第五話 魔法の改造
トンネルは二ヶ月くらいで完成した。思ったより森までの距離があって大変だった。ただ、最初こそ梃子摺ったものの毎日繰り返すうちにどんどんスピードと精度が上がったから、やっぱりマイン君のセンス凄いんじゃなかろうか。比較対象がないから分からんけど。
で、開通したまでは良かったんだけどトンネルを出た先には魔物がいた。ファンタジー作品で定番のゴブリンや狼、角が生えたウサギ等々。うん、ここ剣と魔法の世界だったわ。
「なんで侯爵の屋敷の裏の森に魔物が闊歩してんだよ。侯爵家仕事しろ!」
とはいえ、ここで文句を言ったところでどうにもならないので奴らを倒す手段を考える。
剣は無理。魔法で生成した石の剣で素振りをしてみたけど、手足がバラバラに動いて酷いものだった。学生時代に授業で剣道やったときはもうちょっとまともに動けたんだけどな。
念の為に他の武器も試してみたが軒並み駄目だった。比較的マシだったのはメイスや小型ハンマーといった片手鈍器だけど、多少マシなだけでこれで魔物と戦えるとは到底思えない。
「マイン君って近接系は片手鈍器しか装備できない設定か?まぁ、魔法系のキャラだもんな」
アルテリア戦記ではすべてのキャラクターに武器適性が設定されていた。
例えばカインの場合、長剣の適性が最高のSランクで大剣と短剣がBランク、それ以外は装備不可のGランクという剣以外は絶対に使わせないという制作陣の意思が前面に出たものだった。
一方で魔法系のキャラクターは魔本や杖といった魔法の発動を補助するものに加えて、一種か二種の武器適正があった。
例外は原作主人公ですべての武器適性がAだった。まぁ、あれはゲーム上の都合だろう。プレイヤーによって使いたい武器は違うもんな。ちなみに俺は王道の剣を使ってた。
まぁ、それはさておきマイン君の場合、片手鈍器がCかDでその他がGといったところだろうな。杖や魔本、遠隔武器は手持ちがないから判断がつかない。
「やっぱりステータスが見れないのは不便だな。何もかもが手探りだ」
ダメもとで試してはみたけど、案の定近接戦闘は無理そう。やっぱり魔法が本命だな。分かってたけどさ。
でもこれでマイン君も諦めがついたんじゃないかな。なんだかんだで剣に未練があったみたいだしな。なんたって父親が『剣聖』だからね。憧れる気持ちも分かるんだ。赤の他人の俺からしたらただの毒親だけど、マイン君にとっては実のお父さんだもんなぁ……
「マジでチョビ髭さぁ……」
……ここで言っててもしょうがないか。切り替えていこう。
とりあえず原作で基礎的な地属性魔法として登場していた【ストーンバレット】と【ストーンランス】をトンネルの壁に向かって試射してみる。
「うーん、微妙」
【バレット】は速さと発動速度は悪くないが、いかんせん威力がない。壁に当たってあっさり砕けてしまった。いくら強度を上げた壁とはいえ、これじゃ使い物にならないな。
一方の【ランス】は威力自体は悪くなさそうだが弾速も発動速度も遅い。
どちらも微妙な性能だが魔法はイメージ次第でいくらでも改良できる。
まず、使いやすそうな【バレット】をベースに新しい魔法のイメージを組み上げていく。射出する石弾は銃弾のような形にして、硬度もできる限り上げた。射出時に回転を加えて命中精度の向上も図る。まぁ、異世界モノ定番の魔法だな。先輩転生者のみんな、パクらせてもらうよ。ありがとう。
あとは試射しながら微調整していけばいいだろう。あんまりあれやこれや付け加えると逆に扱いづらくなりそうだしな。
「おー、悪くないじゃん!」
新型【ストーンバレット】の威力はなかなかのものだった。圧縮されたトンネルの壁に深く弾痕が刻まれている。狙った所から少し外れているので修正の余地はあるものの、威力に関しては満足できる出来だった。
問題は発動までの時間だな。石弾の成形と硬度を上げるのにとにかく時間がかかる。これじゃあ咄嗟のタイミングには使い物にならないな。
「こればっかりは練習するしかないか」
魔法はイメージ。何度も使い込んで頭と身体に魔力の動きを刻み込むことで、発動速度は格段に向上する。
「その前にもっと深いところに訓練できる場所を作らないとな」
今いるのは地下数メートルの場所だから訓練中の音で人や魔物に気付かれる恐れがある。さっきも結構でかい音がしたしな。それに爆発魔法のこともある。音や振動を気にせず鍛錬できる環境が欲しい。
俺は普通に生きたいだけだから、最強を目指そうなんて思わない。だけどある程度の理不尽は跳ね返せるようにはなりたい。マイン君の才能に頼り切りなのは情けないができる限りのサポートはするので許してほしい。
「ホントはあのチョビ髭ぶっ飛ばしたいけどなぁ」
マイン君には悪いけど、俺はあのチョビ髭に一発入れてやらないと気が済まない。ただ相手は腐っても『剣聖』だからなぁ。実質モブといえど、そう簡単には勝てないだろう。それに侯爵家を敵に回すと命がいくつあっても足りない。でもまぁ、チャンスがあればちょっとした嫌がらせくらいはしてやろう。
「訓練場の地面ボッコボコにしてガッチガチに固めとくか?」
……しょうもない報復しか思い浮かばない自分が情けない。
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