グレートマイグレーション
リュウ
第1話 グレートマイグレーション
全てを破壊しながら突き進むバファローの群れ。
私はその群れの中にいた。
この大移動は二度目。
前は、生まれたばかりだったので、とにかく周り遅れないように付いて行った。
付いて行かなければ、ライオンなどに襲われて食べられてしまうらしい。
「なぜ、みんな移動するの?」
私は、隣を走る兄さんに聞いた。
「なぜって?それは、食べるためさ」
不思議そうな顔をする私の顔を見た兄さんは話を続けた。
「これだけの数が居るんだ。その土地の食べ物を直ぐ食べてしまうだろ。
だから、みんなが食べれる量が必要だろ。その食べ物を求めて移動するんだ」
「そうなの。今は何処に向かっているの?」
「……それは、俺にはわからないんだ。食べ物の場所を知ってるおばさんがいるんだ。
みんな、そのおばさんに付いて行くだ。
毎年移動するだろ。食べ物をある場所をおばさんが覚えているんだ」
不思議な気がした。
何処に行くのか分かっていないのに、付いて行くなんて。
「本当に食べ物があるか分からないのに付いて行くの?」
「大丈夫さ、おばさんは沢山いるんだ。
もし、その場所に行って、食べ物が無かったら、別のおばさんがこっちよって案内してくれる」
「移動していると怖い思いもするじゃない」
「そうだな、ライオンとか襲ってくるかもな。でも、その時は僕らが守る。皆で子どもを守るんだ」
兄は、得意そうに鼻を鳴らした。
自分の周りを見てみると、若いオスのバッファローが並んで走っている。
私たち子どもは、この群れで守られていんだと思った。
その時、私の方にやってくる人に気付いて、その場を離れた。
大人が来るとやはりちょっと怖い。
その人は、背の高いお兄さんで、色白で角の取れた丸いメガネをしていた。
頭の良さそうな人だった。
顔を見た時、ドキッとした。
なんて綺麗な顔をしているんだろうと。
そして、私の目に顔を焼き付けた。
そばに行って話をしてみたい。
どんな声をしているんだろうとそのお兄さんを見ていた。
ここは、大型のショッピングモール。
小三になった私は、文具売り場で友だちに自慢するのに、可愛いキラキラしたモノを探していた。
小三だけど、友だち付き合いは結構大変なの。
お父さんやお兄ちゃんには、一ミリも分からないこと。
一通り文具コーナを見た後に、パソコンが並んでいる売り場に行った。
実は、私はキーボードも使える。少しだけ自慢できる。
キーボードを使えるようになって、物語も書いたりしていた。
”小説家になりたい”それも、私の夢の一つになっていた。
ノートパソコンの前に行き、早速、何か打ち込んでみたくなった。
昨夜、テレビでやっていた野生動物の番組を思い出し、キーボードを打った。
”バッファロー”の話。
そのお兄さんは、私の打ち込んだノートパソコンの前で止まった。
<あっ、見ている>
私の打ち込んだ文章を見ている。
急に恥ずかしくなり、顔が赤くなるのが自分でもわかった。
私はそのお兄さんを見つめていた。
<消されちゃうかもしれない。まだ、途中だったのに>
お兄さんは、キーボードを叩き始めた。
何か文章を打っている。
<何を打っているの?>
私は、見たくてしょうがなかった。
気付かれないように、売り場の棚に身を隠しながら様子を伺っていた。
一瞬、彼と眼が会った気がした。
しばらくして、彼はその場を去って行った。
私に気付いていたかもしれない。
私は、ノートパソコンを覗いた。
私の書いた文の続きが書かれていた。
私の文章を消さずに、続きを書いてくれた。
私がまだ知らない考えもしなかった事だった。
「それだけじゃないのよ。移動するのには訳があるの?」
その声に顔を向けると姉さんだった。
「食べ物を探しに行くんじゃないの?」
「そうだけど、それだけじゃないのよ。行先を決めているのは、おばさんなの。
おばさんは、毎年、会いに行くのよ」
「だれに?」
「それは、好きな人に。この群れには大きなオスがいないでしょ」
私は頷く。
「大きな身体になると、この移動は大変なのよ。
で、あるところに留まるの。この大移動の途中にね。
私たちを待っていてくれるの。無事、この移動が終わるようにね。
おばさんたちは、その大きな身体の彼に会いに行くのよ。
大好きな彼にね。素敵でしょ」
姉さんは、私にウインクして行ってしまった。
そうか、大好きな彼に会いに行くんだ。
私にも大好きな彼が見つかるのだろうか。
そして、大好きな彼に会うために大移動に参加する。
ちょっと、素敵な理由をみつけた。
十五年後、私は小説家になっていた。
ショッピングモールで出会ったお兄さんは、
出合った途中から私の彼になり、
今は私の夫である。
グレートマイグレーション リュウ @ryu_labo
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