第3話 だんまり(3、だんまり)
深夜。
庭に面する縁側で
「煙でも食いに来たのか」
「月見だよ。煙草の煙は口に合わなくてね」
「抜かせ。最初はバクバク食ってたくせに」
「他に食べるもんが無かったんだから、仕方ないだろう?」
艷やかな長い黒髪を戦がせながら、生首ーー豊ノ介ーーは笑う。機嫌の良い笑い声に、弥命は顔をしかめる。
「調子乗ってないだろうな」
「大人しくしてるさ。全く、弥命は直ぐ実力行使だからいけないよ」
「お前が勝手ばっかしてるからだろ」
豊ノ介は、弥命の目線の高さまで横に並んだ。そんな彼と目を合わそうともせず、弥命は不満げに言う。生首は愉快そうに笑った。
「旭のおかしいこと。肝が座って豪胆かと思えば、まるで鈍感なんだから。だからつい遊びたくなる。気に入ってるのさ」
豊ノ介は覗き込むように、傍らの弥命の顔を見る。血の気のない白い顔だが、唇だけは、何故か朱を差したように赤い。それが、三日月のように美しく弧を描く。
「あたしは大人しくしてるけどさ。旭はそうとは限らないんじゃないかい?」
「脅してんのか」
凶悪な目で、弥命は豊ノ介を睨む。怯みもせず、さらりと生首は距離を取った。
「おー、怖い怖い。素直じゃない叔父貴だねェ。毎度飛んでくる割には、サ。大事にしてるんだろう?あの子のこと」
「おい、」
殺気が明確に宿る目に、豊ノ介はようやく口を閉じる。舌打ちをすると、弥命は荒々しく自室へと戻って行く。豊ノ介はしばらく空に漂い、弥命の去った方を眺めていた。
「だんまりは損だと思うけどねェ。あの子には」
生首の呟きを聞くものは、誰もいなかった。
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