三分の迷宮

あまたろう

本編

 僕たちには三分以内にやらなければならないことがあった。

 迷宮の攻略である。

 正確には、階層の攻略と言うべきか。


 この迷宮にはかなり特殊な仕掛けがあり、同じ階層に三分滞在すると魔法の力で一階層別のフロアに飛ばされてしまうということらしい。

 らしい、というのは、僕たちはこの迷宮に挑戦するのが初めてだからである。「一階層別のフロアに飛ばされてしまう」というだけでは、上の階層なのか下の階層なのかわからない。

 運が悪ければ、モタモタしているだけでどんどん下の階層に連れていかれてしまい、脱出ができなくなる可能性があるためだ。

 ほかの冒険者が使っている酒場で小耳にはさんで仕入れた情報なのでそこまで信ぴょう性が高いわけではないが、運悪く上の階層にまったく飛ばされることなく、深層の強いモンスターに遭遇してしまって残念な結果になってしまった冒険者たちが後を絶たないとのことであり、挑戦するならば十分な準備と仲間を連れていくべき、と言われた。それはもっともである。


 また、この迷宮には守護者という存在がいるらしい。

 こちらの情報については酒を飲んでいたのであまり覚えていないのだがホクタモンだかなんだかという名前で、そいつを倒せばこの迷宮の魔法は消え去り、最深部の宝が目指しやすくなるということであった。


 ……で、いまその守護者というやつと戦闘中である。筋肉質な人型の石像のようなモンスターだ。もちろん動く。

 魔法使いのスキャン能力を使用してみたところ、名前はナンゾウチョウというらしい。全然違うじゃないか。


「なに考え事してんのよ! 三分しかないんでしょうが!」


 ちょっと待ってくれ。このモンスターの名前を聞いて、何か思いつきそうなんだ。

 わりと変な名前なので、何か名前にヒントがあるはずだ。


 魔法使いが炎の魔法を連発するが、ナンゾウチョウはそれを軽くいなし、何発かは反射して僕たちの方に飛んでくる。

 気を抜くとまずい。


「ちょっとアンタ、戦いなさいよ!」


 おそらく三分経って飛ばされるのは僕たちだけだ。そして、同じパーティならば……なのか、ある一定の距離内に集まっている冒険者については同じ階層に飛ばされるとのことであるため、仲間とはぐれる心配はないとのことだった。

 ……というか、親切な設計だし、その情報が冒険者たちに共有されているということはこの迷宮はかなりの長い間攻略されていないということだ。

 ちなみに、五人以上のパーティと迷宮に……というか迷宮の守護者に判断された場合は強制的に地上に戻されるらしい。

 なんだその数字は。


 ……というか、ぼちぼち魔法使いが本気でキレそうなので僕も考え事は後にしてちゃんと戦わないといけないな。


「ねえ、なんでこの守護者っぽい敵の名前が聞いてたやつと違うんだと思」

「知らないわよ!」


 食い気味に返された。

 僕たちをそこそこできる敵だと判断したナンゾウチョウが攻撃に転じ、魔法使いの手数を上回る魔法攻撃を発してきたからだ。

 うわあ、こりゃまずい。


「あれ」


 僕と魔法使いは次の瞬間、地上に飛ばされていた。

 そうか、一階層とは地上に戻されてしまうこともあるのか。

 それにしても、守護者の名前はもう少しで何かに気づきそうなんだけど……。


「……あんたねえ……!」


 性懲りもなく考え事をしていたらしい僕は逃げる間もなく、魔法使いの鉄拳で殴り飛ばされてしまった。

 君は武道家の才能もあるんじゃないか、と思ったが、それを言うともう一発食らいそうだったのでかろうじて飲み込んだ。

 【三分の迷宮】との付き合いはもうしばらく続きそうだった。


(おわり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三分の迷宮 あまたろう @amataro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ