第5話 ミスリルスライム

 三人は分岐点まで引き返して今度は左の道に進んでいた。


「この洞窟にはもう一つ分岐点があって計三つの宝箱がある」

「もしかしてそのうちの一つってゴールドバングルだったり?」

「当たりだ。効果は体力プラス150」

「それなら付けるのはイリスちゃんかな」

「私?」

「まぁ、そうなるな。俺的にはもう一つの宝箱から出るバングルが目当てだけど」

「へー。それは気になるわね」


 シルバースライムとゴールデンスライムを倒しながら進んでいくと、三人はまた分岐点に辿り着く。


「今度は左の道だな」


 三人が左の道を進んでいくとまた、開けた空間に出て、そこには3匹のゴールデンスライムがいた。


「さっきのシルバースライムの時と同じやり方で行こう」


 イリスとネイビスは安定して3匹のゴールデンスライムを金塊へと変えた。レベルが上がったおかげでSTRの上昇していた分楽に倒せた。


「宝箱、金色だよ! ビエラ開けなよ」


 嬉しそうな声を上げてはしゃぐイリスを見て「ふふふ」とビエラは微笑み、金色の宝箱を開けた。中には今度は金色のバングルが入っていた。


「本当だ。効果HPプラス150もある!」

「こんな簡単に凄いアイテムゲットしちゃっていいのかしら」


 感嘆の声を漏らす二人を見てネイビスは思案していた。作中にこの隠しエリアを発見するためのヒントがあるのだが、確か魔大陸の手前の最後の港町クラリスにいる海賊のクエストをクリアして聞くことのできる情報だったはず。大昔に存在した偉大な錬金術士が自身の最高傑作達を世界中の秘境に隠したとかなんとか。

 つまり、終盤の魔大陸攻略の前に秘境を巡ってその錬金術士が遺したアイテムを集めて強くなろうという設定だ。そんなアイテムをいきなり入手してしまうのだからネイビスは少し背徳感を感じる。


「まぁ、気にしても仕方ないでしょ。ラッキーくらいに思ってればいいさ」

「それもそうね」


 ネイビスの言葉に同意するイリスはビエラからゴールドバングルを受け取ると今度は左手首に付けた。それを見てネイビスはあることに気づいた。


「思ったんだけど、バングルって無限につけることできんのかな?」

「は? あなたバカなの? アクセサリーは二つまでしか効果が出ないって習ったじゃない」

「あぁ、確かに習った気がする」


 ゲームではアクセサリーは一人二つまでしか装備できなかった。現実世界となったこの世界なら何個でも付ければ最強かと思ったが、そう簡単にはいかなかいようだ。


「戻りましょ。あと一つ宝箱あるんでしょ?」


 イリスがそう言い三人は分岐点まで引き返して洞窟の最奥まで続く道を進む。道中のシルバースライム、ゴールデンスライムを倒しながら順調に進んでいたが、ある程度進んだところでネイビスが声をかける。


「一旦休憩しよう」

「どうして? このまま行けそうよ?」

「いやダメだ。この次はボス戦だからな」


「ボス戦?」と驚くイリスとビエラ。ビエラはネイビスに聞き返す。


「ボスってどんなの?」

「ミスリルスライムだ。体力も防御力も高い。言わばシルバースライムとゴールデンスライムの掛け合わせだな」

「敵は一匹なの?」

「ああ。そのはずだ。だがHPは150もあるし、防御力が高いから今の俺らだと1ダメージしか入らない。150回攻撃をしないと倒せないんだ」


 それを聞いてイリスは安堵した。


「なんだ。倒せそうじゃない。魔法も使ってこないんでしょ?」


 イリスの質問にネイビスは首を振る。


「確かに攻撃魔法は使わないが回復魔法を使ってくる。だからスピード勝負なんだ」


 ゲームだといかに回復を使わせないかの勝負だったなとネイビス思う。


「あのー。手数が多い方がいいなら私も攻撃する?」

「いやー。それはよそう」


 ビエラがそう提案したがネイビスが却下する。


「まぁ、動きはスライムと変わらないだろうから攻撃は食らわないと思うけど、万が一の保険にビエラにはプチヒールを待機しててほしい」

「そうよ。戦闘は私達に任せなさい」

「うん。分かった」


 少しの休憩を経て、三人は最奥へと歩き出した。広い空間の中央には青白く輝くミスリルスライムが一匹いた。


「イリス。行くぞ」

「りょーかい」


 イリスとネイビスがミスリルスライムに交互に鋭い攻撃を入れていく。与えられるダメージはやはり1だった。5分ほど戦ってミスリルスライムの体が淡く光りだす。


「クソ。回復しやがった」


 ミスリルスライムの発動した魔法はヒール。回復量は最大HPの50パーセント。つまり75HP回復したことになる。


「どうするの?」

「いや。このまま押し切る」


 戦闘継続を告げるネイビス。それからも戦闘は続きミスリルスライムがミスリルの塊になるまでには何十分もの時間がかかった。


「はぁ、はぁ……」

「疲れたぁー」

「二人ともお疲れ」


 ビエラは息を荒げて座り込むイリスとネイビスに労いの言葉を言う。


「流石にああやって何度も回復させられるとキツいな」

「そうね。永遠に続くんじゃないかと思ったわ。それより早く宝箱開けましょう」


 イリスは立ち上がって尻についた砂利を叩いて落とすとミスリルスライム同様青白く輝く宝箱の元へと歩いていき、ビエラもその後を追う。


「言っとくけどその宝箱の中身は俺のもんな」


 ネイビスは宝箱の前にしゃがみ込む二人に釘を刺す。


「えー! ずるい」

「イリスちゃんが言うの?」


 ネイビスに反対するイリスだったが、まだ一つもアクセサリーを貰っていないビエラがツッコミを入れる。


「いいから開けてみな」


 ネイビスの催促を受けてイリスとビエラの二人は一緒にせーので宝箱を開ける。中には青白く輝くバングルが入っていた。珍しそうに手に取るビエラはネイビスに訊く。


「これ、もしかしてミスリルバングル?」

「正解だ。じゃあここで質問。そのミスリルバングルの効果は何だと思う?」


 ネイビスが二人に問いかけるとイリスがすぐ答えた。


「HPプラス150とVITプラス50とか?」

「ぶっぶー。不正解。ビエラは何だと思う?」

「えーっと。ノービスのネイビス君に必要な物なんだよね? うーん。分からないや」

「まぁ、これは予想するのは難しいよな。正解は経験値二倍だ」


 ネイビスが正解を告げると「経験値二倍!?」と二人は驚きの声をあげる。


「でも何でネイビスが付けるべきなの? 二つバングルつけた私はともかく、ビエラはレベル99になると攻撃スキル覚えるんでしょ? だったらビエラがつけるべきじゃないの?」


 イリスの疑問にネイビスはどう答えたものかと悩む。


「端的に言うとこの三人の中で一番必要な経験値が多いのが俺だからだよ」


 その答えに納得しないイリスが問い詰める。


「レベルアップに必要な経験値はどの職業も同じなはずよ!」

「私もそうだと思う」


 ビエラもイリスに同意した。ネイビスは転職について話すタイミングかなと思い語りだす。


「実はな。レベル99になると一つ上のランクの職業に転職できるんだ」

「転職? そういえば昨日もそんなこと言ってたわね。それって本当なの?」

「本当だ。嘘言ってどうする」

「まぁ、確かに。それも前世の知識ってやつ?」

「そうなるな」


 二人の会話を聞いていたビエラが素朴な疑問を呟く。


「あのー。レベル99ってなれるの?」

「なれるさ。ダンジョン都市って知ってるだろ? あそこにあるSランクダンジョンを周回すればすぐ上がるさ」

「Sランクってあなたねぇ。Aランクダンジョンでさえ未だクリアされてないのよ?」


 ネイビスの発言内容に呆れたイリスが聞き返す。


「そりゃ。人類最高到達レベルが67なのがいけないんだよ」


 ネイビスはこの世界の人間が弱いのがいけないのだと語る。


「まぁ、いいわ。それで、もし転職ができたとして何であなたが一番経験値が必要なのよ?」

「ノービスは一番下なんだよ。剣士見習いなら剣士に転職できるんだけど、ノービスは見習い職にしか転職出来ないんだ。だから二人よりも一回多く転職しなくちゃいけない俺がミスリルバングルをつけるべきなんだ」


 ネイビスの説得に「それなら納得」とビエラは頷く。対してイリスは「本当なの?」とどこか半信半疑だ。


「はい。ネイビス君」

「ありがとう」


 ビエラからミスリルバングルを受け取ったネイビスは右手首に付ける。どうせなら先にミスリルバングルを手に入れた方が経験値効率が良かったことにネイビスは気づくが仕方ないかと諦めることにした。


「じゃあ出るか。日が暮れる前に次の町につきたいし」


 三人は洞窟の入り口まで戻り、岩場を伝って滝から離れる。三人は再び水飛沫にびしょ濡れになってしまった。女性陣はまた着替える羽目になったが特に事件は起こらなかった。例え何が起ころうと後ろを向かないとネイビスが強く決意していたからだった。

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