第3話 スライムの森
ネイビスとイリスとビエラの三人は北の門を出て森へと続く道を歩きながら作戦会議をしていた。
「属性スライムを見たら逃げる一択だ」
「情けないわね。さっき強いからこそ挑む価値があるって言ってたのは何だったのかしら」
「あれは嘘だ。こればかりはしょうがない。今の俺たちが魔法を食らったら一撃で死ぬ」
「私、怖くなってきた」
ネイビスの一撃で死ぬという表現に怖気付いてブルブルと震えるビエラ。
「本当に大丈夫なの?」
「スライムなら問題は無い。俺とイリスが近づいて倒す」
「シルバースライムとゴールデンスライムは?」
「そいつらも平気だ。シルバースライムはただ防御力がありえないほど上がったスライムだし、ゴールデンスライムはただ体力がありえないほど上がったスライムだ」
「銀と金を落とすのよね」
「あぁ。上手くいけば億万長者になれるかもしれないな」
そんな会話をしつつ三人はネイビスを先頭にしてスライムの森の中へと入っていった。
「うわ。いきなりファイアスライムだよ。運悪いな」
ネイビスの視線の先にはオレンジ色のスライムがいた。三人は迂回して森の中を進む。
「なんか倒せそうじゃなかった?」
イリスが遠くなったファイアスライムを見ながらそう言う。
「いや、ダメだ。属性スライムにはな、初心者殺しっていう別名があってな。見た目に反して強いから、弱いと思って挑んだ初心者をことごとく返り討ちにするんだ」
「それは怖いね」
「そうなんだ。気をつけるわ」
その後もアイススライム、ウィンドスライムと遭遇し、その度に避けて森を進む。
「そろそろスライムいないかなー」
そんなネイビスの願いが通じたのか、目の前にスライムが2匹現れた。
「2匹か。まぁ、行けるか。俺は右のスライムやるから、イリスは左な」
「わかったわ」
「そんで、ビエラは後ろで待機」
「は、はい!」
ネイビスは腰に提げた鞘から剣を抜くと、右のスライムに向けて駆け出した。
ゲームの時はただキャラを操作するだけだったバトルだったが、いざリアルとなると緊張してしまうネイビス。また、敵の挙動もゲームの時のようにはいかない。
近づくネイビスに気づいたスライムはネイビス目掛けて飛びかかる。
「うわっ!」
ネイビスは咄嗟に剣を飛びかかるスライムに向ける。ぐさっと、剣がスライムの赤い核を貫いた。スライムは形を維持できなくなり溶け出していく。
「やったわ! 倒した」
ネイビスが左を見ると、既に戦闘を終えていたイリスが誇らしげな顔をして剣を払っていた。
「あ! レベル上がった」
ビエラが嬉々とした声を上げる。
「何レベルになったの?」
イリスが尋ねると「4レベルだよー!」とぴょんぴょん跳ねて喜ぶビエラ。
相手が格下のスライムだから余裕を持って倒せた。だけどもし格上と戦うのならそう簡単にはいかない。これは命のやりとりなんだ。今まではどこかゲーム気分でいたけど、ここは現実なんだと改めて気付かされるネイビスだった。
「気を引き締めていこうか」
「スライム相手なら余裕ね」
慎重になるネイビスと調子に乗るイリス。ビエラは「二人ともすごいなぁー」と感心していた。
「それにしてもスライムって何も落とさないのね」
「核となる魔石を破壊しないと倒せないからな」
スライムだけでなく属性スライムも倒しても何も落とさない。このことが人をスライムの森から遠ざける要因になっていた。三人はさらに森の中を進んでいく。属性スライムは避けてスライムは倒す。一時間ほど森を進んで、湖の畔に来た三人は休憩することにした。
「もー! あと1レベルでスラッシュ覚えられるのに!」
ネイビスはノービスLv.11。イリスは剣士見習いLv.9。ビエラは僧侶見習いLv.7になっていた。
「もうすぐで覚えられるよ。それよりノービスの第一スキル応急処置の使い方が分からないんだけど」
「スキルを使おうって意識しながらスキル名を唱えればいいって習ったわよね」
「ネイビス君のHPが減ってないからじゃないかな」
「そうかも。でも自傷する訳にはいかないからな。また今度でいいか」
三人は休憩を終え、それぞれまた歩き始める準備をした。
「隠しエリアまではあとどのくらい?」
「あそこに見える滝があるだろ? あの裏側に隠しエリアの洞窟があるんだよ」
「へぇー。ならすぐね」
「じゃあ、早速行くか」
三人は滝の元へと向かった。
「すごいな」
ネイビスは滝を見上げて感嘆の声を漏らす。ゲームでは隠しエリアの目印にしていたけど、実際に見るとやはり迫力が違うな。
三人は岩場を伝って滝の裏側まで向かう。
「きゃー」
「うぅー」
水飛沫に抗いながらなんとか滝の裏側にたどり着いた。
「涼しかった」
「あー。冷たかった」
「うんうん」
平然とするネイビス。一方でびしょびしょになった女性陣は文句を言いながらインベントリから服を取り出した。
「ちょっとネイビス。私、着替えるから後ろ向いてて」
「私も着替えたいな」
「分かったよ。終わったら声かけろよな」
「絶対に見ないでよ!」
「分かってる」
「絶対だからね!」
「はいはい」
言われるがままに女性陣に背を向けるネイビス。衣擦れの音を聞きながらネイビスは一つ違和感を感じていた。今、彼女たちはどこから服を取り出した?
「インベントリ」
ネイビスがそう唱えると彼の目の前にアイテムウィンドウが現れた。
インベントリ
・5000ギル
・マギカード
「マギカードあったぞ!」
ネイビスは前世の記憶を思い出したことですっかりインベントリの存在をど忘れしていた。インベントリを発見したネイビスは嬉しさのあまり二人に取り出したマギカードを見せようと振り返ってしまった。
「何見てんのよ!」
「あぅー」
ネイビスは全裸のイリスと半裸のビエラを見た。イリスは咄嗟にしゃがみ込んで両腕で胸を隠し、ビエラは持っていた脱ぎたての服で体を隠す。
「すまん!」
ネイビスはすぐさま謝り再び背を向けた。だが、時既に遅し。
「覚えてなさい! 私がスラッシュを覚えたら真っ先にあなたに使ってやるんだから!」
死刑宣告を受けるネイビスだった。
洞窟に膝をついて目の前の女性に頭を下げる男がいた。もちろんイリスとネイビスである。
「この度は着替えを見てしまい本当に申し訳ありませんでした」
「本当にありえないわ。あれ程見ないでって釘を刺したのに」
「マギカードを見つけた嬉しさのあまりつい」
「それも私たちの裸を見るための口実なんじゃないの? マギカードなくても魔王倒せるとか豪語していたじゃない」
「あれは強がっていたというか、なんというか。とにかく、見るつもりは本当になかったんです」
説教をするイリスと謝罪するネイビス。そんな二人を見てビエラは笑っていた。
「とりあえず私がスラッシュを覚えたら一撃入れるの決定ね。よかったわね。応急処置試せるわよ」
「その前に俺死んじゃうんで勘弁してください」
「ふふふ」
「ビエラ。あなたも笑ってないでこの男になんか言ってやりなさい。この手の男はね、ちょっと顔がいいからってすぐに調子に乗るんだから」
「それって褒めてる?」
「褒めてない! 貶してるのよ」
ネイビスは茶髪で、それなりに整った顔をしていた。そんなネイビスを見てビエラは頬を赤く染めながら言う。
「ならネイビス君の裸を見させてください。それでチャラにしましょう」
イリスは予想外の提案に驚いたが、ネイビスは真剣な眼差しで応える。
「そんなことでいいなら俺脱ぐよ」
「あっ、脱ぐって言っても上だけでいいです……。私も見られたのは多分上だけなので」
ネイビスはそのまま上を脱ぎ、イリスとビエラはネイビスの体を見る。
「私たちの体と全然違うね」
「そうね。筋肉質というか。触ってもいいかしら?」
「いや、俺触ってないだろ。ダメです」
「そしたらスラッシュ無しにしてあげるから」
「なら触ってもいいよ」
「ビエラ。触ってもいいって」
「ええ!?」
ズカズカとネイビスの体を触るイリスと恐る恐る触るビエラ。二人が満足するのにしばらくかかった。
「もうそろそろいいですか?」
「ええ。満足したわ」
「うんうん」
異性の体に興味のあるお年頃なのだろうと納得するネイビスであった。だが、そんなネイビス自身も二人の裸を見た時のことを思い出し、二人とも着痩せするタイプなんだと心の中でガッツポーズを作るのであった。もちろん胸の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます