第9話 欲しいもの(9、つぎはぎ)


頭はボーッとして何も考えられないのに、僕の手は、機械のように動いている。

手に何かを持っていた。目の前には、子どもほどの大きさの、人形の胴体がある。僕はそれに、手に持つ何かをくっつけた。

「もう少しだなぁ」

ねっとりとした、吐息混じりの男の声が僕の耳元で囁く。知らない声。確かめようと思っても、手が勝手に作業を続けてしまい、声の方を向けない。何となく、僕はこの男の身体を作っているのだと感じた。足りないのは、頭。首。

僕の耳元にいるのは、きっと生首だ。今作っているこの身体が欲しいという欲が、ひしひしと伝わって来る。この身体は、出来上がって良いのだろうか?考えようとしても、やっぱり頭がボーッとして、上手くいかない。手を止めることも出来ない。胴体に、四肢が付く。

「おう、おう。今こそ」

嬉しそうな男の声。その時。

他人ひとの身内、勝手に使ってんじゃねぇよ」

不機嫌な声が聞こえて、人形の胴体が消えた。と思ったら、胴も手足も、何もかもがぐちゃぐちゃに壊れて降って来る。耳元の声が悔しそうに唸った。

「口惜しや!後少しだったのに!」

手前てめぇの身体が欲しけりゃ、手前で頑張れや」

僕は強く手を引かれて立ち上がる。目線を上げたら、朱い、揺れる金魚。


「あ、れ」

僕は家の居間に立っていた。横には、叔父さんがいる。豊ノ介さんも。

「やれやれ、相変わらずだねぇ、旭」

「燃やすか、これ」

叔父さんの言葉で足元を見れば、粉々になった手足や胴体だったものがある。頭は無い。

「他力本願なことしてんじゃねぇよな」

笑って、叔父さんは欠片たちを少し蹴る。誰かの唸り声が聞こえた気がしたけど、気のせいだったかもしれない。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る