第24話 セキレイの宣託(24、センタク)


昼下がり。

石麓寺せきれいじの住職・永真えいしんは、部屋で紙に絵を描きつけている。

「さて、こんなところでしょうか」

紙には、山から太陽が昇る様子が描かれていた。

「今朝夢で見た景色が印象的だったので、こうして描き起こしてみましたが……はて、」

どういう意味があるのか、無いのか。

一人首を傾けていると、開け放した襖から中へ、鶺鴒せきれいが一羽、入って来る。それを追うように、生首の豊ノ介もするりと入って来た。

「おや。お久しぶりですね、豊ノ介殿」

突然の生首の乱入にも全く動じず、永真は穏やかに応対する。それに内心舌を巻きながらも、豊ノ介は軽やかに言い放つ。

「邪魔するよ、住職。セキレイの宣託を授かりに来たんだ」

「セキレイの宣託?」

不思議そうにする永真の前にある紙へ、飛んで来た鶺鴒が降り立つ。

永真は、一瞬目を見張った。寺で描かれた絵の鶺鴒である。

「抜け出したのですか?」

穏やかな永真の問いに、鶺鴒は住職を見上げ、愛らしく首を傾げた。そのまま、永真の描いた絵の上で鳴き声を上げながら、軽快に飛び跳ねる。それを静かに見ていた永真は、やがて、あ、と声を上げた。

紙の空が陰り、太陽は見る間に突然現れた雲に覆われる。永真は、筆を走らせてはいない。

鶺鴒は、終わったとばかり空へ舞い上がる。

しばらく絵をじっと見ていた永真は、緩々と顔を上げる。豊ノ介を見た。

「豊ノ介殿には、この意味がお分かりで?」

豊ノ介は永真を見やり、妖艶に笑う。

「いや?あたしは幻術使いだが、占い師じゃないからねェ。ーーだが、」

豊ノ介もまた、すっかり陽の隠された絵を見下ろす。

「鶺鴒の札でも作っておきなよ。そのうち、青髪のえらく人相の悪い男が、必要になって来るかもしれないから、サ」

永真は、絵を見、豊ノ介を見、鶺鴒を見た。

「……そうしておきましょうか」

苦笑混じりにそう言って、永真は立ち上がったのである。




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