第二章 ハーテリア王国辺境編

第一話 ハーテリア王国オブレイン辺境伯領

「……できました」

「お、もうできたのか。相変わらず仕事が早いな。助かったぜ」

「いえ、失礼します」

「おう、また頼むわ」


 アルテリア王国を脱出して半年とちょっと。俺はハーテリア王国オブレイン辺境伯領の領都オルティアで冒険者をやっていた。うん、俺だってこんなに長くハーテリアにいる気はなかったんだ。さっさとアルミラ公国に逃げるつもりだった。そう、アルミラ公国。最近ようやく名前を知ることができた。まぁそれはいいか。

 ハーテリアに来て、いの一番にガルガインを殺ろうとしたんだけど、ある問題が発生した。


「ガルガインどこにいんだよ」


 そう、ガルガイン辺境伯なんて存在しなかった。国境の領地を治めるのはルクス・オブレイン辺境伯。いや、誰だよ。

 慌てて冒険者ギルドにある貴族の一覧を確認したけど、ガルガインのガの字もなかった。ギルドには貴族とのトラブルを避けるために、貴族の一覧が置いてあって誰でも閲覧できるようになっている。ランクが上がれば貴族からの依頼を受けることもあるから、依頼主の名前と領地くらいは知っておけということらしい。そのリストに名前がないというのは想定外だった。

 となると、考えられるのは俺と同じ転生者か、ガルガインじゃないか。

前者は違う気がする。……前にもあったけど、この感覚はなんなんだろうな。なんか気持ち悪い。思考を誘導されている感じでもないから、今すぐどうこうとは思わないけど、いずれははっきりさせたいところ。


 まぁそれは一旦置いといて、転生者じゃないとなると残るはガルガインじゃない可能性。貴族の名前が変わることはほとんどないみたいだけど、陞爵されたときに名前をそれらしいものに変えることはあるらしい。もしくは今後叙爵される可能性か。平民がいきなり辺境伯になるなんてことはないだろうけど、有力貴族の子息とかならあり得るのか?その辺の貴族の事情はさっぱり分からん。


 まぁ、そんなこんなでガルガインをサクッと殺るのは断念した。いないものはどうしようもない。んで、アルミラに行こうと思ったんだけど、そう遠からずガルガインが湧いてくるポップするわけじゃん?それを待ってからでも良くね?ってなったわけだ。

 それに思いの外この街の居心地が良いのもある。原作のことがなければずっとこの街にいてもいいかなと思うくらいに。街は賑わってるし店も充実してる。顔見知りもできたしね。マイン君が今の生活を楽しんでくれてるのも大きい。




「これお願いします」

「はい。城壁補修の依頼ですね。依頼人のサインもありますので、これで依頼達成です。こちらが報酬となります」

「ありがとうございます」

「あ、マインさん、討伐系の依頼を達成すれば昇格が可能ですが……」

「あー、討伐系はちょっと」

「分かりました。その気になったらいつでもおっしゃってくださいね」

「はい」


 冒険者ギルドの受付の人といつものやり取りをしてから報酬を受け取る。

 この街に来て知ったんだけど、家や城壁、道路の修復の仕事って結構多いんだ。おかげで成人するまでの数か月を無事食い繋ぐことができた。


「最近は連中も静かになったしな」


 冒険者になってからも街の中の仕事ばかりしていたせいで、一部の冒険者に陰口を叩かれたりしていた。まぁ、どこぞの侯爵家の連中の嫌味に比べたらかわいいもんだけどな。彼らとしては俺が安全なところでのんびり依頼をやってるのが面白くなかったんだろう。冒険者なんて森に行って魔物を狩ってなんぼみたいなところがあるからな。

 けど、オルティアの中の依頼もめちゃくちゃ多いんだ。さっき言った土木系はもちろん、清掃であったり失せもの探しであったり。それを職業にしている人もいるけど、人口が十万近いオルティアではどうしても人の手が足りない場面が出てくる。

 そういうときに仕事をするのが冒険者になりたての新人であったり、戦う力がない冒険者たち。この領では領主の意向でそういう冒険者の保護や育成に熱心らしい。まぁ、誰かがやらなきゃ領兵の仕事になるもんな。

 そんなこんなで俺に直接ちょっかいを出してくるようなやつはいなかった。というかギルドが許さなかった。これでもオルティアの土木系冒険者ではかなり稼ぎがいい方だからな。だからこそ連中は面白くなかったんだろうけど。


 ちなみに討伐系の依頼を受けるつもりはない。だって討伐証明がゴブリンの耳とか狼の牙とかだよ?異世界モノの定番だけどさ。なんでどこぞの蛮族みたいなことしなきゃいけないんだよ。グロすぎだろ。吐くわ。

 まぁ、そんなこんなで俺もマイン君もこの街が結構気に入ってる。街に活気があって普通に生きてる感じがするしな。


「これがあのガルガイン領になるなんて思えないよなぁ」


 原作のガルガイン領はひどいありさまだった。人影も少なく領民はやつれて生気がなかった。このオルティアが五年やそこらでああなるなんて到底信じられない。

 そしてオブレイン辺境伯。原作にこんな人はいなかった。単純に出てこなかっただけって可能性はあるけど、話を聞く限り相当のやり手っぽいし腕も立つらしい。そんな人が出てこないなんてあるか?

 きっと数年のうちに辺境伯の身に何かが起こる。それにガルガインが関与しているはずだ。


「やっぱガルガインってクソだな」

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