第3話 だんまり(3、だんまり)


深夜。

庭に面する縁側で弥命みことが、一人煙草を吸っている。青い髪に月明かりが差し、ぼんやり青白く発光しているようにも見えた。そこへ、ふわりと生首が降って来た。弥命はさして驚きもせず、生首をじろりと睨む。

「煙でも食いに来たのか」

「月見だよ。煙草の煙は口に合わなくてね」

「抜かせ。最初はバクバク食ってたくせに」

「他に食べるもんが無かったんだから、仕方ないだろう?」

艷やかな長い黒髪を戦がせながら、生首ーー豊ノ介ーーは笑う。機嫌の良い笑い声に、弥命は顔をしかめる。

「調子乗ってないだろうな」

「大人しくしてるさ。全く、弥命は直ぐ実力行使だからいけないよ」

「お前が勝手ばっかしてるからだろ」

豊ノ介は、弥命の目線の高さまで横に並んだ。そんな彼と目を合わそうともせず、弥命は不満げに言う。生首は愉快そうに笑った。

「旭のおかしいこと。肝が座って豪胆かと思えば、まるで鈍感なんだから。だからつい遊びたくなる。気に入ってるのさ」

豊ノ介は覗き込むように、傍らの弥命の顔を見る。血の気のない白い顔だが、唇だけは、何故か朱を差したように赤い。それが、三日月のように美しく弧を描く。

「あたしは大人しくしてるけどさ。旭はそうとは限らないんじゃないかい?」

「脅してんのか」

凶悪な目で、弥命は豊ノ介を睨む。怯みもせず、さらりと生首は距離を取った。

「おー、怖い怖い。素直じゃない叔父貴だねェ。毎度飛んでくる割には、サ。大事にしてるんだろう?あの子のこと」

「おい、」

殺気が明確に宿る目に、豊ノ介はようやく口を閉じる。舌打ちをすると、弥命は荒々しく自室へと戻って行く。豊ノ介はしばらく空に漂い、弥命の去った方を眺めていた。

「だんまりは損だと思うけどねェ。あの子には」

生首の呟きを聞くものは、誰もいなかった。






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