第40話 逢瀬(おうせ)
その日、姜文は3ヶ月ぶりに
『スイマセン。大変遅くなりましたが以前、頂いた山菜とキノコ、美味しく頂きました。』
『有難うございました。』と姜文が言うと、蘭華は困った様な表情をして一瞬考え込み、そして笑い出した。
『姜文様、3ヶ月も前の事、私、すっかり忘れておりました。』
『仕方ありませんね。あれからお二人は、ほとんど海に出ておられましたものね。』
『お顔も日焼けして、少し
『・・・申し訳ない。』と姜文が困った様に弱弱しく言う。
『徐福様もその後、お変わりありませんか??』
『御蔭様で・・・ピンピンしております。』と苦笑いをしながら姜文は答える。
『フフフ。』と元気な徐福の顔を思い浮かべたのか、蘭華は笑い出す。
『徐福様にお伝えください。今度二日酔いになっていたら、私が承知しないと・・。』、と言いながら蘭華は右手を握り、拳を上に上げ、子供を叱る前に驚かそうとする母親の様な素振りをする。
起こった時の徐福の顔を想像しているのか、それともその自分の素振りが可笑しいのか、蘭華は幸せそうに笑い出す。
徐福と姜文が3ヶ月、不老不死の霊薬を持つ妖を探しに海に出ていたのは、集落の者達の間では周知の事実である。
しかし、蘭華はあえてその事には触れず、久しぶりの姜文との会話を楽しんでいるみたいであった。
姜文が蘭華に惹かれる理由は、其処にある。
蘭華という女性は、自立している。自立しているのは、生活がという事ではなく、世界が自立しているのである。
言葉で言い表すのは難しい。
社会があって彼女がいるのではなく、彼女がいて社会がある、そんな感じであると姜文は思っている。
自分以外の者が、何をしていようと自分に関係が無ければ無頓着なのである。
彼女にとっては、集落の指導者である徐福と姜文も例外ではなく、礼儀を持って接していたが、心の何処かで自分と対等という気持ちがあり、だからこそ友人にもなれるし、仲良くなれる。
姜文は、蘭華のそんな処が好きだった。
『蘭華殿が、毎日家に来てくれて、徐福様を
(蘭華殿、いっそ私の嫁になってはくれませぬか・・・。)と言いたくなるのを姜文は飲み込んだ。
なぜなら、満月の夜、凛凛が人魚の角を飲んだかどうかの確認をする事が決まっている。
もしも凛凛が人魚の角を飲んでいた場合、自分の寿命から凛凛に20年をあげなければならないと姜文は思っていたのである。
『蘭華殿、もし、私が病気になって、徐福様の面倒がみれなくなったら、その時はお願い致します。』
姜文は、自分の本音を抑え、口から出す言葉を変えた。
『縁起でもない!!姜文様、言っていい冗談と、悪い冗談があります。』と、蘭華は怒って思わず、姜文を叩いた。
『仕方が無いですから、私がちょくちょくお二人の住まい迄行って、料理を作ってあげますよ。徐福様も姜文様も病気にならない様に・・。』と蘭華は怒った様に続ける。
しかし、その顔は真っ赤で、何時ものリンゴの様になっていた。
姜文は彼女が怒っていると誤解した。
実際、蘭華自身は勇気を振り絞って姜文との関係を深めていきたいと宣言したつもりで、それが恥ずかしく頬を赤らめていたのである。
『蘭華殿、明日の夜、宜しければ、我が家に招待したいのですが?大丈夫ですか?。』
『何ですか?突然・・。』と、蘭華は驚いたように言葉をあげた。
『いえ、以前頂いた山菜とキノコのお礼に、料理は私がしますので・・・。徐福様もきっと喜びます。』
『だったら、私が御二人の家に早く行きます。姜文様のお手伝いをさせて下さい。』
『それでは、お礼になりませんよ。』
『いいのです。お礼になります。お手伝いさせて下さい。』
『・・・・・。・・分りました。』
『蘭華殿、何かお好きなモノは?嫌いなモノは有りますか?。』
『蘭華殿、これから私は貴方をリンゴ殿とお呼びしてもよろしいですか?』
『嫌です。どうして私がリンゴなのですか?』
『・・・、スイマセン、忘れて下さい・・。』
その日、二人は仕事の話はほとんどせず、次の日に作る料理の話や、お互いの好き嫌いを話し、盛り上がった。
他の者が二人のやり取りをみれば、二人が
それが、最初で最後の二人の
※逢瀬:愛し合う男女が密かに会う機会。
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