第3話 天与の力と天の賜物

「こいつらが、俺達の仕事の邪魔をしたんだ!」

「はぁ? アタシたちはアタシたちの仕事をしたまででしょ、文句言われる筋合いはないんだけど?」


 言い争いをしていた二人、ラルフとミリティがそれぞれを非難した。


「なるほど。仕事上のトラブルってことか。それならチームで場所と時間を決めて話し合いをすればいいだろ。調停官を挟んで正式な調停を行えば、白黒はっきりするはずだ。なんで往来で喧嘩することになるんだ?」


 俺が理路整然と言い聞かせると、二人がふくれっ面を向ける。


「そういう話じゃないだろ!」

「そうじゃないのよ!」


 いきなり二人から怒鳴られた。

 理不尽だろ?


「ならどういうことだ。わかるように説明しろ。お前らに憧れている弟妹たちにもちゃんとわかるように、な!」


 俺が語気を強めてそう言うと、周囲を見回して、二人の昂っていた気持ちも落ち着いたようだ。

 弟妹と言っても血がつながっているわけではないが、下町の人間はみな家族のように親密で、仲間を大事にする。

 自分たちに憧れる子どもたちを前に恥ずかしいことはできないだろう。


 ラルフとミリティの二人は視線で牽制しあったあと、何かを合意したようにラルフが口を開いた。

 そういうところ、本当は仲がいいとしか思えないんだが……。


「俺が探索者チームのリーダーをやっていることはケイさんも知っているよな?」

「ああ、もちろんだ」


 なんなら下積みの時代も知っているぞ。


「それで、依頼を受けて、遺跡調査前の事前探索を行ったんだ」

「ああ、いわゆるマッピングってやつか」


 この帝都の地形は少し特殊で、地下には大規模な遺跡が眠っている。

 歴史的背景を手がかりに、学者や研究者、遺物調査などのグループが定期的に遺跡の掘り出しやら確認やらを行っているのだが、何しろ地下は複雑な通路が交錯していて、その上、魔物やら守護者ガーディアンやらが徘徊してたりするので、事前探索は必須なのだ。


「それをこいつら遺跡荒らしがむちゃくちゃにしやがって!」

「人聞きの悪いことを言うな! アタシらは遺跡荒らしなんかじゃないぞ! ちゃんと国の認可を受けた討伐者チームだ!」

「あー、なるほど」


 やっとここに来て争いごとの焦点が見えて来た。

 仕事場所が被ったってことか。


「は? 通路の一つを崩落させて、封印されてた守護者ガーディアンを起動して、目的の場所への安全な経路がなくなったんだが? 今度の調査は国のバックアップを受けているヤツだからな! お前ら、罰金だけで済むと思うなよ!」

「アタシらだって、正式な依頼を受けての討伐なんだから、処罰を受けるはずがないっしょ。国だって討伐者ギルドにそっぽを向かれたら大変なことになるってわかってるからね」

「少しばかり強いからって傲慢ごうまんになりやがって!」

「アタシの強さは天から与えられたもの、ラルフのほうこそ天からの贈り物があるんだから、アタシが特別みたいな言い方、おかしいよね!」


 あ、喧嘩の方向性がちょっとズレているな。

 もともとは仕事の話がこじれたもんだが、それがこじれた原因は感情的なものか。


 ミリティの言っている天から与えられた力、と天からの贈り物、とは似ているようで違うものだ。

 天から与えられた……いわゆる天与の力というのは、種族特性のことで、身体的な特徴を意味する。

 天からの贈り物というのは、天の賜物たまものとかギフト(ほんとにこう発音する。転生者がそう呼んだのかもしれない)とも呼ばれている、超常の力のことだ。

 前世のゲーム的に言えば、魔法やスキル、みたいなもの? かなぁ。


 実はこのギフトについては、わかっていないことが多い。

 前世の世界のゲームみたいに表示されないし、調べる方法があまりないのだ。

 なんとなく使えた、みたいなのが多い。

 専門に調べている学者はいるし、なぜか神殿に記録が残っているらしいんだけど、ギフトに目覚めた本人以外はそれほど興味を持つ者もいないので、普段はあまり話題に出ないぐらいだ。


 ただし、討伐者や探索者なんかの特殊な仕事をやるには、どっちかの能力があったほうが当然有利なので、この二人にとっては重要な話題なのだろう。


「お前たちさ、どっちも特別な力を持っているんだろ」


 言い争う二人に、俺はそう言った。

 二人は、いったん口をつぐんでこっちを見たが、それがどうした? って表情だ。


「それで、昔はその力で二人は助け合って仲間を守っていたよな?」


 昔の話を俺が持ち出すと、二人共、なんとなくバツが悪そうな顔になる。


「なんで今は協力できないんだ?」

「そ、それは、討伐者と探索者は、役割が違うから!」

「そもそも破壊ばっかのこいつと俺とじゃ、もともと相性が悪かったんだよ」

「っ! そういうこと、言う?」


 ラルフの吐き捨てるような言葉に、ミリティの表情が憤怒ふんぬに変わった。


「そんなことはない」


 俺はきっぱりと言い切ってみせる。

 今にも殴り合いそうだった二人は、ハッとしたように俺を見た。


「あの頃のお前たちはいい相棒だった。俺は知ってる。お前たちに守ってもらう立場だった仲間たちだって知っていたはずだ」

「うん!」


 それまで二人をハラハラと見守っていた子どもたちのなかの、年長組が声を上げる。


「私、二人にあこがれてた!」

「お、おれ、も」

「はいはい! ボクも~!」


 かつての仲間たちの声に、二人はグッと口をつぐんだ。

 顔を赤くして、少し恥じているようにも見える。


「いつまでも……子どものままじゃいられない、から」


 ラルフがそうポツリと言った。

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