第42話 密談
昼食を取りながら、徐福と姜文は1日の段取りを話していた。
『陸信には、前もって打ち明けなくてはなるまいて・・・。』
『私は、凛凛が角を食べたかどうかがはっきりした後の方が良いと思われます。』
『食べていなければ、いらぬ心配をかける事になりますし・・・。』
『もし、食べてしまっていたら、ワシはどうやって責任を取ればいいのじゃ、いや取れるのか・・?。』
徐福はそう言いながら頭を抱える。
『妖が言っていた禁呪の法についても、確認しなければなりませんね。20年という寿命を限定する事ができるのかどうか・・。流石に私も未だ直ぐには死にたくありませんので・・。』と姜文は既に決まり事項の様に淡々と言う。
『お主、何を言っておるのじゃ。凛凛には、ワシの寿命から20年やれば良いのじゃ、お主の寿命なぞ、必要ない。愚かな事を申すな!。』と、姜文の言葉を聞いた徐福は怒り、叱りつける様に言った。
『・・・徐福様、お言葉ですが、自分の寿命が後20年残っていると本気で思っているのですか?』
『これは、凛凛の人生がかかっているのです。失敗が許されない事です。徐福様、感情的ならず冷静に考えてみて下さい。』と姜文はピシャリと言いきった。
『・・・・。』、徐福は姜文に理屈では言い返せず、苦悶の表情になったが沈黙する事しか出来なかった。
『とにかく、夜私が陸信と凛凛を迎えに行き、浜辺にいきますので、それまでに妖を浜辺に呼んでおいて下さい。』と、姜文は言うと、徐福の心情を察してか、席を立ち外へ出て行ってしまった。
夕方になり、日が暮れそうになると徐福は一人で浜辺に向かった。
その日集落の民達には、外出禁止を呼び掛けていた為、浜辺には誰もいなかった。
うす暗い浜辺で、徐福は火をおこし焚火をする。
焚火の火が安定したのを確認すると、徐福は言葉を届ける呪文を唱えながら、妖に呼びかける。
『妖よ我は此処なり、此処へきてくれい、相談したい事がある。』
徐福は、焚火の隣に座り、海の方向を見て祈祷する様に言葉を繰り返す。
日が完全に沈み、真っ暗になった浜辺には、焚火の火が風に揺られ勢いを増していく。
そんな中、一瞬風が止まった。静かな、しかし途切れない波音が、すこしづつ大きくなってきた。
波音と共に徐福の座っている位置の近くに気配近づいてくる。
『徐福様、お約束どおり、参りました。』と其処には仙女の姿をした妖が2本足で海の上に立っていた。
『相談ごととは、何でしょうか?。』と、無表情な仙女は徐福へ質問する。
『ウム、禁呪の法についてなのだが、二人の寿命から20年赤子に与えるという事はできるか、確認したかったのじゃ。』
『出来ませぬ。』
『それでは、一人が先ずは禁呪を行い、その者の寿命を総て使い切り、その後、足りない分を別の者の寿命から補充する事は・・。』
『残念ですが・・・。』
『徐福様、私は貴方様に命を助けられました。そんな私が言うのも可笑しい事かもしれませんが、どうして貴方様は、あの時私を助け、今自分の命をかけてまでその赤子に20年の月日を与えようとしているのですか?。』
『自分の子でもない、赤子を命を懸けて助けたいと、私が知る人間達には貴方様の様な者はいなかった。』
『ワシにも分らん、そんな事。凛凛の為なら、こんな老いぼれたワシの20年なんか、くれてやってもいいと思う。』
『しかし、姜文の・・、何時もワシの傍にいる生意気そうな奴がいるじゃろ・・、あ奴が禁呪をして死ぬのだけは、勘弁してもらいたいのじゃ。あ奴は、ワシの息子の様な者じゃからな・・。』
『息子の様な者とは、その者も徐福様自身の子ではない、その方の代わりに禁呪を行うと・・・。』
『徐福様、やはり、貴方もその方も、私には理解できない不思議な御人じゃ・・。』
『妖よ、我ら人間は、不老不死ではない。しかし、ワシが死んでも思い出は残る。思い出を共有した次世代の者がいる事が、自分達の存在する意味なのじゃ。子が無いワシが言うのも何だが、そう言う意味で人もまた不死なのじゃ。』
『・・・・・。よく分かりませぬ。』
『そうじゃな、言っているワシも、よく分からん・・。』と徐福は、困っている顔の妖に優しく微笑みかける。
妖は、そんな徐福の顔がとても魅力的に思え、その理由が分らず、暫くの間見つめていた。
『なんじゃ、ワシの顔に泥でもついておるのか、そんな目で見られると照れてしまうではないか・・。』
徐福は、話題をかえる様に言うと、真面目な表情になり、仙女の妖に語りかける。
『妖よ、二つ頼みがある。』
『私が出来る事があれば、何なりと・・。』
『もし、凛凛が角を食べていた場合・・・・・・・。』
妖は、徐福の頼みを聞いた後、少し困った表情をして、考える。
『・・・分りました。徐福様の願いとあれば・・。』
『スマヌな、感謝する。お主も良い妖じゃな・。』と徐福は言い、妖に深々と頭を下げた。
二人が、会話を終えた後、暫くすると、姜文と陸信が凛凛を連れ浜辺にやって来たのである。
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