理なんだからしょうがない。だから諦めてほしい。俺は土木系冒険者なんだ。
「はぁ…… 分かった」
「……じゃあ?」
「いや、討伐依頼には行ってもらう」
「……」
「そう嫌そうな顔をするな。お前がやるのは魔物を殺すところまでだ。確認は他の者にやらせる。それなら文句ないだろ?」
「……まぁ、それなら」
「まったく。殺すのは大丈夫なのに死体が無理とかどうなってんだ」
ゴネたらだいぶ譲歩してくれた。ありがたいけどそれでいいんか?まぁ、最低限自分の身を守れることが分かればいいんだろうな。
それよりも気になるのが主任さんが抱いた疑問。俺もずっと不思議に思ってるところではあるんだよな。中年メイド一行のときも想定してたとはいえ、「あーあ、人殺しちゃった」くらいにしか思わなかったしな。
この辺も転生特典的なやつなのかねぇ。まぁ、これから先も殺すのを躊躇してたらまずい場面があるだろうから、助かってるのは助かってるんだけど。
……というか、俺やマイン君が実はそういうやつだったとは思いたくないしな。
「よし、この辺でいいだろ。何でもいいから適当に狩ってくれ」
「はい」
あれから二日後の今日、オルティアの近くの森にやってきている。森林地帯ほどではないけどここにも魔物がいるからな。ここで適当な魔物を狩るところを付き添いのCランク冒険者とギルドのスタッフに確認してもらえば依頼は終了。わざわざ来てもらって申し訳ない。さっさと終わらせて帰ろう。ってことで。
「【バレット】」
「ん?」
「終わりました」
「は……?え……?」
「あの木の陰に……」
ちょっと離れたところにいたゴブリンに【バレット】を撃ち込んで終了。近いとグロいのが見えちゃうかもしれないからね。威力は以前見たDランク冒険者レベルに抑えておいた。強すぎても弱すぎてもめんどくさそうだったから。完璧な手加減具合だな。
てことで確認を終えてさっさとオルティアに帰還。ギルドで主任さんに報告する。
「おう、早かったな。どうだった?」
「俺の索敵範囲よりも外にいたゴブリンを一発で仕留めてた。しかも頭をぶち抜いて」
「……は?」
「魔法の威力自体は並だが索敵範囲と攻撃範囲、命中精度を考えれば、Cランクパーティーなら引く手あまただろうな。Bランクでも欲しがると思うぞ。誰だよ、土木系冒険者とか言ったやつ。普通に強えじゃねぇか」
「……」
意外な高評価に頬が引き攣る。いや、俺は土木系冒険者でいいから。俺の生きてくところは街の中だから。知らない人とパーティーとか絶対無理だから。
「じゃあ、お前はDランクに昇格だ」
「……どうも」
「護衛依頼を受ければCランクにもできるがどうする?」
「……結構です」
「ったく。お前くらいの歳のやつはランクを上げたがるもんなんだがなぁ」
「……」
「ちなみにパーティーを組む気はあるか?」
「……ないです」
「だよなぁ」
危うくCランクにされるところだったが何とか逃げ切れた。
なにより、いざというときに自由に動けないのは困る。
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