第四話 脱出方法

「うーん、そろそろ外に出ないとまずい……」


 離れに幽閉されておよそ半年が経過した。

 魔法の鍛錬に関してはすこぶる順調だ。むしろ順調すぎてそっちにのめりこんでたくらい。毎日せっせと魔力の移動、放出、吸収を繰り返した結果、かなり魔力の扱いが上達したように思う。やはりマイン君は魔法に高い適性があるようだ。魔力を全身に行き渡らせて身体能力を向上させる【身体強化】もかなり早い段階で習得できたしな。

 地属性魔法の訓練も始めていて、今は離れの壁や床を補修、強化している。壁や床に魔力を流し込んで隙間の部分の魔力を土に変化させるというシンプルな作業だ。さすがに外壁まで綺麗にすると使用人たちにバレちゃうから、外から見えない部分だけだけど。

 本当はもっと魔力の扱いが上達してからにするつもりだったんだけど、隙間風が冷たかったので予定を早めた。意外とあっさりできたのはやっぱりマイン君の魔法適性のおかげかな。ありがたい。


 とはいえ、問題がないわけじゃない。まず食事。そしてストレス。

 相変わらずほとんど具のないスープにパン。中年メイドが運んでくるときだけサラダっぽいものが載っているけど、栄養が足りてないのは間違いない。

 今のところ体調を崩したりはしてないけど、今後もそうだとは限らないしな。まぁ、原作マイン君も成人まではここに閉じ込められてただろうから、死んだりはしないんだろうけど。でもやっぱりできるだけ健康に過ごしたいよなぁ。


 そんな食事の質と同じくらいに低いのが、食事を運んでくる連中の質。クズばっか。これが侯爵家の使用人かと情けなくなる。

 罵声を浴びせてくるのは当たり前で、一部のメイドに至ってはわざとらしくトレイをひっくり返したりする。どうやら貴族出身の自分たちではなく、平民のマイン君ママが手を付けられたことを未だに根に持っているようだ。文句があるならチョビ髭に言えよ。


 ちなみにクソガキカインもときどき煽りにくる。こいつはボキャブラリーが貧弱なのでダメージは少ないが、言われっぱなしなのは癪に障る。とはいえ、下手に言い返してもろくな事にはならないんだよなぁ。どいつもこいつもめんどくさい。


 こうしてみると原作マイン君の置かれた環境がクソなのがよく分かる。そりゃ、アーライトに恨み持ちますわ。領軍ごと吹き飛ばしますわ。正直、俺もちょっとやりたくなってる。やらないけどね?

 とまぁ、そんな感じでストレスが溜まってきているので、いい加減発散したいところ。


「脱出方法の目処は立ってるしな」


 離れの補修をしているときに、地下に二メートル四方ほどの地下室があることに気が付いた。以前は物置として使っていたようだけど、なぜか入口が隠されていた。なんかいわくありか?と思ったけど、特にそれらしいものはなかった。絶対なんかすごいアイテムとか秘密の日記とかがあるだろと思って必死に探したのに。ガッカリだわ。

 けどまぁ、「こっからトンネル掘ればいいんじゃね?」ってことで脱出方法が決定。離れの壁に穴を開けようかとも思ったけど、それだとすぐにバレるだろうからな。【身体強化】を習得したとはいえ、今の実力では屋敷の敷地から出ることもできないだろう。


 トンネルの出口だけど、マイン君の記憶によると離れの裏手からしばらく行ったところに森があるみたいだからとりあえずそこを目指す事にする。いまいち距離感が分からないけど、森に入れば樹の根とかが出てくるだろうからそれで判断できるはず。


「それじゃあ、やっていきますかね」


 早速、石造りの壁に魔力を流し込んでいく。土壁よりも強い抵抗があるけど、これならなんとかなりそうだな。崩れないように周辺を固めながら石を変形させて人ひとり通れるだけのスペースを作っていく。

 

「これめちゃくちゃしんどいな」


 体感で三、四時間ほどかけて石造りゾーンを突破する。距離にして一メートルといったところかな?結構分厚かったな。

 それにしても土と石でこれほど扱いやすさが違うとは思わなかった。もっと魔力操作の速さと精度を上げないとな。だけど難所は突破できた。


「こっからは普通の地面だからだいぶペースを上げられそうだな」



 ……なーんて思っていた時期もありました。土を圧縮して壁と天井の強度を上げながら道を作っていくんだけど、これが思った以上に大変な作業だった。それもそのはずで、もともとそれなりの密度になっている地面をさらに圧縮させようというのだ。そう簡単にできるわけがなかった。結局、夜までかかって進めたのはほんの二メートルほどだった。


「くっそしんどい。これは難敵だぞ」

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