第2話 呪術と呪属性魔法。
台座の上で暫く固まっていた俺はハッと我に返り、今の声は何なのか考える。
頭の中に誰かが居るのか?
それとも天の声?
まさか呪い?
18回転生してきたけど初めての経験だ。
神の呪いを受けてたから地球に神は居るんだろうけど、転生で神に出会った事は一度も無い。
そんな存在が居るのかも微妙だが、神の呪いを受けてる以上、居ないとは言い切れないしな。
「……えーっと、誰ですか?」
一応声を掛けてキョロキョロ目を動かして誰か居るのか探るが、誰かが居る気配は無いようだ。
返事は無いようだけど、なんだ今の?
滅茶苦茶ビックリしたんだけど?
普段は話せないのか?
……まあ、そういう世界だと受け入れよう。
今までの人生でも不思議な事はいっぱいあったし、その度に『そういう世界なんだ』と受け入れて来た俺は、すぐ頭を切り替えられた。
18回の転生で初めて取得したスキル。
この世界のスキルがどういうものか確かめないとな。
前世で人に聞いた時は【剣術】スキルを取得すると、剣の扱いが上手くなったり剣の攻撃が強くなったりするらしい。
だが、この世界のスキルが同じようなスキルとは限らない。
先ずはユニークスキルの【呪属性魔法】に意識を集中させると、以前から当たり前に知っていたかのように、何となく感覚で理解出来た。
「なるほど、これがスキルか……」
呪属性魔法は、ありとあらゆる呪いを対象に掛ける事が可能っぽい。
他にも呪いを従える? 事が可能らしいけどこれは試してみないとよく分かんないね。
呪いを従えるってなんだよ。
呪いが生きてるって事かな?
さて、次は【呪術】だがこれも、対象に呪いを掛ける事が可能らしいけど、方法が呪属性魔法とは違う。
おそらく『魔法』と『術』の違いだと思うがハッキリとは分からない。
方法は、文字や他にも血や物を使って呪いを発生させる事が出来る。
所謂呪物というやつだ。
【解呪】はそのまま、呪いを解く事が出来るようだけど、使う機会があるのかは微妙。
いや、自分で掛けた呪いを解く時に使うか。
俺は、ステータスとスキルの確認がとりあえず終わったので台座に座りながら、これからどうするか周囲を見回してから考える。
廃墟と化した神殿のような建物。
俺が生まれた場所。
一部壁が崩れて日の光が差し込んでおり、建物の中は結構明るい。
「よし、まずは服だな」
奴隷の人生の時、殆ど裸のような恰好をしていたのであまり気にならないけど、一応小さな息子は隠しておくべきだろう。
1.5メートル程ある台座から飛び下りようとしたが、今の俺には高すぎて足を傷めそうなので縁にぶら下がりなんとか下りると、3段ある階段を短い足でゆっくり下りた所で瓦礫の欠片を踏んでしまい、その場で蹲る。
「いっ……!!」
滅茶苦茶痛い。
靴か草履も要るな。
クソ、なんでこんな生まれ方したんだよ。
あぁ、足の裏をちょっと切ってしまった。
転生していきなり傷を負うとは、これはやっぱり呪いが残ってるのか?
「……呪い」
床に座り込んで右足を持ち、足裏の傷口を見ながら呪術か呪属性魔法で傷を治せるのでは? と閃く。
って事で魔法を……。
「あっ、無理だ」
使おうとした瞬間、魔力が足らないと感覚で分かった。
もしかして魔法は魔力が大量に必要なのか?
それとも、治療するためには大量の魔力が必要なのかも?
とりあえず現状魔法は無理だ。
なら呪術で……あぁ、なんとか出来そうかな?
感覚でそう思いながら周囲を見回し、落ちている瓦礫の欠片を2つ手に取ると、両手に持って片方の欠片でもう1つの欠片に、文字を刻む。
魔力を少し込めながら『H』と刻み、刻んだ欠片を傷口に近付けると欠片が微かに温かくなり、傷口も温かくなると欠片を踏んで切れた傷が徐々に塞がっていく。
数秒程経つと温かいのが消え、欠片は崩れて粉々になってしまった。
「おお……呪術すげぇ」
なぜ『H』を刻んで回復出来たのかと言うと、刻む文字は何でも良いのだ。
ただ俺が認識しやすいように『ヒール』の『H』にしただけで『ヒ』でもよかったが『H』の方が刻みやすいのでそっちにした。
イメージしながら魔力(念)を込め、回復の呪物となった欠片は、その効力を失い粉々に砕けたという訳である。
「あっ……」
一瞬フラッと眩暈がし、感覚で魔力の使い過ぎだと理解した。
あんなちょっとの呪術を使うだけで魔力が無くなるとは、どんだけ魔力が少ないんだよ俺。
前世だとステータスで生命力や魔力、筋力なども見れたけどこの世界は表示されないようだ。
感覚で慣れないとマズい。
どうすれば保有魔力は増えるんだろうか?
職業の横にレベルがあるからレベルが上がったら、魔力も増えるかな?
そのレベルはどうやって上げれば良いのか……やっぱり魔物を倒さないといけない?
この弱さで?
ゆっくり成長するまで待てる環境なら良いけど、食料も水も自分で確保しないといけないこの状況でそんな事してたらすぐ死んでしまう。
そんな事を考えながら立ち上がり、開いてる外に繋がる扉へ向かって歩いて行くと外が見えて来た。
建物から出て周囲を見回すとそこは、まさにゴーストタウンと呼べるような、壊れた建物や穴が空いた建物があり、通りは石畳で瓦礫や人の白骨らしき物があっちこっちに散乱している。
戦争でもあったのか?
しかも結構時間が経ってる。
どこも燃えてないし、生物の気配がまったくしない。
えっ、マジでなんでこんな所で生まれたの俺?
せめて人が居る近くで生まれたかったなぁ。
とりあえず近くの兵士だろうと思われる白骨死体に近付き、もう必要無いであろうマントを何とか剥ぎ取り、それを纏うと別の白骨死体が持っていた布切れを貰い、地面に座り込んで足に巻き付け草履代わりにする。
これなら欠片や石を踏んでも簡単に傷は付かないだろう。
そんな事をしているとふと何かの気配を感じて視線を向けるとそこには、先程の兵士らしき白骨死体に、黒い靄が纏わり付いてるのを発見。
先程は何も無かったのに、いつの間に?
もしかして魔物か?
俺は白骨死体をジッと見ながら立ち上がり、少し近づくと更に気配は強くなる。
この感覚……もしかしてこれが呪?
人の念や怨念、こうしていればああしていればという『強い思い』が集まったのが呪だ。
他にもいろいろある。
身近なモノで言えば『名前』も呪いの1つだ。
とそれより、この呪いをどうするかだが……吸収出来るんだよな?
白骨死体に近付き、骨に触れると黒い靄が俺の手に吸い込まれていき、纏わり付いていた黒い靄が全て消えると自分の中にある魔力が、少し増えた感じがした瞬間。
『【呪術】と【解呪】のレベルが上がりました』
と頭の中で声が響き、ステータスを確認すると。
名前;
種族:呪人
年齢:0
職業:見習い呪術士_Lv2
職歴:なし
ユニークスキル:【呪属性魔法】
スキル:呪術_Lv2
解呪_Lv2
耐性:【呪い吸収】
称号:【神呪を克服した者】
なんと、職業レベルまで上がっていた。
これはもしやと思い俺は、すぐさま周りにある白骨死体を見て目を凝らす。
すると、数体の死体に同じように黒い靄が纏わり付いてるのを発見。
あれら全てが呪い。
呪を吸収すれば簡単にレベルを上げられる!
どういう仕組みでなぜレベルが上がるのかは分からないが、とりあえず全ての呪いを吸収しようと思い、近くの白骨死体から呪いを吸収していく。
『【呪術】と【解呪】のレベルが上がりました』
呪を纏っている白骨死体を辿り、吸収していくと気付けば街の広場に到着。
広場を見回すと呪いを纏った白骨死体が大量に散乱しており、自然と笑みが零れる。
そんな中、一際大きく黒い靄を纏っている白骨死体を発見し、近づくと黒い靄が更に大きくなった。
この呪いはかなり強いようだと感じ、そこで呪属性魔法を試す事に。
右手を前に出し、掌を向けてイメージしながら呪属性魔法を意識するとその瞬間、白骨死体の大きな黒い靄が俺の右手に全て集まり、黒い球が出来上がる。
その球を掌に乗せたまま俺は、それに向かって告げた。
「お前の名は『アル』」
前世で1という言葉だ。
俺が名前を付けた瞬間、黒い球は弾けて黒い靄が溢れると集まり、徐々に小さくなっていくと最終的に、野球ボール程の真っ黒な球体で1つの目玉があるモノへと変化し、俺の目の前でパチパチと瞬きする。
これが呪を従えるというい事か。
何となく俺との繋がりがあるのが分かるけど、ちゃんと俺に従うのかな?
「俺の言葉が分かるか?」
すると頷くように球体を上下に振る。
ちゃんと理解出来てるようだし、良い相棒になりそうだ。
「俺の名前は……『シャルド』だ、よろしくな」
頷く目玉。
結構可愛いな。
ちなみにシャルドという名前はこれまでの人生で、一番優しかった母親に付けてもらった名前である。
これまでいろんな名前を付けられてるので、あまり名前に拘りは無いけどあの母さんが付けてくれた名前だから結構気に入ってるのだ。
ステータスの名前はどうなったか見てみると。
名前;シャルド
種族:呪人
年齢:0
職業:見習い呪術士_Lv4
職歴:なし
ユニークスキル:【呪属性魔法】
スキル:呪術_Lv3
解呪_Lv3
耐性:【呪い吸収】
称号:【神呪を克服した者】
ちゃんと反映されていた。
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