第43話 月夜の晩に

姜文きょうぶん陸信りくしん凛凛リャンリャンを浜辺に連れて来た。


『・・・徐福様、その女性の御方は誰ですか?。』と陸信が徐福の前にいる妖を見て徐福へ質問する。


『陸信、この者は、あや・・・、いや、仙女殿じゃ。』


『今日は、凛凛の身体の中にやまいが無いかどうかの確認をして下さるのじゃ。』


『私の娘が、病になるのですか??。』と陸信が、驚いた様に聞き直す。


『いや、未だそれは分からん。その可能性が有るかもしれん、それを確認してもらう為に仙女殿に来てもらったのじゃ。』


『もし、病の気があったとしても、私がその病を治すから、安心してくれ。』と姜文が陸信を落ち着かせるように言う。


『・・・とにかく、確認して頂くのが先じゃ、陸信、気持ちは分かるがワシを信じて、凛凛をワシに渡してくれ・・。』


『・・・徐福様、娘を宜しくお願い致します。』、陸信は覚悟を決めている様に少し考えた後、凛凛を徐福へ慎重に手渡した。


徐福が凛凛を抱き受けると、『エェㇷ・・。』と凛凛が嬉しそうな笑顔と共に未だ言葉にならない笑い声を上げる。


徐福は、そんな凛凛の笑顔に答える様に、抱いてる両手にほんのわずか力を込め、優しくそしてより慎重に抱きかかえ、仙女の姿をした妖の傍に歩きよる。


無表情な美女の顔をした妖は、陸信と徐福に宝物の様に大事に扱われる凛凛の顔を不思議そうに眺める。


『仙女殿、何をボンヤリしておられる。お約束通り、凛凛が病の気を食べているかの確認をして下され。』と、固まっている妖を見かねた徐福が言葉をかける。


『徐福さ、徐福殿、この赤子を、凛凛を一度で良いから、私に抱かせてくれませぬか?。』


『何を言われる・・・、それは、儀式と関係あるのですか?』と意外な提案を受けた徐福は、先ず驚き、少し疑う様に妖の真意を聞いた。


『・・・・。』、妖は沈黙し答えない。


徐福は、父親の陸信を見て、同意を得る様な顔をして、陸信の表情をうかがう。


陸信は、勇気を振り絞る様に徐福の顔をみて何度も頷いてみせている、それを見た徐福もまた覚悟をした様に妖に凛凛を手渡す。


最初、無表情の仙女は、ぎこちなく凛凛を抱いた。


周囲の者達が緊張して見守る中、妖は陸信と徐福の抱き方を、思い出す様に少しづつ抱き方を変えていく。


抱き方が改善されていくことに、凛凛の表情からも緊張が無くなっていく。


仙女の抱き方が少しサマになると、『エェㇷ・・。』と凛凛が合格を告げる様に無邪気な笑い声をあげた。


『この赤子は、凛凛は、あたたかい、暖かい、ですね。徐福様。』と無表情な仙女は感じた事をそのまま言葉に出した。


『それが、命じゃよ。』と、妖の感想に、諭すように優しく言葉を返す。


『いのち・・・。』と妖は無表情のまま繰り返す。


『仙女殿、もう良いじゃろう。確認を始めてくれぃ。』と徐福が言うと、仙女もまた丁重に凛凛を徐福へ手渡す。


再び徐福へ抱きかかえられた凛凛のひたいを、妖は優しく触る。


『Ō。』と、妖が聞き取れない言葉を上げたと思うと、仙女の身体が少しづつ青く光り出す。


仙女の手に触れられていた凛凛の額も、少しずつ青い光を帯びていく、その光は、額から全身に広がる。


凛凛の様子を見て、妖は徐福の顔を見る。


『徐福様、残念ですが、凛凛の身体の中に、あります。』


『・・・。そうか。』と徐福は、悲しそうに呟く。


二人を包んでいた青い光は、徐々に弱くなり、暫くすると消失した。


光が消失したのを確認して、徐福が妖に言葉をかける。


『仙女殿、それでは、約束通り頼む。』


『・・・分かりました。』


『姜文、陸信、全てはワシの責任じゃ。スマン許してくれい。』


『姜文、後は頼む。ワシの分迄生きて、幸せにいきてくれよ。』


『徐福様、何を言われるのです・・まさ・・。』


徐福が言葉を言い終わり、姜文が何かに気づき、慌てて徐福へ近寄ろうとする時、仙女は悲しい声で歌い出したのである。


姜文は、抵抗しようとしたが、歌の呪力に勝てずその場で意識を失ったのである。

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