第七話 【魔装】
あれから一年。遂に今日、魔物へのリベンジをする。
と言っても森にはちょいちょい来てるんだけどね。トンネルの出口に魔法で土のドームを作れば安全なことに気付いたから。覗き穴を作れば周囲の様子も窺えるし、魔物が近付けばそこから【バレット】を撃てばいい。なぜあの時に思いつかなかったのか。よっぽどテンションが上がってたんだろうな。我ながらアホとしか言いようがない。恥じ入るばかりだ。
それと念の為にトンネルの出口を森の奥の方に移動した。トンネルの出口やドームを作った場所は地面がむき出しになるから目立つんだよな。今のところ、この森で人の姿は見てないけど念の為。
トンネルやドームを利用することで野草や木の実の採取ができるようになって、多少食卓が豊かになった。この森は植生が豊かなようで、ベリー系の実やトマトっぽいもの、バナナみたいなものが手に入った。植生が豊かってレベルじゃなくね?とは思うけど、まぁ異世界だしな。流石に品種改良された前世のフルーツには遠く及ばないけど、転生後にまともなものを食べていなかったせいでめちゃくちゃ美味しく感じた。
豆や芋なんかも見つけたけど調理する術がないのでスルー。あの離れにはキッチンもないし、森の中で煙を出せば人や魔物が寄ってきかねないからな。
同じ理由で肉もやめておいた。あと、グロいんだ。【バレット】だと爆散するからな。グロいんだ。
一応、威力を落とした【バレット】も作っておいた。こっちは爆散はしないけどちょいちょい仕留め損なうから使い勝手がいまいち。
それと、これは魔物を狩っていて気付いたことだが、おそらくこの世界にはゲームの時のようなレベルが存在しない。少なくとも魔物を倒したタイミングで自分の能力が劇的に上昇するようなことは一度もなかった。
とはいえ、この一年でひたすら魔法の鍛錬や改造をしたことで、できることがだいぶ増えた。今日はその確認をしていく。
「ってことでやっていきますかっ!【魔装】!」
ドームの中で魔法を起動する。二分ほどかけて全身が石の全身鎧に覆われ、左右の手にこちらも石のメイスが現れる。
『よーし、できたできた』
この一年で完成させた新魔法【魔装】。【魔纏】を発動した状態でさらに地属性魔法で石の鎧とメイスを作り出し、【身体強化】で無理矢理動かす。さらに【魔力探査】も常時発動している。
一年前にやろうとしたことの全部盛りだな。最初はいろいろと組み合わせを試してたんだけど、どれも一長一短でめんどくさくなった。だから全部一纏めにして【そういう魔法】ってことで創造したのがこの【魔装】。ダメ元でやったんだけど、イメージの力ってすげー。いやマジで。
まぁ、複数の魔法を一纏めにするって発想は原作主人公をヒントにしただけなんだけどさ。だからってそれをやってのけるマイン君の才能にビビる。
『マイン君も大概チートだよなぁ……』
とはいえ、この魔法もまだまだ完成とは言い難い。発動までの時間が長い上に魔力の消費が凄まじい。そのせいで魔法を維持できる時間が極端に短いんだ。現状だと五分くらいかな。これでもだいぶ伸びたんだけどね。
ちなみにフルフェイスのヘルメットの目の部分も完全に覆われているので、そのままでは前が見えない仕様になっている。その代わりに【魔力探査】の常時使用でカバーしている。目では見えないけど、どこに何があるか手に取るようにわかる感じ。最初はなかなか感覚が掴めなくて大変だった。一年の準備期間の何割かはこのために使ったようなものだ。【魔眼】が欲しいと何度願ったことやら。【魔眼】があれば魔力が視えるからな。
なぜそこまでして目を覆ったのか。至ってシンプルな理由だ。
『グロには勝てなかったよ……』
そういうことだ。殺す事自体にはさほど忌避感がなかったけどグロ耐性もなかった。速攻で吐いた。無理だと思った。だけど戦わなければ生き残れない。だから見ないことにした。笑いたければ笑えばいい。マイン君は苦笑いしてた。
『とりあえず軽く動いてみるか』
気持ちを切り替えて一歩踏み出す。うん、森の中でもなんとか歩けそう。普通に歩くよりもペースは落ちるけど慣れていけば大丈夫だろう。
『なんかロボットの操縦してるみたいだな。――っとゴブリンか』
魔物が【魔力探査】の範囲内に入って来たのを感知する。幸い一匹だけなのでちょうどいい。いつもなら【バレット】でパパっと処理するけど、今回は【魔装】の性能試験。そのままゴブリンの方に向かっていく。
『ゴギャギャ!』
俺に気付いたゴブリンが棍棒で殴りつけてくるのを左腕で受け止める。
『ゴギャ?』
『おぉ、全然痛くない』
腕で棍棒の一撃を受けてみたけど【魔装】はビクともしない。表面に傷もついてなさそうだ。【魔纏】がクッションになったことで衝撃もなし。イメージした通りの防御性能はありそうだ。【魔装】の装甲は今の俺が出せる最硬のものだからな。【バレット】でも貫けない程度の防御力はある。とはいえ、実戦投入は初めてだからちょっとビビってたのは内緒だ。
『ゴギャギャギャ!!』
『おっと』
『ギャッ』
攻撃が効かないことに困惑していたゴブリンが我に返って追撃してくるところにメイスを叩きつける。【身体強化】のおかげで身体が振り回されることなくゴブリンの頭部を爆散させる。うん、見えなくてよかった。この辺はまだ調整が必要だな。鎧を着て動くために【身体強化】の強度を上げてるせいで加減が難しい。いちいち爆散させてたらいくら見えてなくても気分が悪いしな。
「うん、なかなか有意義な時間だった」
【魔装】の残り時間は身体の動きの確認に費やした。歩く分には問題なかったけど、走ったりジャンプしたりすると身体の制御が難しくなる。他にもいくつか反省点が出てきたので今後の課題だな。
正直、森のこの辺りでは過剰戦力なんだけど、侯爵家が俺をどうするつもりなのかも分からないし原作のこともある。最悪、『剣聖』と敵対する可能性だってあるしな。勝つのは無理でもせめて五体満足で逃げるられるようになっておきたい。残りの時間を無駄にしないようにしないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます