第41話 思い出の晩餐

蘭華が徐福と姜文の家を訪問した日は、満月の日の3日前であった。


蘭華が二人の家に到着した時、姜文は台所におり野菜や肉を切っていた。


徐福は、食事をする場所の掃除を任されたらしく、せっせと一生懸命掃除をしていた。


蘭華は、はじめ姜文の手伝いをするつもりで来たのだが、徐福のその姿をみて最終的に徐福の掃除の手伝いをする事にした。


『蘭華殿、今日はお主は客人じゃからのう、其処で座ってお茶でも飲んでいれば良いのじゃ。』と徐福は、蘭華に手伝いをさせたくない様な事を言う。


『徐福様が、手を抜かない様に監視させて頂きますよ。』と蘭華は徐福に冗談を言いながら、徐福が掃除している場所とは別の処を掃除をする。


口とは裏腹に、徐福の場所には干渉せず、黙々と自分の担当範囲を黙々と掃除をしだす。


部屋には、薬草を擦りつぶす道具や、薬草が束ねておいてある。


医術の書物(竹簡)や神仙思想に関る書物も有る。


蘭華は、大事な書物を何処へ置くべきか、薬草を何処にしまうかと、その都度徐福へ聞き指示を仰ぐ。


『徐福様、このキツイ匂いがする塗り薬は、何処にしまえばよろしいですか?。この書物は何処にまとめればよろしいですか?』


『その薬は、其処の引き出しに、書物はワシが受け取ろう・・・。』


徐福も、面倒臭がらず、ニコニコしながら蘭華へ指示をする。


『御二人の家、統治される御方の家というよりも、お薬屋みたいですね。』


『そうじゃな、ワシらが皆にできる事は、よく効く塗り薬をつくる事ぐらいだからなあ。』


『蘭華殿達が取って来てくれる薬草が、あっての事で、本当に何時も助かっておりますぞ。』


『実は、10年以上前、ワシは山奥で仙人になる修業をしながら、山でケガした者を世話する生活をしておっての。実はあの生意気な姜文も、その時の患者の一人だったのじゃ。』


『昔は、あ奴も、カワイイ・・・、いや違うな、幼いくせに、ワシよりしっかりした事をいう奴じゃった。』


『今じゃ、ワシへの尊敬の念などない様な態度じゃ・・・老人虐待じゃ、蘭華殿もそう思うじゃろ??。』


徐福は、真面目な顔で蘭華へ同意を求める様に聞く。


蘭華は、クスクスと笑いながら、楽しそうに答える。


『二人は、私から見ると実の親子のようですよ。二人の仲の良さを見ると、羨ましくなります。』


『そうかのう・・・。』と徐福も、親子の様だと言われ、まんざらでもない様に嬉しそうに笑顔になる。


『そうですよ。』


二人は、そんな会話を楽しみながら協力して掃除を終わらせ、食事が来ても良い様にと御膳おぜんもかたづけた。


準備が整ったぐらいに、姜文が台所から鍋を持ってきて御膳に置く。


『今日は、腕にりをかけましたよ。』


取り皿になる器を、徐福と蘭華が速やかに台所へ取りに行く。


『蘭華殿、この皿を持って行ってくれ、ワシはこれを持って行く。』


徐福は、そう言うと、台所に隠してあった酒瓶を持ち、指が一本足りない手で器用に片手で盃を3つ持つ。


蘭華は、姜文より徐福の片手の指が一本足りない理由を教えてもらっていたので、表情を変えずそんな徐福を静かに見守った。


二人が台所から、席に戻ると3人の楽しい晩餐は始まった。


徐福と姜文の漫才のような会話を蘭華が笑いながら聞き、食事をする。

酒がすすみ、徐福が蘭華に姜文の愚痴をいう、蘭華は時には、徐福に同意し、時には反論する。

上手く二人の中立にたち、それが自然で、3人の話はバランスよく盛り上がる。


徐福が姜文と蘭華を冷やかすようなことを言うと、蘭華が本気になって顔を赤らめる事があったり、3人の会話は盛り上がり、楽しい時間を過ごした。


晩餐が終わり、蘭華が家に帰える時間になると、徐福と、姜文の二人で彼女の家まで送った。


蘭華は、見送りはいらないと遠慮したが、二人の熱意に負け、二人に甘える事にしたのである。


蘭華を家まで送った後、徐福と姜文はほろ酔いで家路を辿る。


『姜文よ。蘭華殿は良い女性ひとだな。』


『そうですね、キツイところも有りますが心根が優しい方です。』


『掃除をしている時にな。蘭華殿が、ワシらが実の親子の様に見えると、言っておった。』


『そう言われたせいかのう、今日、夕食を食べながら、父親の気持ちになっておった・・。』


『思えば、十数年前、お主と会ったお蔭で、ワシは寂しさを感じず生きてこれた。』


『お主がいてくれたお蔭じゃ・・・。』


『徐福様、それは私も一緒です。色々苦労はさせられましたが、それも楽しい思い出です。』


『今日は、気分がいい、帰って飲みなおすか?。』


『そうですね。明日、二日酔いになっていても、いくら蘭華殿でも怒れないでしょうし・・。』


『飲みますか・・。』


『そうじゃな・・。お主、蘭華殿とどうなのじゃ?』


『徐福様、家まで競争です、先へいきますよ。』


『待て、ずるいぞ。・・・ワシの年を考えよ。』


実の親子ではない二人が、十数年の間共に生き、親子の様な絆を育んでいた。

徐福は姜文の幸せを願い、姜文は徐福を父親の様に慕っていたのである。


そして、運命の満月の日が訪れる。

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