第44話 禁呪(緑玉色の鱗と死の口づけ)

妖が歌を歌い終わる時には、姜文と陸信は意識を失い倒れていた。


倒れた二人を見つめ、妖は徐福へ静かに告げる。


『これで、暫くの間は眠っている事でしょう。』


『それでは、早速、ワシの寿命から20年を凛凛へあげてやってくれ!。』


『・・・・。』、仙女の姿をした妖は沈黙したまま、徐福を心配する様に見つめる。


『・・・徐福様、それでは抱いておられる凛凛をあちらに寝かせて下さい。』と、焚き火から少し離れた場所の地面を指さす。


『ウム、分かった。』と徐福は、妖から指定された場所に凛凛をユックリと大事に寝かせる。


『此処で良いのう。』と徐福が、妖の顔をみて確認する。


妖は、徐福の顔を見て無言で頷く。


徐福が、妖の傍に戻って来ると、妖は、自分が着ている衣の中から1枚の小さく美しい緑玉色エメラルドいろ欠片かけらてのひらに取り出すと、『Ō。』と聞き取れない呪文を唱える。


呪文と共に、その緑玉色の物質は妖の手から離れ、宙を浮き、ゆっくりと凛凛が寝かせられている方向へ飛んでいく。


緑玉色エメラルドいろ欠片かけらが、凛凛の額の上に静かにくっつく。


徐福は、その欠片が何なのかと視線を凝らしてよく見る。


『其方の鱗か、あれは?』


『ハイ、これで私の身体と、凛凛の身体が繋がりました。』


『禁呪を使う際は、私は元の姿に戻らなければなりませぬ・・・。』


『徐福様、宜しければ、お目を・・・、瞑ってくれませぬか?』


『何故じゃ、ワシはお前の以前の姿を知っておる、大丈夫じゃ。』


『・・・・、私が見せたくないのです。』と無表情だった妖は初めて表情を変え、恥ずかしそうに自分の本音を言葉に出す。


『其方がその方が良いのであれば・・、分かった。』と言い、徐福は目を瞑る。


妖は、徐福が目を瞑ったのを確認すると、妖も目を瞑った。


目を瞑った妖の顔が、少しづつ変形していく。美しい仙女の顔から、2本の角が伸びる。


一本は、半ばから折れており、正常な法の一本と比べると明らかに短い。


角が伸び切った後は、今度は目が少しずつ吊り上がり、犬歯が伸びる。


変化が止まると、その顔は般若の様な顔になっていた。


但し、顔が変化しただけで、身体の大きさと足の2本はそのままであった。


顔が変形すると、妖は目を瞑っている徐福の手を自分の手をあわせて、そして握る。


『徐福様、今から私が貴女様の命を吸わせて頂きます。貴方様から吸った命は、私の鱗を通し凛凛へと流れます。』


『禁呪が終わるまで決して、私の手を離さないで下さい。離した途端に禁呪は解かれ、終了します。』


『手を離さなければいいのじゃな。分った。絶対に離さんぞ、離してたまるか。』と言いながら、徐福は妖と手を繋いでいる方の手に力を込める。


『それでは、いきます。御覚悟を!。』


『頼む!!。』


徐福が妖へ声をかけた後、徐福と妖のつないだ手から、うっすらと光る。


妖の折れていない方の角から、淡い光線が放射され、凛凛の額にある緑玉色の鱗へ向かっていく。

緑玉色の鱗は、光を受けながら、ユックリと点滅をする。

点滅する度に、緑玉色の鱗が青色に少しずつ変わる。


『・・・・・。』、沈黙の中、暫くの間は粛々と光が凛凛の額の鱗に放射された。


妖は禁呪をする中、凛凛の鱗の状態と、自分の角から放射する徐福の命のからなる光線の状態を注視する。


最初は太かった角からの光が時間が経過すると共にどんどん細くなっていく。


『グウ・・・、もう限界じゃ。妖よ、未だか、未だ20年分には足らぬのか?』と徐福が苦痛に耐える様に声を絞り出す。


『もう少しです。・・・。』と言いながら、妖は徐福を悲しそうな目で見つめる。


徐福の髪は総てが黒髪から白髪になっており、その髪も1/4が抜け落ちている。


『・・徐福様、このままでは幾何の間もなく、死んでしまいます。御止めになりますか?。』


『・・・・助けてくれぃ・・・。凛凛を・・・。ワシは死んでも良い。ワシの命を総て凛凛に。』


『徐福様、貴方様は、本当に愚かな・・・愚かな御人おひとです。』と、般若の顔の妖は、非難する様にヒステリックな声を出す。


声を出した妖は、握っていた徐福の手を引っ張り上げる。そして、何を思ったか、徐福の身体を抱きしめると徐福の口と自分の口を合わせ、口づけを交わす。


唇の感触を受け、徐福は、瞑っていた目を開ける。

其処には、泣いている仙女の顔があった。


(人生の最期に、美女の口づけをうけて死ねるとは・・・。)


口から、徐福の全生命を吸い上げると、角から出る光線は一瞬太くなり、その後どんどん細くなり止まった。


光線が止まった後、凛凛の額の鱗は、緑玉色から青色に変わっていた。


妖は、徐福の願いを受け、死の接吻を施したのであった。


徐福の死を悲しむように、凛凛の泣き声が焚き火が照らす薄明かりの浜辺に響く。


禁呪が終わり、仙女の姿に戻った妖も、徐福の亡骸を抱いたまま、立ち上がれず、声も出せずに泣いていた。


妖の心を動かし助力を受け、凛凛に20年の寿命を渡し切った徐福の顔は眠る様に安らかであった。


徐福が起こした最期の奇跡だった。

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