第7話 まわってまわって(7、まわる)
「見事な堂々巡りだねェ、
「うるせぇ、無駄口叩く暇あんなら、道の一つも見つけて来いよ」
「首使いの荒い男だよ、まったく」
生首である
深夜の歩道。
裏通りのような道で、人気は全く無い。コンビニに酒を買いに出た帰り、弥命は散歩帰りと言う豊ノ介と出くわし、そのまま一緒に帰るはずだった。だが、同じような道をぐるぐる歩かされている。コンビニから家まで十五分ほど。いつもの道を歩いていただけだった。
「面倒くせぇ。もうここで酒飲んでくか。煙草もあるし」
「おや、そいつぁ一服すりゃ道が開くっていう、
「知らねぇよ。そういうもんなんだろうが、正体分かってるわけじゃねぇし」
「弥命なら実力行使だろうしねェ」
笑いながら言う豊ノ介を、弥命はじろりと睨む。
「お前沈めた方が早いかもな」
「嫌だ嫌だ、本当に物騒な男だよ」
ふわりと一回転しながら、豊ノ介は顔を
(何とも出くわさない。嫌な気配もしない。まるで、)
「ーー足止めみたいな」
弥命が呟くと、豊ノ介は弥命の側まで来て、笑う。赤い唇が美しく弧を描いた。
「冴えてるねェ、弥命」
「どういう意味だ」
言っていると、道の向こうから、何かがひょこひょこと上下に動きながらやって来た。見えて来たそれは
「……生首」
「おや」
豊ノ介も同じ方を見、声を上げる。ざんばらな髪に落ち窪んだ目、痩けた顔。更に顔色も悪すぎる、男の生首だった。男は弥命たちを見ると、近付いて来る。
「お堂はどこかね」
「お堂だ?」
「この辺にある首塚のことかい?」
豊ノ介が聞けば、男は顔を傾ける。
「首塚?俺はお堂にいるんだが」
「なるほどねェ」
話が見えていない弥命に、豊ノ介が耳打ちする。
「今のあの首塚の土地には、昔、寺もあったのさ。古いやつの記憶は、お堂、寺のままなんだろうよ」
弥命は黙って頷いた。
「じゃあお前、案内してやれよ」
「あたしだけ行っても良いけどさ。弥命も行ってやった方が良いと思うよ」
「は?何でだよ」
豊ノ介は弥命を見下ろして笑う。
「首塚に眠る大勢が目覚めて、ふらふらしてるだろう?迷い出てるのがこいつだけだと思うかい?」
「……何が言いたい」
「弥命の言った通りさ。あたしらは足止めされてた。ーー今、首塚の側であいつらと超絶相性が良いのに、一人でいるのは誰だい?」
弥命は思わず自宅の方を向き、目の色が一瞬変わる。が、直ぐに戻り、凶悪な眼で豊ノ介を射抜く。
「お前、分かってて俺のところに来たな」
「そりゃ買い被り過ぎサ。何が起きるかなんて、分かりゃしないよ。ま、とりあえずはもう、動けるってことさ。家に帰るより、首塚、いや、お堂か。行ってみようじゃないか」
ボロボロの男は嬉しそうな顔になった。それを見、舌打ちして、弥命は歩き出した。
豊ノ介に誘われて着いた、首塚の前。
男は着いた途端、満足したのか、満面の笑みで消えた。弥命は、行き倒れのようにうつ伏せで倒れている
「叔父さん……?ーー良かった」
旭はまだぼんやりした目で呟くと、安堵したように息を吐き出した。
「旭はお人好しだねェ。大方、弥命の名でも出されて首どもに脅されたんだろう?」
豊ノ介は旭の顔を覗き込み、目元を和ませて笑う。
「叔父さんがどうとかではなく……自分のせいです」
意識がはっきりしてきた旭は、弥命と豊ノ介を交互に見ると、自己嫌悪の溜息をついた。弥命はざっと旭を見回す。
「怪我はないな?」
「ないです。すみません。ここまでどうやって来たか、分からなくて」
「いいよ。俺は知ってるし」
弥命は遠慮している旭を無理やりに背負うと、のんびり歩き出す。
「……ありがとうございます」
か細くなっている旭の声に笑うと、弥命は柔らかな声で呟いた。
「旭が生首の仲間になってなくて安心したよ」
「ーーえ?」
驚きを含んだ聞き返す声に、弥命はもう何も返さない。その内に、旭は気絶するように眠ってしまい、豊ノ介は笑って寝顔を覗き込む。
「よく見りゃあちこち汚れてるね。何させられたんだか」
途端に弥命の顔が険しくなる。
「あいつら何とかしろよ。お前のせいだろ」
「面白いからねェ。仲間っちゃ仲間だし」
からからと笑う生首へ舌打ちした後、弥命は溜息をついた。
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