第六話 初めての実戦
「とりあえずこれでやってみるか」
石弾をいくつか生成して手の中で転がす。
新型【ストーンバレット】完成からおよそ半年、今日から森の探索を開始する。形状や回転数を調整しながら鍛錬した結果、新型をほぼノータイムで撃てるようになった。正直、改造と訓練にド嵌りして探索のことが頭から抜け落ちてた。だって思いついたことがどんどん形になっていくんだ。
「マイン君ヤバくね?天才じゃん。そのマイン君を剣が使えないからって無能扱いするチョビ髭ヤバくね?クッソ無能じゃん」
まぁ、チョビ
「でもやっぱ肉食いたいよなぁ」
今までに見たこの森の魔物で食べられそうなのはウサギと狼。けど、犬好きの人間としては狼を食べるのは些か抵抗がある。となると狙うのはウサギ……え?マイン君はウサギが好きなの?ウサギも可愛いからね。それじゃあ他に食べれそうな動物探そうか。これだけの森だから鹿とか猪とかもいるでしょ。
あぁ、それと書斎で植物図鑑も見つけたから、食べられそうな果物や野草も手に入ると嬉しい。
「視界が悪いなぁ……」
トンネルから出て、大きめの木を背にして周囲を見回す。森の中は長い下草が生い茂り、俺の身長ではなかなか遠くまで見通すことができない。これ下手に動くと迷いそうだし、不意打ちされる可能性もあるな。
「【バレット】」
【バレット】を八つほど待機状態にして周囲に浮かべておく。咄嗟の場面だとパニクったり手間取ったりするかもしれないからな。こうしておけばあとは発動句を告げれば発射されるから、多少のことならなんとかなるはず。本当は一度に撃てる数をもっと増やしたいんだけど、今の俺にはこれ以上の数はコントロールできそうにない。
てか、思い付きでやったのにさらっとできちゃうマイン君やっぱ凄ぇわ。
……なんてことを考えている間に、前方から生き物の気配が急速に近付いてきた。いつでも【バレット】を撃ち出せるように身構え、気配の主を待ち受ける。
気配の主が姿を現そうかというまさにその時、左右の茂みから別の気配を感じる。
「――ッ!?【バレット】!!」
『『ギャンッ』』
待機状態にしていた【バレット】を左右の気配に向かって三つずつ撃ち込む。当たった手応えはあるが、そちらにかまっている余裕はない。
『グルルルアアァァァ』
「【バレット】!!」
一拍遅れて正面から飛び掛かってきた影に残りの【バレット】を撃ち込む。
『ギャッ』
眼の前の影は上半分が爆散し、辺りに血の匂いが広がる。
「ぅぷっ、バ、【バレット】ッ」
焦りと目の前の惨状のせいで普段よりも時間がかかったが、新たに【バレット】を待機状態にして周囲を警戒する。
「ハァッ……ハァッ……!!魔物めちゃくちゃこえーじゃん!」
追撃の気配がないのを確認して急いでトンネルに逃げ込む。少し落ち着いたところで強烈な吐き気に襲われた。
「ぅおえええええぇぇぇぇぇ……!!」
胃の中のものをすべて吐き出したところで、ようやくさっきの戦いを振り返る余裕ができた。
襲ってきたのはたぶん狼だろう。連携してたし。正面は囮で左右から来たのが本命。直前まで全く気配を感じなかった。もし気付くのが遅れていたら、【バレット】が当たらなかったら、敵の数がもっと多かったら、そんなことを考えるとゾッとする。
「異世界なめてた。ちょっと前の自分を張り倒してやりたい」
新魔法が完成してはしゃぎすぎてた。マイン君の才能あってのことなのに、俺が調子に乗ってどうすんだって話だ。このままじゃすぐに死ぬ。しっかり考えて準備をしてから動くようにしないと。
まず第一に安全の確保だな。なんの防御策もないままにトンネルから出たのがそもそもの間違い。【土壁】でバリケードを作るとかやりようはあった。なぜ思いつかなかったのか。
「あとは魔物の気配を探れたら便利なんだけどなぁ」
ゲームでは何種類かの索敵技能があった。定番だったのは斥候タイプのキャラクターが使っていた【気配察知】と魔力を広げてその範囲内のものを知覚する【魔力探査】だな。魔術師タイプのマイン君の場合は【魔力探査】のほうが向いてるかな。できればその上の【魔力感知】も習得したいけど、あれは難しいらしいからなぁ。
「索敵以外だと……いっそのこと【魔纏】でガッチガチに防御固めてみるか?」
【魔纏】も魔法系の技能。高密度の魔力を鎧のように纏うことで防御力を上げる事ができる。【身体強化】でも防御力は上がるけど、身体能力全般を向上させる【身体強化】と防御特化の【魔纏】ではそもそものコンセプトが違う。【身体強化】は物理職用の技能みたいな感じだったしな。それに魔法系キャラのマイン君には【魔纏】の方が相性がいい。
そういえば原作でも魔力の多い
そんな【魔纏】に問題があるとすれば、技能としての難度が極めて高いこと。実用的なレベルで魔力の密度を維持し続けるためには、多くの魔力と高い魔力操作の技術が必要になる。ぶっちゃけ鎧を着たほうが早い。
ただ、十分な装備も前衛も用意できない俺は不意打ちに滅法弱い。そういう意味でも常時発動の【魔纏】は都合がいい。
「うん、考えれば考えるほど迂闊だったわ」
もう同じ轍は踏まない。とりあえず思いつくことは全部やってみよう。
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