第4話 隠しエリアinスライムの森

「さぁ、出発だ」


 ネイビスとイリスとビエラの三人はいよいよ隠しエリアの洞窟の探索を始めた。


「この洞窟は木の枝のように分かれ道があるんだけど、大抵分かれ道の先には宝箱があるんだ」

「宝箱ってあの物語の中に出てくる宝箱?」

「そう。だから、分かれ道を選んで進んでいくぞ。それに今このエリアにいる全てのシルバースライムとゴールデンスライムを倒したいからな」


 流石にこの隠しエリアはまだ見つかっていないと願いたい。そもそもスライムの森自体人気がないし、その奥深くにある滝の裏側なんか調べる人はまずいないだろう。そんなことをネイビスが考えていると、三人の前に銀色のスライムが現れた。


「本当だわ。シルバースライムよ!」


 シルバースライムを発見して驚くイリス。それを見てネイビスは作戦を改めて再確認する。


「作戦通りヒットアンドアウェイで手数勝負だ」

「了解!」


 剣を抜き、シルバースライムに向かって駆けるネイビスとイリス。二人の剣戟が何度もシルバースライムを襲う。だが、シルバースライムに怯む様子はない。


「これ、ダメージ入ってるの?」

「どんな攻撃でも必ず1ダメージは入る。シルバースライムの体力は30だ。30回攻撃を与えれば勝てる」

「了解」


 それから3分ほど戦って、シルバースライムの体力が尽き、銀塊が残された。


「ドロップだ! これ誰が持つの?」

「イリスが持ちたかったらいいよ」

「私も別にいいかな」

「なら私持つー!」


 銀塊はイリスの手に渡り、インベントリの中へと消えていった。


「それよりみんな。ステータス確認してみて」


 ネイビスが不敵な笑みを浮かべてそう促した。


「あれ、もう11レベルになってる! さっきまで9レベルだったのに!」

「私は9レベルだよ」

「俺は12レベル。もうみんなわかった?」


 ネイビスの質問に対してビエラが挙手をして答える。


「シルバースライムの経験値がすごく多いってこと?」

「大正解!」


 そう。シルバースライムを倒して得られる経験値はとても多いのだ。ゴールデンスライムの経験値はさらに多い。序盤でこんなボーナスステージがあってもいいのか? と疑問に思うだろうが、『ランダム勇者』ではフラグが立たないとこの隠しエリアには入ることができなかった。だが、現実世界となったこの世界ではそんなことは関係ない。


「どんどん倒してレベル上げて金も稼ぐぞー!」

「「おー!」」


 次に三人が遭遇したのはゴールデンスライムだった。


「ゴールデンはとにかく体力が多い。でも、やることはシルバーと同じ」

「わかった。行くわよ!『スラッシュ』」


 イリスが戦闘開始一番に剣士見習いの第一スキルであるスラッシュを放つ。消費MPは10。11レベルのイリスのMPは36なので3回使うことができる。これを見たネイビスは最初に食らうのが自分じゃなくてよかったとそっと胸をなでおろすのだった。

 スライムと大して変わらない挙動なので、ゴールデンスライムもあっさり倒してしまった。

 残された金塊をイリスは微笑みながら自身のインベントリの中に入れる。


「私またレベル上がった」

「俺も上がった」

「私、プチヒール覚えたよ」

「そっか。それは頼りになるな」


 みんなどんどんレベルが上がっている。いい傾向だとネイビスはほくそ笑む。


「分かれ道だね」


 最初の分岐点に来たネイビス達。イリスがネイビスに訊く。


「どっち?」

「右だな」


 即答するネイビスを訝しむイリスが訊く。


「どうして分かるのよ」

「うーん。なんとなく?」

「そもそも、この隠しエリアをなんであなたが知ってるのかも怪しかったわよね。ねぇ、ビエラ」

「うんうん」


 ここに来てネイビスの謎知識疑惑が再燃する。


「うーん。もうこの際話すか」


 ネイビスは熟考の末、正直に話すことにした。


「俺は前世の記憶がある」

「前世?」

「うん。それもこの世界ではなくて別の世界の前世の記憶」

「俄かには信じられないわね」

「私も信じられない」


 驚きを隠せない二人を見ながらネイビスは話を続ける。


「何故かその記憶の中にこの世界についての記憶があるんだ。だから俺はこの世界では誰も知らないようなことも知ってるんだ」


 ネイビスはゲームの話はぼかした。説明するのが大変だし、何よりも彼女らがゲームという作られた世界の住人である事実を教えたくなかったからだ。


「それなら少し納得かも」

「でも、なんでその前世の記憶にこの世界に関する情報があるの?」


 ビエラはなお疑問に思いネイビスに尋ねる。


「まぁ、簡単に言えば俺の前世の世界はこの世界にとっての神界みたいな物だからなぁ」

「神界? それって前世が神様ってこと?」


 イリスが目を見開いて聞き返す。


「普通に人間だったよ。でも、ある意味ではそうかも」

「なら、この世界のことよく知ってるのも分かる」


 ビエラはうんうんと首肯する。


「納得してくれたかな?」

「えぇ。まぁ、なんとか」

「ネイビスすごい人」


 ビエラに超人認定されたネイビスは「さて、行きますか」と右の道を進み始めた。


「宝箱何が入ってるんだろう」

「教えてあげよっか?」

「いや、楽しみだから教えないで」

「ヒントはすでにあるんだけどね」

「ヒントって何よ」

「それは開けた時のお楽しみ」


 道の先には開けた空間があった。そこには3匹のシルバースライムがいて、その奥には銀色の宝箱が一つ置いてあった。


「まずいな。3匹か。流石に厳しいぞ」

「確かにそうね」

「1匹ずつ誘き寄せて倒すか」


 ネイビスは少しずつ一番手前にいたシルバースライムに近づいていく。ある一定までネイビスが近づくと、シルバースライムは気づいて向かってくる。


「イリス、行くぞ」

「分かったわ」


 イリスとネイビスが向かってくるシルバースライムと戦う。ステータス的にはビエラも戦えなくはないが、僧侶見習いの彼女は自衛用の短剣しか持っていない。ビエラは二人の後ろで待機するしかなかった。

 スライムと同じ攻撃パターンのシルバースライムとの戦いにも慣れたもので、二人はシルバースライムを完封し、銀塊に変えた。同じことを繰り返して残りの2匹も銀塊に変える。


「ふぅー。なんとかなったわね」

「まぁ、ただ硬いだけのスライムだからね」

「二人ともお疲れ様。攻撃受けてない?」

「俺は平気」

「私も大丈夫よ」

「そっかぁ」


 どこか元気のないビエラを見てネイビスは尋ねる。


「どうかしたのか、ビエラ?」

「えっとね。私役に立ててないなって思って」

「そんなことないよビエラ!」

「そんなことあるよ。今回だって二人で倒しちゃったし、二人は無傷だし……」


 俯くビエラの肩にネイビスは手を置いて語りかける。


「まぁ、今は仕方ないかもな。でもレベル99になれば攻撃魔法スキル『プチホーリー』覚えるし、いずれ俺たちの被弾も出てくるから回復役は絶対に必要だ」

「そうよビエラ! ってレベル99? なんで知ってるのよ」

「まぁ、前世の記憶というやつよ」

「まったく……。あなたって人は全部それね」


 ネイビスは呆れ顔のイリスを無視してビエラの肩をポンポン叩く。


「ビエラはこのパーティーに百パーセント必要だ。だから安心しろ」

「うん。分かった。ありがとう、ネイビス君」

「いいってことよ。それじゃあ宝箱開けますか」


 ネイビスの言葉にみんなの視線が銀色の宝箱へと向かう。


「私開けたい」


 イリスがそう呟いた。


「いいよ、開けて」

「意外。あなたなら自分が開けたいって言うと思った」

「中身知ってるからね」

「そうだったわね。ビエラはいいの?」

「私は次の宝箱の時でいいよ」

「なら決まりね」


 三人は宝箱の元へと歩いて行き、イリスが宝箱の目の前でしゃがんだ。


「開けるわよ?」


 イリスはもう一度確認する。


「どうぞ」

「いいよー」


 ネイビスとビエラは同意し、イリスが宝箱を開けるのを待つ。

 イリスが慎重に宝箱を開けると、中には銀色のバングルが入っていた。イリスはそれを恐る恐る手にとって二人に見せる。


「かっこいいね。バングルかな?」

「そうね。付けてみようかしら」


 そう言うとイリスは右手首にバングルをつけた。それを見てネイビスは言う。


「その腕輪の名前はシルバーバングル。効果はVITプラス50だ」


 それを聞いてイリスは驚きの声を上げて自身のステータスを確認する。


「本当だ! VITの横にプラス50って書いてある」

「それは剣士見習いのイリスがつけるべきだな。ビエラもそれでいいか?」

「うん。私がつけてもあまり意味ないもんね」


 こうして初の宝箱の中身はイリスのものとなるのだった。

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